従業員の健康推進で労働生産性(人時生産性)は向上するのか?
①労働生産性・人時生産性と従業員の健康
労働生産性という言葉は健康経営や健康推進を調べる上でよく登場する言葉です。ですがイマイチこのままでは中身が良く見えず、この表現に触れる人毎に理解と解釈が異なる可能性がありますので労働生産性という表現を少し考えてみます。
ここでは個人の生産性に特化してます。また利用する表現や数値は、あくまでイメージ参考としてご理解ください。各産業職場、職務によってはそれらがマッチしない場合もあるかと思われます。
⑴まず生産性と人時生産性とは?
生産性とは、少ないコスト(資源)でより多く(大きい)の価値(成果)を産み出したいという概念です。
コストをインプット、価値をアウトプットと表現すると・・・
生産性= 価値(アウトプット)/コスト(インプット)となります。
そして、より少ないコストから、より大きな価値を産み出す事が出来た場合、生産性が高いとなります。
今度はコスト(インプット)を少し分解してみます。
コスト(資源:インプット)の中身は大まかに①人件費 ②労働日数 ③労働時間の3つになります。価値(アウトプット)その職務に課せられた日々の実務と業務。売り上げや利益に必要な成果だとお考え下さい。
生産性の高い仕事、というのは、例えば今まで6時間かかっていた仕事(作業)を4時間で完遂したり。今まで1週間かけていたものを4日で仕上げたり。人件費に関しては、この労働日数と、労働時間がショートになれば自ずとその業務当たりの人件費は削減されることになります。別の言葉で表現すれば、最小限のコスト、労力で最大限の成果(価値:アウトプット)出せるようになる事です。人員を削減したり、労働時間を単純に削減すれば生産性は向上するのでは?という疑問も残りますが、万が一単純なそれらの削減をした結果、産み出される価値(アウトプット)も縮小してしまっては意味がありませんし、この場合そのリスクがあります。コストを削減した結果、売り上げ(アウトプット)さらに厳密にいえば利益を減らしてしまっては本末転倒です。(労働コストを削減し、売り上げが減少しても利益の減少がなければ一つの成果です)
ここで重要なのが、時間当たりの生産性が向上する事、これを「人時生産性」と言います。そして人時生産性向上によって生まれた「労働余暇」、作業効率とスピードが上昇した事で生まれた余った時間を新たな価値、付加価値を産み出す事に活用できる様になる事です。また、必然的に労働時間の適正化を図りやすくなりますので、残業や労働強度の上昇を予防できる可能性があるという点です。
働き方改革で残業時間の削減、労働時間の適正化を図った結果、全体の生産性と価値創出が縮小させるわけにはいきませんので、単純に労働時間を減らして、労働量を減らしてしまう訳にもいかない。導き出される答えは、時間当たりの作業効率の向上とスピードの改善(人時生産性向上)。繰り返しになりますが、今までの労働量と質を保ちながら時短し、余った時間で新たな価値を産み出す為の時間に充てる。労働人口が減少し、労働力の確保が難しくなっている日本では、時間に対する1人当たりの価値生産量(アウトプット)を伸ばしていくしか、現状を維持、さらには業績を伸ばしていくのは難しくなると予測されています。
これが、近年語られる労働生産性の向上の意味する処です。そして、時間当たりの労働生産性の向上させ、労働余暇を確保するには日々の業務遂行能力の向上と作業スピードの上昇が必要不可欠なのですが、これらはどの様にして改善、向上するのか?という疑問が残ります。
⑵どうしたら労働生産性の向上(人時生産性)は向上するのか?
労働生産性の向上(人時生産性向上)の施策として考えられるのは、まず人事的な環境整備、これはいわゆる適材適所です。次に最新技術の導入です。これは業務作業効率の向上の為に、新しいシステムや機材を導入したり等のハード面の整備です。最後にアウトソーシングの活用です、人時生産性の低い又は上がる見込みの低い分野に関しては、外部の専門家に委託又はサービスを活用する事で、労働コスト削減の為に(人件費・労働日数・労働時間)をお金で買ってしまう。
人事的環境整備
最新システム、機材の導入
アウトソーシング
これらが代表的な施策だと思われます。しかし、本サイトは、これらの経営課題とそれらへの影響を、健康という側面からストーリー(仮説)を論ずる事を目的としておりますので、ここからは人(従業員)の心身、数値や形として目には見えない部分(健康面)から労働生産性を見ていきたいと思います。
⑶健康は従業員の労働生産性(人時生産性)を向上させるのか?
