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プラント機材の輸送事故

海外調達では、海外工場から工事現場まで国境を跨いだ長距離輸送が伴います。プラント機材は大型重量物が多く、輸送中の事故リスクは低くありません。本記事では、輸送事故における発注者・サプライヤ間の損害負担、発注者の観点からの損害軽減策について取り上げたいと思います。

1.損害負担の考え方

輸送事故が発生すると、金銭損害と工期遅延が生じます。金銭損害は破損機材の修理費や代品製作費等、工期遅延は修理・代品製作に伴う遅れです。発注者とサプライヤの間において、これら損害をどの場合にどちらが負担するのかを決めておかねばなりません。

負担先の判定は「事故原因」と「原因に関する当事者の帰責性」に基づきます。事故を大枠で分類すると①サプライヤの責めに帰すべき事故、②発注者の責めに帰すべき事故、③両者とも帰責性が認められない事故の3パターンがあり、当該事故がどれにあたるかを特定します。例を挙げると、①はサプライヤによる梱包の不良や発注者に提供した機材情報(重量等)の誤りで発生した事故、②は発注者が行った機材の船上固縛不良による事故、③は落雷・地震等の自然現象や窃盗・暴動等第三者起因の事故といった具合です。

理屈は上記の通りですが、実際の事故における分類は容易ではありません。発注者が機材を受領した時に機材に損傷が見つかった場合、船積み時前の段階でサプライヤ原因の損傷があったのか(①)、その後の輸送過程での荒天により損傷したのか(②)、発注者の受領後に管理不良で損傷したのか(③)を立証する事は容易ではありません。また、FOB契約において船積作業中に発注者が起用した船社のミスで機材に破損が生じた場合、両者のコントロール外の事象と見做すか(③)、発注者の下請先による過失と見做すか(②)いずれの解釈も可能です。このように実務での対応は容易ではありませんが、原則を理解していればより効果的に原因特定や問題解決を図る事が可能になるでしょう。

2.金銭損害の処理

輸送中に機材の損傷・滅失が生じた場合、元代金の支払義務が発注者に残存するか、事故で発生した追加費用(修理費・代品製作費用、破損機材処分費等)をどちらが負担するかが問題となります。負担先は1.の分類に基づき判定します。

1.①の場合、サプライヤの債務不履行であり、輸送過程のどの時期に事故が発生したとしても修理・代品納入といった追完がなされない限り引渡債務が履行されたと言えず、引渡に対応する部分の支払債務は基本的に留保すべきものとなります。また、修理費等の追加費用は債務不履行の追完に伴うものでありサプライヤが負担すべきものです。サプライヤの責に帰すべき事故は契約上の危険事象(Risk)には当たらないため、たとえ危険移転時期(船積み完了等)の後に生じた事故であってもサプライヤ負担となります。

1.②の場合、1.①とは逆で、危険移転時期に関わらず発注者負担となります。元代金の支払義務は残存し、修理費等の追加費用も発注者負担となります。

1.③の場合、当該事故は基本的に契約上の危険事象(Risk)に該当するため、事故の発生タイミングで判定が分かれます。引渡前の事故の場合、引渡は完了していないため元代金の支払は不要ですが、破損機材の修理・代品納入を求める場合発注者は当該費用を負担しなければなりません。発注者引渡後の事故の場合、引渡は完了しているので元代金の支払義務は残存し、かつ修理・代品納入を求める場合は当該費用も発注者が負担します。海外取引では通常インコタームズが用いられており、そこで定められた引渡・危険移転時期が適用されます。

1.③について、発注者目線でみると元代金と追加費用の2重払い、サプライヤ目線で見ると元代金の回収不能というリスクがあることが分かると思います。どちらがリスクを負担するかフラットに交渉しても合意は困難なため、解決策として用いられるのが貨物保険です。但し、貨物保険は発注者・サプライヤ間の契約書で定める危険負担を補完するものであり、元契約において危険負担の移転時期を定めておく必要があります。また、貨物保険は梱包不良等の発注者・サプライヤの過失起因の事故は一部免責(保険金がでない)となっており万全ではない点に注意が必要です。保険金が出なかったり損害全額をカバーできない場合、契約書の危険負担(1.③)や損害負担条項(1.①、1.②。規定がない場合は準拠法)に基づき発注者・サプライヤ間で処理することになります。

3.工期遅延の処理

輸送中に機材の損傷・滅失が生じた場合、修理・代品製作が必要となりますが、修理の場合は破損機材の通関・積戻し・サプライヤ工場での修理・再船積み、代品製作の場合は材料調達からやり直しになり、少なくとも数か月の遅れが発生します。

工程遅延は後続工事のアクセラレーションや運転開始時期の遅れにより発注者の損害に繋がります。その為発注者視点では機材納期遅延に対する損害賠償を請求可能かが関心事になります。

事故についてサプライヤに責任が認められる場合、引渡完了後の事故であっても引渡債務は不完全な履行であったと言えるので、納期遅延と見做す事ができ、遅延に伴う損害の賠償請求が可能と考えられます。ただし事故による破損の程度が使用上問題がないレベルであれば引渡債務の履行は実質的にあった(修理等の追完はサプライヤの責任)と認められる可能性があるので、実際の事故の状況を見て判断が必要です。

サプライヤに責任が認められない事故の場合、契約上の不可抗力事象(Event of force majeure)に該当する可能性が高く、該当する場合、遅延賠償責任の追求は不可です。但し、事故の実態に照らして本当に不可抗力事情に該当するのかは慎重に判断が必要です。この損害を被るリスクはDSU(Delay in startup)保険でカバーできる場合もありますが、保険料が高くどのプロジェクトでも付保できるものではありません。一般的には不可抗力による損害は施主が負うべきプロジェクトリスクとして整理される事が多いと思われます。

4.発注者として取るべき対策

①事故の予防が最優先です。過去の事故事例から要注意エリアを特定し遂行計画に反映する事、サプライヤ・輸送会社との所掌分けを明確にし必要な情報を適時コミュニケートする事、輸送に関し知見を有する人材を自社側でも確保し梱包・積付け・固縛を他人任せにしない事などが考えられます。

②それでも事故が起きてしまった場合に備えてサプライヤとのリスク分担を契約書で明確にすることです。金銭損害については、発注者へのリスク移転後の事故をカバーする貨物保険を確実に手配する事です。保険条件はプラント機材であれば最もカバー範囲の広いICC(A)とすべきです。CIFの場合サプライヤはICC(C)しか手配義務がないので契約書でICC(A)の手配を個別に求めるべきです。また、サプライヤ過失による事故は事故発生時期に関わらずサプライヤに債務不履行責任を追及できるような契約条件とすべく交渉が必要です。基本的にその旨の個別規定までは記載しない事がありますが、サプライヤの責任を不適切に除外するような規定がサプライヤ側から提示された場合は除外すべきです。工期遅延については、不可抗力と認められる事象を施主との親契約書の定義と極力合わせておき、施主に対してバックツーバックで工期延長(EOT)を要求できるようにしておくべきでしょう。

本記事では輸送事故発生時の損害の負担の考え方、発注者として取るべき対応について解説しました。輸送事故は現実に起きるもので、一度起きればプロジェクトの危機となります。予め基本を理解しておき、素早く対処できるようにしておきましょう。

記載内容の正確性には気をつけていますが、間違い・勘違いが含まれている可能性は否定できませんのでご留意ください。

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