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#1心理士によるー療育のススメ

”療育”
そう聞いてどういったものかパッと思い浮かぶ方はいらっしゃいますか?
ご存じの方は、保育、教育、臨床、福祉といった業界に精通している方に
限られるような気がします。日頃、児童発達支援事業に携わっていますが、同じ心理職でもあまりよく知らない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか?(心理職の活躍領域は多岐にわたるので、私にも知らない事がたくさんあります)
現状、まだまだ一般認知があるとはいいがたい”療育”というものについて、今回は皆さんにご紹介したいと思います。

1.療育って何?

療育という言葉は、治療+教育を合わせた造語です。高木憲次(1888―1963)先生によって「治療しながら教育する」と提唱された概念です。元々は肢体不自由児への療育を指していたようですが、現在はお子さんの状態にかかわらず、療育を受けることができます。そのため、現在でいう療育とは、必ずしも治療や教育そのものに重きを置くわけでは無く、お子さんがお子さんらしくのびのびと成長していくための支援方法、と捉えていただくのかよいかと思います。

2.誰のためにあるの?

国の制度が絡むので難しい言葉が出てきてしまいますが、少しお付き合いください。療育を実施するサービスは児童福祉法にのっとり運営されていて、児童発達支援(0歳~未就学児まで)と放課後等デイサービス(小学生~18歳)に分かれます。利用するにあたって、市区町村で発行される「障害福祉サービス受給者証(通称:受給者証)」というものが必要になります。こちらの発行条件は行政によって異なり、診断書、検査結果、意見書等の書類を求められることもあるようです。お住まいの地域によって異なるので(お隣同士の市区町村で異なる条件のこともあります)、「療育を利用してみたいけれど何をしてよいかわからない」という方は、まずは役所に問い合わせてみましょう。

受給者証とは?

療育を利用するためには、「受給者証」と呼ばれる書類が必要です(注1)。「療育手帳」や「障害者手帳」と混同されることがありますが、受給者証はあくまで福祉サービスを受けるための証明書です。療育手帳や障害者手帳は、障害名やその程度を記したものです。そのため、受給者証の取得は、療育を利用する予定のある方全員に求められます(注2)が、療育手帳や障害者手帳は、ご家庭の判断によって取得することになります。

「受給者証」が発行されるとご自宅に郵送されますが、ご家庭の事情により、郵送による受取が難しい場合もあると思います。役所へ直接受け取りに行ったり、利用予定の事業所(療育を受ける施設)が代わりに受け取ってくれることもありますので、心配なことがある場合は役所へ相談してみてください。

3.どんなことをするの?

治療+教育=療育、というお話をしましたが、「療育とはこういうことを実施してください」というような絶対条件はありません(児童発達支援ガイドライン、放課後等デイサービスガイドラインにのっとってサービス提供することは、厚生労働省により定められています)。

療育の種類

療育とひとくちに言っても様々な種類があります。よくある例としては、家庭的養育(子預かり機能)、余暇活動(料理・芸術・工芸等)、運動(作業療法士等が所属していることも)、学習支援(母体が学習塾であることが多い)をうたっているところが多いでしょうか。そのため、一概に「〇〇しているからよいところ」という定義をひとことで示すことは難しいです。プログラムそのものに魅力があっても、スタッフの質が安定しなかったり、中には経営に不安を抱えるところもあるので、まずは見学や無料体験をしてしっかり見極めていきたいですね。

4.なぜ療育をススメるの?

現在の制度では、療育と名のつくものを利用しようと思うと、お子さんの発達に関して困り感や相談事がある方に限られています(一般的な利用方法しか知らないので、もしかしたら他にも方法があるかもしれません)。ですので、どなたにでも利用できる制度というわけではありません。それなら、なぜ療育を勧めるの・・・?と突っ込まれてしまいそうですが、私が療育をお勧めするのは、その療育的マインドとも呼ぶべきお子さんとの接し方についてです。

今できること+α

お子さんとの接し方について、とても簡単にまとめるとするなら、今できること+αを常に意識することです。これは心理学用語でいう「発達の最近接領域」「足場づくり」という言葉からヒントをもらっています。ここでは詳しい説明は省略しますが、「スモールステップ」とほぼ同義語と書いた方が、ピンとくるかもしれませんね。

「お子さんができること」と「できるようになってほしいこと」をまずは思い浮かべてみてください。おむつ外し(トイレットトレーニング)を例にあげましょう。おむつが外れる状態をゴールとしたら、今のお子さんは、ゴールまで何割くらいの進捗状況でしょうか?出た感覚や濡れた気持ち悪さを感じていますか?トイレの感覚はどれくらい空いていますか?このように、ゴール(オムツが外れる)までの過程に、より細かく段階をつけていく(スモールステップ)ことで、次に目指すべきことがわかりやすくなります。

見極める難しさ

現代では本やネットなど、情報が溢れています。気になる言葉を検索して少し調べれば、育児や発達に関するヒントをもらうことができます。知りたいときに知りたい情報を手に入れることができる便利さはありつつも、果たしてその情報が正確であるのか、自分のお子さんや家庭に当てはまることなのか、という判断は、保護者や養育者の方にゆだねられていますよね。アドバイスを求めるにしても、人によって答えが違うことで混乱される方もいらっしゃいます。また、年代によって”当たり前”と捉えられることが異なるので、ご家族や親戚からのアドバイスは、時に認識の違いとしてトラブルの原因にもなります。

さきほどのオムツ外しに話を戻してみましょう。オムツが外れるまでの過程には、保護者や養育者のかかわり方だけではなく、お子さん自身の成長、生理現象に対する理解が必要になります。スモールステップをつけるのはよいのですが、ステップが細かすぎてもおおざっぱすぎても、なかなかゴールまでたどり着かずに大変な思いをすることになります。ゴールの設定に無理があったり、お子さんの評価に見誤りがあると、なかなかうまくいかずに諦めてしまう方も、とても多いです。そういったときに、専門家の視点を取り入れてみると、現状を整理整頓し、目標までの見通しをより正確にすることができます。今何をするべきかを絞ってみるだけで、これなら頑張れそうかな?という意欲にも繋がりますよね。

5.療育をうまく使っていこう

療育施設では、多くの場合見学や無料体験の設定があったり、相談機能を準備しているところもあります。また、いきなり療育施設と契約するのではなく、地域の健診で育児や発達の相談をしたり、発達センターを利用していく中で、療育の利用を検討することもできます。ただ、昨今はどの地域も希望者が多く、施設によっては数年待ち、というところもあるようです。

施設探しの裏技

療育を選ぶ決め手になる要素は様々ですが、多くの方の場合、口コミやホームページを参考にされるようです。療育施設の求人情報を定期的に閲覧して、高い頻度で募集を出しているところは、「人の出入りが激しい=職員が定着しない」と見定めている、なんていう話も聞いたことがあります(必ずしもそうではないと思いますが)。内情を知る者としては難しいところなのですが、力量のある職員は昇級しやすく、現場を担当しなくなってしまった、なんていう話も聞くことがあります。特定の職員を決め手にしてしまうとそのようなこともあるので、施設全体としての質を確認できると良いかもしれませんね。

ここまでのお話で少しでも”療育”というものについて、興味を持っていただけましたか?専門的な内容や細かい仕組みは、また次の機会にお話ししようと思います。聞きたい話やわからないことがあれば、記事作成の参考にもなるので、是非教えてくださいね。

注1、注2:自費利用では受給者証を使用しません。

ひっそり生息している心理職の励みになります。ありがとうございます。