従業員(社員)の健康推進と健康経営の視点から見た労働生産性の向上というのは
社員が健康である事でプレゼンティーイズムとアブセンティーズムのコストが削減される
健康であることが業務への集中力と作業効率の向上、仕事上のムラを減らす
社員の心身の健康に配慮した企業側からの環境整備は仕事へのモチベーションとエンゲージメントの向上に貢献する
と考えています。
1「社員が健康である事でプレゼンティーイズムとアブセンティーズムのコストが削減される」
プレゼンティーイズムコスト:モチベーション、心身の健康問題によるパフォーマンス低下
アブセンティーズムコスト:欠勤、長期休養による損失
コチラに関しては 【健康経営コンサルティングサービス】 もご参照ください。
体調不良や早退、欠勤は、それだけで直性的に人時生産性に悪影響を及ぼす事はもちろんの事、それらで低下した労働生産性を他の同僚の業務負担の増加という形で現れる場合があります。また、健康管理もできて、勤務勤労に問題のなく仕事も真面目で優秀な従業員の業務負担の増加は、様々なリスクと損失をはらんでいます。優秀な人材は人時生産性をどんどん高めて、新たな価値づくり、顧客の創造(ドラッカーの言葉を借りれば)にその能力と時間を使ってほしい。
しかし、それを同僚のプレゼンティーイズム、アブセンティーズムによって制限されている可能性があります。また、優秀な人材というのは、自身の本来の能力が発揮出来ないことや、その労働量、質、産み出した成果、価値に対して、適した評価と報酬を望むものです。不満足な状態が続けば、優秀な人材の流出のリスクも高まります。
2「健康であることが業務への集中力と作業効率の向上、仕事上のムラを減らす」
人は心身の体調不良、例えば、二日酔い、発熱、風邪、肩こり、腰痛、、首痛、眼精疲労、虫歯・歯の痛み、花粉症や鼻づまり、プライベートでのトラブル、家族・親族の不幸、職場の人間関係、睡眠不足、通勤疲労、女性特有の健康問題。挙げたら切りがありませんが、これらの普遍的な体調や環境変動の影響を受けて、仕事へのモチベーションや集中力は日々波を打つように変化しています。
皆様もご経験があるはずです。なんとなく風邪っぽくて気分が優れず、気が付くとパソコンの画面を見ながらぼーっとしてしまっていたり、目の疲れから、頻繁に目薬を注す為に作業の手を止めたり、肩や腰が痛んでもんだり、叩いたり、その痛み不快感から目の前の事に集中できなかったり。
とてもありきたりな事ですが、年間通じて、一定数の従業員が日々これらの症状で、仕事の作業の手を止め、集中できずに作業効率とスピードを落としているとしたら、月、年のマネジメントサイクルで考えると、相当な時間が無駄遣いされている事になります。しかし、それらの時間、またそれらのよって発生した残業などの労働コストは企業が負担をしなければならないのです。
3「社員の心身の健康に配慮した企業側からの環境整備は仕事へのモチベーションとエンゲージメントの向上に貢献する」
人がモチベーションや集中力を高く仕事にあたる要因は人によって様々です。好きな仕事、業務につけていることかもしれませんし、成果に対しての賞賛や報酬かもしれません。どちらも真っ当で正当な要因ではありますが、多くの人が、好きな仕事、業務に就き、成果に対して満足できる賞賛や報酬を享受できるとは限りません。
そこで、その他の要因として考えられているのが会社、組織との「エンゲージメント」です。
エンゲージメント:自分の所属する会社、組織並びに同僚、関係者への貢献心とお考え下さい。人は、自分は人から必要とされている、期待されていると感じる事で得られる自尊心。そしてそれらの期待に応えたい、応えることが出来るという自負心。これらのバランスが良好に保たれている時の人のエネルギーは無視できません。
自分の仕事は、会社の業績、経営、評価評判、ブランドに貢献している。自社の製品やサービスは世の中の人の役に立ち、無くなると困る人がいるなど、自社、自分は大切な仕事をしている、良い仕事をしているという自負は、仕事への責任感と、古い言い方ではありますが会社への愛社精神、愛着を持つ理由とモチベーションになります。
そして、体調管理は自己責任として放任する事も出来てしまう事ですが、会社が従業員の健康推進、健康管理の為の環境整備をする事、従業員への健康投資は、直接すぐに投資回収できるものではなく、さらに費用対効果もまだまだ不透明な分野ではありますが、だからこそ従業員を大切にしている証拠として評価する事も出来ます。