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シヴォーン・ダウドの伝説的デビュー作『すばやい澄んだ叫び』

『すばやい澄んだ叫び』
 シヴォーン・ダウド 作
 宮坂宏美 訳
 東京創元社
 2024年12月

1984年の春、アイルランドの小さな村に住む15歳の少女シェルは、孤独な毎日を送っていた。前の年の秋に母親を亡くして以来、酒浸りの父親や、弟・妹の世話に明け暮れていたのだ。気が紛れるのは幼馴染のデクランとブライディといっしょに煙草を吸ったりくだらない話をしているときぐらいだったが、やがてデクランと深い関係になり、自分が妊娠していることに気づく……。

未婚の十代の妊娠という重いテーマに真正面から取り組んだこの骨太の作品は、カーネギー賞受賞作家シヴォーン・ダウドの長編デビュー作です。2006年の出版当時、本国のイギリスで大きな反響を呼び、将来有望な新人児童文学作家に与えられるブランフォード・ボウズ賞に見事輝きました。

私はこの作品を2008年に東京創元社に持ち込んでいるのですが、そのときはいわゆる「ボツ」で、邦訳出版には至りませんでした。15年以上も前のことなので、詳しい経緯は覚えていないのですが、やはりテーマが重すぎたこと、「ヤングケアラー」という言葉すら存在しない時代だったことなどが、日本での出版が見送られた主な理由だったのではないかと思っています。

それがなぜ今になって同社から邦訳出版されることになったのか? それについては、訳者あとがきにも書きましたが、2024年12月28日に翻訳者の越前敏弥さんのチャンネルで開催していただいたオンラインイベントで詳しく話していますので、ぜひご覧いただければと思います。ネタバレなしで、作品の魅力や裏話(なぜウジ虫が緑なのか、など 笑)も紹介しています。

この悲しくも美しく、希望に満ちた素晴らしい作品をようやく日本のみなさんにお届けできて、本当によかったと思っています。厳しい現実に突き当たろうとも、帯にあるとおり「痛みも苦しみも、いつか乗り越えられる」。今は亡き作者のそんな思いが――そして、すばやい澄んだ叫びが――多くの読者のみなさんに届くことを心から願っています。

▼参考サイト

・訳者の宮坂が所属するやまねこ翻訳クラブのサイト

・やまねこ翻訳クラブ発行のメルマガ「月刊児童文学翻訳」2007年7月号に掲載された、植村わらびさんによる『A Swift Pure Cry』のレビュー

・やまねこ翻訳クラブ作成のシヴォーン・ダウド作品リスト


▼東京創元社版の『すばやい澄んだ叫び』紹介ページ(試し読みできます)

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