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【義足プロジェクト #25】 “あの時のこと”がフラッシュバックして覚えた恐怖。

 梅雨明けが遅かったせいだろうか、八月になると一気呵成に猛暑がやってきた。

 汗かきの私にとっていちばん苦手な季節だが、そんなことにはおかまいなく、真夏の日々も歩行練習に明け暮れた。

「いい調子ですね」

 背後に立つ理学療法士の内田氏から声がかかる。

 地道な練習が花開こうとしていた。義足の軽量化が追い風になり、みぞおちを意識して上半身をうまく使いながら足を振り出すことで、歩行スピードが上がり、歩行距離も伸びていった。

「あの反応」が私の身体に起きたのも、このころのことだった。

 前に出そうとした左足が床に引っかかり、後ろに転びそうになって身体のバランスが崩れたその瞬間、右足がさっと後ろに出て、転倒を回避することができたのだ。

「ステッピング反応です!」

 内田氏がうれしそうに声を上げた。

「いまの動きをステッピング反応と言います。歩行中、片方の足に体重がうまく乗らずに前後左右に倒れそうになったとき、それを防ごうとする反対の足の動きのことですが、うれしいなあ、やっと出てくれましたね」

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 この動きは、両足のある人なら一歳半から二歳ぐらいで自然に身につくものらしい。私の歩行は、四十三歳の夏にしてやっとそのレベルに達したということだろうか。

 この時点(二〇一九年夏)で、私は三つの課題を自覚していた。

 まずは、依然として右足が出にくいこと。義足の軽量化によって右足が出やすくなったとはいえ、左足のスムーズさに比べれば明らかに差があった。数メートル歩いて身体に疲労が溜まりはじめると、右足が床に引っかかるようになる。もっと左足に体重をかけられれば右足が出やすくなるはずだが、脱臼している左の股関節を無意識のうちにかばってきた私にとって、それはなかなか勇気のいることだった。

 次に、歩くスピードが速くなったため転びやすくなったこと。リズムをコントロールしながら歩ける間はいいが、歩行に勢いがつきすぎると突然がくんと倒れてしまう。内田氏はそんな現状を、「自転車の補助輪が取れたばかりのような状態です」と表現した。

 三つ目は、歩いているうちに呼吸が苦しくなり、体力が尽きてしまうこと。これもスムーズに足を振り出せないために起こる現象で、一歩一歩に体力を必要とすることが原因だった。

 だが、そうは言っても夏前に比べれば、ずっと「歩ける」ようになっていた。もちろん、遠藤氏が最終目標に掲げる「義足を履いて街中を歩く」ことを考えれば、まだ麓にも達していない程度だったが、歩行の質やスピードは格段に向上していた。

 自宅のリビングだけではもの足りないと感じるようになったのもこのころだ。リビングルームに敷かれたコルクマットの上では、四メートルの直線距離を確保するのがやっと。いままではその距離を歩くにも四苦八苦していたが、私たちはもっと長い距離を歩くための環境を必要とし始めていた。

「いい場所がありますよ」     

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※今月3日(火)、超福祉展に私を含めたメンバーが登壇。ぜひ観てください!

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