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#002 札幌北斗高校演劇部…スパカツを食べに行こう!①

 あれは2018年のこと。胆振地震で北海道全域がブラックアウトとなった時のことだった。電力がなくなり、不安な夜を過ごした道民も多かったはずだ。演劇に携わる身としては、夜空を見上げると、いつもより星がきれいで、キャラメルボックスさんの『広くて素敵な宇宙じゃないか』のおばあちゃんの台詞を思い出さずにはいられなかった。
 
 この震災の直後に支部大会があり、出場作品である『やさしく ふる 雨』は支部大会で優良賞に終わり、全道大会を逃しました。ちなみにこの時の全道大会は札幌で開催されるため、いつもより全同大会への出場枠が多かったにも関わらず、選ばれなかったのだから余計に部員たちのダメージも大きかった。この芝居は観客の反応も良く、自分たちも好きな作品でもあった。審査員からの講評は自分たちとしてはスーッと落ちるものではなかったが、こちらが意図したことが伝わらないということは、やはり力不足だったとしか言えない。

 全道大会に出られないといことは、うちの部員たちが大会運営の中心として働く事になり、それはそれで大切で貴重な経験なのだが札幌(石狩)の仲間たちが舞台に立つ姿を見て、複雑な気持ちだったようだ。その仕事を終え、最後のミーティングで、部員たちに運営を頑張ってくれたことに感謝しつつ、「全道の舞台を観て何を思った?」と聞いてみた。すると

「あの舞台に立ちたかった」

そりゃあそうだ。祭りはただ眺めているより、踊った方が楽しいに決まっている。顧問としては、「そうかぁ」としか言えなかったのだが、ついこう言ってしまった。

「そっかぁ、じゃあ、来年はスパカツ、喰いにいくぞ!」

スパカツ…北海道の方ならご存知なのだが、道外の方に簡単に紹介すると、洋食屋のあの、熱熱の黒い鉄板プレートにスパゲティがのっかっており、さらにその上にトンカツがどーんとのり、さらにたっぷりのミートソースがかけられた、北海道釧路市民のソウルフードの一つだ。つまり翌年の全道大会は札幌から遠く離れた霧の町釧路市での開催なのだ。

 札幌の全道大会が終わると、すぐに隣の高校である札幌大谷高校、同じ区にある東陵高校と合同で『HOT☆Onion Soup』という演劇ユニットを立ち上げ公演の準備に入った。その公演の稽古をしつつ、ぼやぁーと次作の構想を考えていた。その頃、ニュースでは、天皇陛下が退位され、平成が終わる、次の元号は?などがしきりと報じられていた。

「平成が終わるのかぁ」思えば、平成の始まった時、自分は大学生で、アルバイト中、突然店内にラジオの音声が流れた。
 今は亡き小淵官房長官の声が店内に響いたのだ。
「新しい元号は…平成。」
店内が、少しだけどよめいた。
私は、何だかピンとこない、なんとも言えない気持ちとなりながらレジを叩いていた。しかし、そのうちすぐに、この「平成」が違和感がなくなってきた。いや、そもそも改元とはそんなものなのかもしれない。ただテレビは「昭和が終わった、一つの時代が終わった」と仰々しく報じた。

 その平成が終わる時、今の高校生はどう感じるんだろうな、とも思った。平成元年から平成31年の約30年を題材に台本かけるかなぁとふと思った。この時代は自分自身リアルタイムで過ごした時間でもあり、生徒にすると自分の親世代が過ごした時代でもある。今の高校生の娘、昭和、平成と生きているお母さんのお話にしよう、この程度で構想らしきものが生まれていった。

 舞台を平成31年春に設定し高校生の娘を出そう、そのお母さんは平成元年には大学生だった設定にした(私と同年代なので、何かと都合がいい)。台本を書く際、私は何かテーマソングになるような楽曲を探すところから始まることが多い。前回書いた『寛政DIE~HARD』ではDEEP PURPLEの『Smoke  on the  water』を選んだ。これは、主人公の一人喜多川歌麿は幕府が禁じた「紫色」をレジスタンスの印とし、あえて多用した所に引っかけDEEP  PURPLEを選んだ。

 今回、平成元年の楽曲を並べてみると、色々懐かしい曲が浮かんできた。その中で「!」という曲が、PRINCESS  PRINCESSの『M」。あぁ、これ平成元年だったか。と思い出し、再度聴いてみた。やはりいい曲だ、この曲はメンバーの一人が恋をし、失恋をした思いを詩に書き、別のメンバーがバラード調の曲をつけた、当時のROCKバンドとしての彼女らの楽曲の中では異色な曲だったはず。初めはカップリングだったこの曲だが人気となり、彼女らの代表作となった。

「いつも いっしょに いたかった 隣で笑ってたかった」で始まるこの曲、いわゆる失恋ソングだが、今改めて聞くと、もっと色々な「別れ」をイメージすることができた。もしかしたら、我々が災害などを経験したこともそう思えた要因なのかもしれない。このイントロで、何となくだが話の筋書きができた。
もちろん、タイトルも。

 新しい台本のタイトルには『お母さんの彼』とキーボードを打った。

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