【義足プロジェクト #24】 義足の「軽量化計画」に翻弄される身体。
六月二十五日。
義足の軽量化が本格化した。第一弾は太ももを包み込むソケット部分だった。沖野氏がスーツケースに入れて運び込んだ新しいソケットにはさまざまな修正が施されていた。太ももがひと回り大きくなったのに合わせてソケットの形が調整された。さらには足の付け根の骨があたる部分の修正も行った。そして素材がプラスチックからカーボンに変わったことで、片足につき、およそ三五〇グラム軽くなったのがいちばんの変化だ。
また、膝と足先をつなぐスチール製パイプのアライメント(位置関係)が調整され、パイプの位置が五ミリ前方に改められた。このほうが体重を乗せやすいだろうという沖野氏の判断だった。
「変化、感じますか」
沖野氏にそう言われ、新しい義足で立ってみる。ソケットはいままでよりもキツい気がしたが、慣れてくれば足の動きがより伝わるだろうと思えた。アライメントの調整についても、体重を乗せる位置がピタッと決まる感じがした。ただ、重量の変化は足先のほうが感じやすいようで、ソケットの軽量化はあまり感じられなかった。
七月二日。
この日は足首から下の「足部」と呼ばれる部分の軽量化が行われた。
これまで私は今仙技術研究所の「J-Foot」というタイプを使っていたそうなのだが、沖野氏はその軽量版である「J-Footライト」とオットーボック社(ドイツ)の「トライアス」を用意してくれた。ソケットと違い、やはり足先の重量は敏感に感じとれるようで、どちらも従来の「J-Foot」に比べると、かなり軽く感じた。だが、ドイツ製はかなりしなやかな作りで、これまで日本製の硬さに慣れていた私にとっては、踏み込んだときの沼に沈んでいくような感覚が苦手で、結局これまでの軽量版である「J-Footライト」を選択した。
片足五百五十グラムから五百グラムへ。わずか五十グラム軽くなっただけだが、太もも部分を包むソケットが三百五十グラムより減ったときよりも、足先が五十グラム減るほうが、ぐっと歩きやすくなることを実感した。
だが、このころの私はひそかにストレスを溜め込んでいた。義手をつけてバランスを崩し、翌週になんとか感覚を取り戻し、その翌週にソケットが交換され、また感覚の違いに戸惑うことになり、その翌週に今度は足部が交換され――といったように、毎週のように新しいことが試されていた。わずか四百グラムの義手がついただけでバランスを失ってしまうほど、微妙な感覚のズレは致命的になる。毎回新しいことを試しては、身体をそれに対応させていく。これは言葉で表すよりも、かなりの負担を強いられる作業だった。
「こうして少しずつではなく、一気に変えてくれたらラクなのに……」
喉まで出かかった言葉だが、ぐっと飲み込んだ。これは私が歩くためのプロジェクトではない。あくまでも多くの方が歩けるようになるための研究であり、私はそのための被験者に過ぎないのだ。一気に変えてしまったのでは、どういう変化がどういう影響を及ぼしたのかという詳細なデータが得られない。やはり、一つずつていねいに進めていくしかないのだと自分に言い聞かせた。
七月五日。
北村と二人で自主トレ。「みぞおち」を意識する前は、足幅が開きすぎないよう、細い一本のライン上を歩くようなイメージでいたが、仙人から「みぞおち」というポイントを学び、さらには軽量化が進むにつれて、その意識も変わりつつあった。
体重をかけることが苦手な左足。これをベストな位置に接地できれば、右足も自然といい位置に接地できるということに気づいたからだ。左足は、右足にぶつけるぐらいの気持ちで内股気味に振り出し、右足はその勢いのままにあまり意識せず振り出す。左足は「制御」、右足は「放任」――そんなイメージで歩くと、四回に三回くらいの確率で理想の着地点に足が下りるようになってきた。
左、右、左、右――この日もテンポよく、軽快に足が出る。私は少しずつ、「歩くコツ」を身につけはじめたようだった。
七月九日。
内田氏とストレッチをしているところへ、遠藤氏が両手いっぱいに靴箱を抱えてやってきた。バッテリー、ソケット、足部に続いて、この日は靴の軽量化だ。
「とりあえず三種類選んでみました」
そう言うと遠藤氏は、リビングの床に三足のスニーカーを並べた。コンバースの定番モデルである黒いキャンバス地の「オールスター」、黒地の切り返しに白いソールのピープルフットウェアのスニーカー、ミズノの黒をベースにオレンジ色をあしらったランニングシューズの三足だ。
三足とも履いてみることにした。
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