44歳を迎えた私から、みなさんへのお願い。
本日で44歳となりました。これも、ひとえに日頃から支えてくださるみなさんのおかげです。あらためて感謝申し上げます。
さて、今日はそんな私から、みなさんにお願いがあります。どうか最後まで読んでいただければ幸いです。
いま、日本は大きな危機に直面しています。日本だけでなく、世界中が危機に直面しています。未知のウイルスが蔓延し、多くの命が失われています。それによって、私たちの生活は一変しました。
アメリカやヨーロッパの多くの都市ではロックダウンが行われ、人々が外出できない状態が続いています(最小限の買い物や、健康維持のための散歩・ジョギングは除く)。日本でも度重なる外出自粛要請が出され、街中から人の姿が減っています。
そうした生活になって一ヶ月近くが経ち、みなさんもかなりのストレスを感じていらっしゃるのではないでしょうか。
自由に仕事ができないって、しんどいですよね。
自由に学校に通えないって、しんどいですよね。
自由に遊びに行けないって、しんどいですよね。
でもね、知ってほしいんです。この世の中には、コロナが蔓延する前から、そうした生活を強いられてきた人々がいることを。そう、私たちの社会には障害や病気とともに生きる人々がいます。
たとえば、仕事。
私のような車椅子ユーザーにとって、白杖を使用する視覚障害者にとって、毎朝、満員電車に揺られて会社へ通勤するというのは至難の技です。それが必須とされるかぎり、どんなに優秀で、どんなにスキルが高くても、彼らは労働市場からは排除されてしまいます。
「もし、リモートワークが普及してくれたら、私たちだって働けるのになあ……」
それが当事者たちの願いでした。しかし、普及は一向に進みませんでした。
たとえば、教育。
病気で長期入院している子どもにとって、さまざまな理由から不登校の状態にある子どもにとって、「教室で授業を受ける」ことは至難の技です。どんなに学ぶ意欲と能力があっても、彼らの多くは「公教育」から排除されてきました。
「もし、オンライン教育が普及してくれたら、私たちだって学べるのになあ……」
それが当事者たちの願いでした。しかし、普及は一向に進みませんでした。
たとえば、遊び。
車椅子ユーザーや難病を抱える人にとって、バリアフリー設備のない小さな劇場やライブハウスに行って音楽や芝居を楽しむことは至難の技でした。どんなに彼らのファンで、どんなに時間があっても、彼らは多くの「娯楽」の場から排除されてきました。
「もし、オンライン配信が普及してくれたら、私たちだって楽しめるのになあ……」
それが当事者たちの願いでした。しかし、普及は一向に進みませんでした(ただし、この分野に関しては、SHOWROOMなど普及の兆しが見えてきたことは救いですが)。
挙げ始めたら、キリがないんです。社会は「多数派」のために作られているので、いくら「少数派」が苦しんでいても、排除されていても、「多数派」は知らん顔なんです。だから、ちっとも変わらないんです。
それが、一気に変わり始めました。
多くの企業ではリモートワークが推進されていて、ミーティングもどんどんオンラインに切り替わっています。あんなに進まなかったのにね。
休校が長引きそうだとなったいま、オンライン教育の必要性が声高に叫ばれはじめ、先進的な自治体では早くも導入の兆しが見えています。あんなに進まなかったのにね。
多くのアーティストがライブなどの中止を決めるなか、なかには無観客ライブを実施してそれを配信したり、YouTubeなどを使ってアーティストがファンに直接語りかけるような試みが始まっています。あんなに進まなかったのにね。
「あんなに進まなかったのにね」
いらん言葉ですよね。望んでたことが普及しはじめたのだから、素直に喜べばいいのに。どうして、そこにわざわざ皮肉を挟む必要があるのか。ええ、自分でもそう思いますよ。本当にひねくれているなと。
でもね、あれだけ熱望したのに、あれだけ声を上げていたのに、ちっとも耳を傾けてもらえなかった。ところが、いざ「自分たち」が同じような困難に直面したら、これだけスピーディーに、これだけダイナミックに世の中は変わっていくんだなって。やっぱり、ちょっと、悔しいんですよ。
やっぱり、この社会は「多数派」のためにできているんだな、って。
さあ、愚痴はここまで。ここからが、本題となる「私からのお願い」です。
いまはみなさんもそれぞれ大変な状況にあり、なかなか他者への配慮や思いやりを持ちにくい時期かもしれません。それは当然のことだと思います。しかし、いつかは長いトンネルを抜けてこのコロナ禍も収束し、やがてみなさんも“日常”へと戻っていくことでしょう。
でも。
そんな、みなさんの“日常”に戻れない人々がいることを忘れずにいてほしいのです。
コロナが消え失せても、満員電車には乗れない人々がいるのです。
コロナが消え失せても、学校には通えない人々がいるのです。
コロナが消え失せても、劇場やライブハウスにいけない人々がいるのです。
選択肢を増やしてほしい。それが私の願いです。
会社に通うという働き方もあれば、リモートワークという働き方もあっていい。教室で授業を受けるという学び方もあれば、オンライン授業を受けるという学び方もあっていい。劇場やライブハウスで声援を送るという楽しみ方もあれば、画面の前でリアルタイムに声援を送るという楽しみ方もあっていい。
そんな選択肢にあふれた世の中になってくれたらな、と思っています。そうすることで、社会から排除される人がいなくなるから。これまで排除されてきた人が救われるから。
貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。
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