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君はレース業界でどんな開発をしたいのか?
こんにちは、ドイツレースチームで働く山下です。
レース業界のエンジニアと言っても様々な職種があります。
僕はデータエンジニアですが、チームにはレースエンジニアやテクニカルディレクターなどもいます。このようなレースチームでの職種別の役割については、Webや書籍でチラホラ見たことがあります。
一方で、様々な企業が関わるレース業界において、エンジニアの役割は業界内のポジションにも大きく影響されます。僕はこれまで自動車メーカ、部品サプライヤ、レースチームで働いたことがあります。
そこで本記事では、レース業界の構造を起点に、各所属先でエンジニアがどのような開発を行っているのかを説明しようと思います。
学生時代の僕は本当に何も分かっていないまま、F1、レース業界を目指していました。あくまで僕が国内外6年間で経験した範囲のため、厳密にはズレている箇所もあるかも知れませんが、大枠のイメージは掴めると思います。業界の裏側やレース業界におけるエンジニアの仕事に興味がある人に参考になれば嬉しいです。
(1) 君はレース業界で、どんなエンジニアになりたいのか?
国内レースで働き始めて3年目、僕はSuperGT(SGT)の技術サポートを行うため毎戦レースに帯同していました。富士スピードウェイの控え室で、僕がPCでロギングデータ(走行データ)を見ているとHさんがやって来ました。
Hさんはレース業界に20年以上おり、F1、SGT, SFなど多くのレース現場で働いた経験のある電装系のベテランエンジニアです (現在はHonda F1電装設計を担当)。
この頃は、僕が電装設計を担当したSGT300車両の1年目だったため、よくHさんとはデータや情報を共有したり、相談させてもらっていました。仕事の話が終わり雑談していると、Hさんは僕に質問をしました。
「君はレース業界で、どんなエンジニアになりたいの?やりたい事があるなら、将来的には自分が所属すべき会社と、どんなエンジニアとしてレースに携わっていくのかも考えた方がいいよ」
僕はこの質問を受けて、改めて自分のやりたい仕事とレース業界の構造を考えるようになりました。
(2) レース車両の開発とは?
レース業界を俯瞰的に見ると下図のように自動車メーカを頂点としたピラミッド構造が構成されていると分かります。そのピラミッドにタイヤメーカ、サプライヤが横からサポートしている感じになります。ちなみにレース現場で働く人数は、1番多いのがレースチーム、次にエンジンチューナ、最後に自動車メーカになります。
では各層でのエンジニアの役割はどう違うのでしょうか?
実はひと口に“レース車両開発”と言っても自動車メーカとレースチームにおける開発の意味は全く異なります。
(2-1) 自動車メーカ
自動車メーカでのレース車両開発とは、レース車両のコンセプトを考え、実際の走る車両まで落とし込む所までです。この開発では車両性能、耐久性、どのような機能が必要かの検討から始めます。基本的にレースカテゴリは数年に一回大規模なレギュレーション変更があるので、その2年前位からは検討が始まります。この場合はゼロから車両を設計し、トラブルシューティングを行う必要があります。
問題なく車両が走るようになると、車両やエンジンはエンジンチューナ、レースチームにデリバリします。この時点で既に量産車とは一線を画すレーシングカーではありますが、真の意味での最適化されたレーシングカーではありません。
(2-2) エンジンチューナ
エンジンチューナ(M-tec, TRD, NISMO)は自分のチームを持っている場合もありますが、主にはレースチームと自動車メーカの架け橋的な仕事を行います。
エンジンの仕様変更やエンジンのレース用マップ作りなどはチューナが行います。
基本的にはレースチームはエンジンの仕様を変更できません。故にエンジンチューナはレースチームと密に打ち合わせを行い、レース現場でのエンジンに関しては殆どの責任を持って作業しています。レースイベントに各メーカごとのエンジンチューナのエンジニアが帯同してレースチームをサポートしています。
(2-3) レースチーム
レースチームに関しては各サーキットに最適な車両セットアップを見つけることが、主な開発作業になります。キャンバー角、ダンパーやアンチロールバー、空力パーツなどを組み合わせて各イベント専用の最適なセッティングを見つけます。上述のようにエンジンはエンジンチューナが主に開発するので、レースチームは車体を中心に開発することになります。場合によって、必要な空力パーツなどは自作することもあります。
エンジンチューナとチームでの開発によって、各サーキットに最適化されたレーシングカーになります。
イベント中のピット戦略、タイヤ戦略を考えるのもレースチームの役割になります。
(2-4) タイヤメーカ、パーツサプライヤ
タイヤメーカ、パーツサプライヤになると所属によってどの階層と一緒に仕事をするかが決まります。タイヤメーカであればレースチームと非常に近い距離で仕事をします。ドライバー、エンジニアからタイヤに対するフィードバック、温度、内圧情報を共有してもらいタイヤ開発に生かします。
2020年からSGT500のオフィシャルサプライヤとなったBoschを例に考えた場合、開発対象は電装システム(車載のコンピュータ)になります。これはどちらかと言うと車両の機能の一つでコンセプト側の開発に近く、レースチームの開発範囲外となります。そのため、主には自動車メーカ及びエンジンチューナと連携して電装システムを開発することになるはずです。
(3) まとめ
レース業界のピラミッド構造における各層での開発についてまとめました。自動車レースと聞くと、何となく自動車メーカが1番良さそうに聞こえるかもしれません。実際に給与などを考慮した待遇面ではそうだと思います。
しかし、レース現場で働きたいのであれば自動車メーカではなく、レースチームかエンジンチューナの方が希望が叶う可能性は高いです (レースイベントに来る自動車メーカの人は本当に一部です)。
またサプライヤも場合によっては自動車メーカ、チューナ、チームと働くことが出来るため興味深いです。
このような観点から自分が働いてみたい職場を考えるのも面白いと思います。
読んでいただきありがとうございました。
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追記:予算規模の大きいF1、WEC、WRCなどの世界選手権に参戦しているマニュファクチャラーでは上述の自動車メーカ、チューナ、チームの役割を自社で完結していることも多いです。
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