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当時の私は、どうやらウザいくらいの熱血教師だった。
「先生、こんど僕がバイトしてる店に食べに来てくださいよ!」
2007年から3年間、私は杉並区にある公立小学校で教員を務めていた。当時担任していた教え子T君からそんなメッセージをもらったのは、去年の秋頃のことだ。どうやら、私がSNSでしょっちゅうワインを飲んでいるのをアップしていたのを見てくれていたようで、都内でも有数の人気フレンチで働いている彼が「ぜひ、うちにも」と声をかけてくれたのだ。
こんなに嬉しい誘いはない。彼のシフトを聞き、早速、友人を誘って食事に出かけた。当時10歳だった彼が、パリッとしたシャツを着て、立派に接客している姿を、カウンター席から眺めるのは格別の時間だった。奮発していいワインを注文したのだけれど、そこに特別な感情が混ざり合って、ことさら美味しく感じられた。
とはいえ、彼も勤務中ということもあって、そこまでゆっくり話せるわけではなかった。そこで、後日、今度はゆっくり飲もうということに。それを聞きつけたYさんとKさんも「私も参加したい」と言ってくれ、今度は教え子3人と私という4人で飲むことになった。
中野駅にあるマグロの専門店を予約した。当日は、ひどい雨。大通りに車を停めて、そこから傘をさして路地を進んでいくと、後ろから「先生、だいじょうぶ?」との声が。大学生となり、メイクもするようになっていたが、顔立ちは変わっていない。YさんとKさんだと、すぐにわかった。
「おお、ひさしぶり」
「傘、持ちましょうか?」
「ん、だいじょうぶ、だいじょうぶ」
そんな会話を交わしながら店に到着すると、すでにT君が待っていた。早速、ドリンクを注文し、4人で乾杯。T君のバイト先で飲むワインも格別だったが、教え子たちと飲むハイボールも、また感慨深いものがあった。
しばらくは3人それぞれの近況報告などを聞いていたが、話題はやがて昔話へ。私が彼らを担任していた当時、彼らはまだ8〜10歳だったということもあって、そこまで当時の記憶は残っていないだろうと思っていたが、「あんな強烈な先生に担任されたら、そりゃあ記憶に残るでしょう」と笑われてしまった。まあ、それもそうか。
なかでもYさんの記憶力は抜群で、ささいなエピソードまで本当によく覚えていて場が盛り上がった。私でさえ忘れていて、彼女が話してくれてようやく思い出したという話まであった。
「あとね、私がすごく印象に残っているのは、先生が1組のK太をすごく怒ったとき」
——え、そんなことあったっけ。だって、K太ってとなりのクラスだろ?
「そうだよ、なのに先生、すごい勢いでK太のこと怒ったの」
——あ、思い出した!
そう、あのときだ……。
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「乙武洋匡の七転び八起き」
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