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合皮の寿命は2〜3年 花子のお直し屋日記1

こんにちは。Hadopelagic Maison(ヘイドペラジックメゾン)の花子です。
12月も半ば、関東ではようやく冬らしくなってきました。今月に入ってから冬物の上着をクローゼットから取り出した……なんて方もいらっしゃったのではないでしょうか。お直し業の方では、入ってくる品物の傾向からも衣替えの時期が例年より遅れていた印象です。

冬物のお素材はどれもとても魅力的で、寒いのは嫌ですが冬服を着るのにはワクワクするもの。ですが……
本日はそんな冬の衣替えの時期に起こる悲劇、合皮の劣化についてのお話を。


「クローゼットから出してみたらこんなことに…」

まずは悲しいご相談の実例をお見せします。

こちらは購入後3年が経過した合皮のシャツジャケットです。(私物)
ご覧の通り襟や肩がボロボロに。膜が剥離し、触るだけでもどんどん新たに剥がれていきます。
どうしてこんなことになってしまうかというと、合皮という素材の原料に理由があります。

そもそも合皮とは?

合成皮革とは、不織布やニット地の土台を樹脂でコーティングして人工的にレザーの風合いを再現した生地のことを言います。洋服の他、バッグや靴などにも幅広く使用されています。
型押し加工でシワやシボの表現ができたりと風合いも豊富、しっかりしていて風を通さず、お値段もレザーに比べると手に取りやすく人気なこの素材ですが、『寿命が短い』という欠点があります。

合皮の寿命は2〜3年

生地を製造する際、コーティングにはポリウレタン樹脂が使用されていることが多いのですが、このポリウレタン、経年劣化が激しく、湿度、水分、熱、紫外線などの影響を受けて空気に触れているだけで傷んでいきます。
先ほどの写真のようにボロボロになったり、手触りがベタベタしたり、使用頻度により程度は異なりますが、避けられるものではありません。

その耐用年数は『製造後』2〜3年と言われています。
『購入後』ではないのが難しいところで、洋服売り場、縫製工場、生地の製造……と遡っていくと、手に取った時には既に少なくとも半年〜1年は経過していると考えて良いでしょう。
セール品など場合によっては長らく在庫で眠っていたということもあり得るので、合皮に限らずポリウレタンが含まれる製品を購入する際にも少し注意が必要です。

少しでも長く使用していくために

ポリウレタンを傷める原因は、湿度、水分、紫外線、熱、摩擦などです。適切なお手入れを心がけることで、劣化を遅らせることはできます。

・水拭きは避ける
食事をこぼしてしまうなどして汚れた時、できれば水拭きは避けましょう。
アルコール除菌シートがオススメですが、物によっては色落ちしてしまう可能性があるので目立たない場所で確認を。
また、ゴシゴシと強く擦らないように気をつけましょう。

・雨などで濡れたらすぐに拭き取る
小雨程度なら傘をささずに近くの屋根まで早足で凌ぐ状況もよくありますね。
落ち着いた場所で、できるだけ早めに水滴を拭ってあげましょう。この時も強く擦らないことに注意が必要です。

・風通しの良い環境で保管
保管状況も大事な要素の一つです。
冬ものは嵩張るのでクローゼットの密度も高くなりがちですが、可能な限り間隔をあけ、風通しを良くしましょう。お品物によってはドライクリーニングに出すことがあると思いますが、受け取りの際のビニールカバーは外して保管してください。
適度な換気や、夏場は除湿剤などを入れて湿度対策、また直射日光を避けることも大切です。

品質表示タグなどもよく読んで、その製品に合った取り扱いをしてあげましょう。

余談ですが、先程の私物のシャツジャケット、実は襟の他にはまだ目立った傷みはありません。
襟首周りは皮膚に直接触れる上、マフラーの着用と発汗などにより湿度が高くなりやすい場所でもあるので劣化が早まったと考えています。
肩の剥離も、私は左肩にショルダーバッグをかける習慣があるので、その摩擦のせいで右よりも早く剥離してしまったのかもしれません。
使い方のクセや部位によって劣化の進行具合が変わる事例として参考になればと思います。

お直し屋として提案できること

残念ながら、新たにコーティングしなおすことは不可能です。
お直し屋としても歯痒いものがありますが、これに関しては寿命という他ありません。
ただし、物によってはご提案できるお修理もあります。

部分取り替え

袖のカフスや襟だけが合皮でできたお品物なら、合皮のパーツのみを別の素材で新しく作り直すという方法が取れます。
合皮の風合いが気に入って買ったのに……という場合は、寿命についてご承知おきの上で改めて合皮で作り直すことも可能です。または本革にしてしまう、というのも一つの手でしょうか。その場合はお手入れ方法などが変わりますのでご留意ください。

注意点として、『作り直すための素材は持ち込みのみ』という対応のお店もあるでしょう。これはイメージと違ったので再加工に……などといったトラブルを避けるためです。
お店で用意してくれる場合にも綿密な相談が必要になります。何か理想に近い商品の写真などを事前に何点か用意しておくとスムーズです。

かなりの大修理になるため、お品物やお店にもよりますが価格は万単位になる可能性が高いです。新しくアウターを買えてしまうくらいのお値段にはなりますが、思い入れのあるお品物の場合は是非一度ご検討ください。

別布で覆い隠す

これはある意味で苦肉の策なのですが、全体的には劣化がそこまで激しくなく、また運よく剥離の位置的にデザインとして見られる場合に可能な方法です。
例えば、胸元ならワッペン、肘ならエルボーパッチなどを縫い付けて覆い隠してしまいます。こちらも取り付ける素材は持ち込みが必要な可能性が高いです。
洒落たデザインのワッペンを複数組み合わせてコラージュ風に、など物によってはリメイクを楽しむこともできます。

とはいえ、他の部分の劣化も時間の問題ですので、あくまで応急処置として捉えてくださいね。



以上、第一回お直し屋日記、合皮製品についてのお話でした。
合皮に限らず、ものはいつか使えなくなってしまうもの。ですがせっかく気に入って迎え入れたお品物、適切なお手入れをして少しでも長く愛用していきましょう。
この記事が少しでもお役に立てたら幸いです。

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浜島 花子/Hadopelagic Maison
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