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【義足プロジェクト #9】 「義肢装具士」を知っていますか?
この記事は、6月2日(日)に「FRaU×現代ビジネス」にも掲載されます。
遠藤謙、落合陽一両氏とのミーティングを経て、ついに「乙武義足プロジェクト」が本格始動する。
その記念すべき第一歩は、「ソケット」作りだった。義足は、足の断端を包み込む「ソケット」とくるぶしから下の「足部」、その二つをつなぐ「パイプ」でできている。私のように膝から上も欠損している場合に装着することになる大腿義足は、さらに膝の役割を果たす「膝継ぎ手」が必要になる。
遠藤氏、落合氏との面談でプロジェクトへの参加が決まると、すぐに新メンバーが紹介された。
「義肢装具士の沖野敦郎と申します」
新宿にある私の事務所に、遠藤氏に連れられてスポーツウェアを着た眼光の鋭い男性が入ってきた。彼の真剣な眼差しに「いよいよ義足に挑戦するのだ」という意識が湧いてくる。遠藤氏からは、「沖野のことはオッキーと呼んでください」と言われたが、初対面の緊張感でなかなか「オッキー」とは声をかけられなかった。
二日間かけて、「採寸」と「採型」を行った。
「採寸」は、断端の形状を測定する作業だ。その断端を覆う、靴下のような役目をするシリコンライナーのサイズも計ったのだが、私は右足が32サイズ、左足が28サイズで、右足の方が太かった。「採型」は、義足のソケットを作るために石膏で断端の型をとる作業だ。沖野氏は、まず左足の断端にシリコンライナーをつけると、その上から透明のラップをまき両手のひらで足の状態を確認した。
一般的な大腿切断者は断端に体重をかけて立つことができず、座骨で全体重を支えている。ところが私は、両足の断端の先で体重を支えて立つことができる。かなり稀なケースらしいのだが、私のソケットはそうしたことも考慮して調整された。まさに、オーダーメイドの世界である。
「ここは痛くないですか?」
沖野氏は何度もそう尋ねながら、ゆっくりと指の位置をずらしていく。断端の先端に触れたときは、「ここに体重がかかります」と教えてくれ、骨の位置をラップの上から青いペンでマーキングした。骨が当たって痛いところなどもチェックする。石膏のモデルからプラスチックのソケットを作るときには、それらのチェックポイントをすべて調整し、私に合ったソケットができあがるというわけだ。
義足を必要とする人の多くは、交通事故や糖尿病など後天的なアクシデントによる場合が多い。その場合、医師が手術によって切断するので、断端はソケットにはめやすいきれいな形になる。だが、私は生まれつき欠損した状態で生まれたので、両足、とくに右足の断端の形状が複雑だった。そのため、沖野氏は細かな計測をしながら丁寧に進めてくれた。
張りつめた雰囲気のなかで、淡々と採型の作業は進められた。私は石膏の匂いをかぎながら、幼少期の記憶が蘇るのを感じた。当時も義手や義足をつくる際には、この石膏で型を取る作業から始まったのだ。
「足の長さ、何センチにしたいですか?」
沖野氏からそう問われたとき、一瞬、質問の意味がわからなかった。
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「乙武洋匡の七転び八起き」
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