#04_「長持ちする」デザイン

茶室の床柱

O:僕が震災前に働いていた城戸崎建築研究室っていうところは、茶室の設計もしてたんですね。そのときにね、茶室をいくつも作ってきたかなりご年配の方が言ってたことが頭に残っていて。・・・床柱って、あるじゃないですか。

I:床柱、はい。

O:床柱って、曲がったやつとかボコボコしてるやつとか、ちょっと珍しい木材を使ったりするじゃないですか。

I:ああ、ありますね。

O:お茶って、お客さんを招待して、そこに活ける花とか掛け軸とか、お客さんにちなんだものだとか、季節にちなんだものだとかを出して、会話を含めた空間と時間を演出するわけだけど、床柱って、その話のネタにもなるのね。例えば、この床柱の特徴的な曲がり方には勢いがあって強い生命力を感じますね、とか。

I:はい、はい。

O:ネタになることもあるんだけれど、その人が言うには「飽きる」と。

I:飽きる?というと?

O:特徴的な床柱を置くのは良いんだけど、良いのは最初だけ、と。笑

I:ああ、茶室が建ったら、ずっとそこにあり続けるしかないですからね。

O:茶室は、相手に合わせて変えられる掛け軸と花で語れば良くて、床柱が話題の軸にならなくて良いと。個性豊かな床柱は、ある瞬間からその個性が邪魔に見えちゃうんだって。飽きるんだ、と。その方は言うわけ。

I:飽きるんだ。

O:だったら、何の変哲もないように見えるかもしれないけど「 これは今はもう採取できない ◯◯山にある1本の杉が、たまたま暴風で倒れたやつを引き取ったもので、それを『四方柾(しほうまさ)』に加工した床柱なんです」みたいな方が、話をしなければシンプルな床柱でしかないので、話題にするかどうかはその時々で選べて良い。その方が"長持ちしますよ"と。

I:なるほど。

O:いっときの好き嫌いに左右されるものって、そんなに長持ちしないよっていうご意見だったの。茶室って、100年とか200年とか、永くあり続ける建築だとすれば、主人だって変わるわけだし、その茶室を長く愛着を持って使ってもらおうと思ったら、その時の良し悪しに流されない方がいい。ってことだと思うんですね。

I:そう言ってしまうと、極端に言えば無個性万歳っていう話で、個性的なデザイナーが100年 200年保っていないかって言うと、そうでもないですよね?

O:ん〜、でも例えば洋服と建築は時間の長さが違うんじゃない?射程にしている時間の長さが、そもそも違うというか、、
例えば服は、茶室の中で言えば掛軸や活花と似ていて、明日は今日と違うものに変えることができるど、床柱はそうはいかないですよね。

I:ああ、射程の長さが違う・・・ファッションはよく、循環するともいうじゃないですか。

O:うん、うん。正確に言えば建築もそうだと思うけどね。もっと長いけど、スパンが。
クラシカルなものがあって、それに対してアバンギャルドなものが出てきて、その次に今度はそれが行き過ぎちゃってまたクラシカルなものに戻って、みたいな。そういうのって、芸術というか表現活動の全般にある気がする。でも、その周期の長さは、分野によって違うんだろうなとも思う。


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