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お直し屋がTESを取った時の話/花子のお直し屋日記3

こんにちは、Hadopelagic Maison(ヘイドペラジックメゾン)の花子です。
2月1日より、繊維製品品質管理士(TES)試験の事前エントリーが始まります。今年の試験日は7月13日。年に一度の試験に向けた準備の方はいかがでしょうか?

今回は、TESってなに?という方へどんな内容なのかの紹介や、TES試験を受けてみようかな?と思い立ったかたへ向けて私の受験時の経験、論文試験対策で役立った勉強法、なってからのことなどをお伝えしたいと思います。

三年ほど前の記憶を掘り起こして書いていますのでフワッとしている部分もあるかと思いますが、これからTESを受験する皆様にひとつの例として参考にしていただけたら幸いです。


TESとは?

繊維製品品質管理士(Textiles Evaluation Specialist)とは、繊維に関する幅広い知識を持ったスペシャリストです。この資格を取得することで、技術向上、品質不良の対応や再発防止、お客様への情報提供など様々なシーンで役立つ知識が得られるほか、資格保有者限定の講習会などに参加できます。
細かな役割については是非ホームページをご覧ください。有資格者の業種別割合や、企業別保有者数など、主にどのような業種で活躍しているかのデータも見られます。

試験形態

TESになるためには5科目の試験に合格することが求められます。
うち3科目は選択肢や語群の中からひとつを選んで解答していく短答式試験、2科目は設問に対して文章で解答する記述式試験です。
各科目とも試験時間は60分、合格基準は100点中60点以上。
意外と低い……?と侮ってはいけません。毎年の合格率はおよそ20%前後となかなかの難関です。

勉強する範囲がかなり広いですが、3年間は合格の取り溜めをすることができるので気持ち的には少し楽です。
かくいう私も一度で合格できなかったため、二年かけて取得しました。

試験科目

ホームページにも載っていますが、私の所感を交えてざっくりと解説していきます。
テキスト購入のページで目次のみ見ることができるので、チェックしてみてください。

Ⅰ、繊維に関する一般知識
繊維や糸、布の種類・性質についてや製造方法、染色加工についてなどの知識を問う試験で、公式テキスト『繊維製品の基礎知識シリーズ』第一部の内容です。
専門学校では『素材論』などといった名前の授業で学ぶ内容なので、受けたことがあればある程度の下地があると言えるでしょう。
とはいえ、テキスト内のグラフや図が一部空欄になっている穴埋め問題や、織機の部位の名称など、出題範囲はかなり細かいので気は抜けません。テキストのすみずみまで目を通しておくと良いでしょう。

Ⅱ、家庭用繊維製品の製造と品質
主に洋服が作られるプロセスについてや衣服に求められる性能、繊維や布の品質管理について問われる試験で、公式テキスト『繊維製品の基礎知識シリーズ』第ニ部の内容です。
私が苦戦したのは繊維や布の試験方法。何を調べるためのどの試験でどの機械を使うのか、聞き慣れないカタカナの試験名や試験機名がたくさん登場します。これらは別途ノートに書き写して整理しておくと勉強しやすかったです。

Ⅲ、家庭用繊維製品の流通、消費と消費者問題

流通に関する知識や購入後の取り扱いなど、衣料品を取り巻く環境について問われる試験で、公式テキスト『繊維製品の基礎知識シリーズ』第三部の内容です。
心理学や統計学、ビジネス論、業界の歴史や法律、環境問題といった繊維そのものからはやや離れた内容も多く、専門学校でも縫製中心の科では取り扱われない分野があったため私は特に苦手な科目でした。
洗濯表示に関する知識などは繊維業界におらずとも使えるので、よく覚えておいて損はないでしょう。

Ⅳ、事例
提示された苦情品事例について、発生原因や調査方法、再発防止策などを検討し、設けられた問いに文章で答える試験です。二つの問題からどちらか一方を選んで回答することになるので、問題文をよく読み自信がある方を解くとよいでしょう。
Ⅰ〜Ⅲの内容が前提となるほか、公式テキスト『繊維製品の品質問題究明ガイド』Part2が参考となります。繊維製品の事故がどのような原因で起き、再発防止のためにどういった対策が取れるかなど写真付きで様々な事例が載っており、このテキストの形式で解答を行うことになりますので、どういった視点が必要なのか考えながら読みましょう。

Ⅴ、論文
提示された論題について600〜800字で答える試験です。
自分自身の考えを述べる必要があるので決まった答えもなく対策が取りづらいですが、業界や社会の流れに沿った問題が出ますので現状を知ることが大切です。
また、毎年ではありませんが『TESの立場から論じなさい』、『TESとしてどう対応するか』と問われることがあります。TESの役割について、自分なりの考えを持っておくと良いかもしれません。

私がやった試験対策

公式で試験対策テキストと3〜5年分の過去問題集が販売されている他、ホームページに前年度の問題・回答が掲載されていますのでそれらを利用して繰り返し問題を解きましょう。

とにかくテキストが膨大な量なので、自宅などでじっくり勉強に取り組む際にはまず『過去問を解きながらテキストを読む』のが良いのではないかなと思います。

通勤通学時間やスキマ時間にザックリとテキストを流して読んでおき、まずは一年分の過去問を解きながら詰まったところをテキストから探し出して読み返す……というのが私は一番頭に入りました。
その際、問題ごとにテキストの何ページの内容を問われているのか書いてしまうのが良いです。5冊もある膨大なテキストから該当部分を探し出すのは一苦労ですので。
通して解けるようになったら次の年の過去問へ進み同じことを繰り返します。

短答式の3科目はアパレルメーカーや縫製工場、検査機関など身を置いている業界によってそれぞれ体感的にわかりやすい部分があると思います。私などは縫製工場にいたことがあったため、製造に関わる部分はテキストを読む前から既に身についていた内容も多かったです。そういった部分はサッと済ませて、苦手な科目に時間を割いてしまいましょう。
それぞれ内容を暗記した上で、過去問で試験問題の癖を掴んでおくと、どんな覚え方をしておけば良いかがわかってきて点数が取りやすくなっていくと思います。

記述式の2科目は勉強方法に悩みました。問題で聞かれていることはわかっても、どう答えれば良いか分からずペンを持って固まる始末。
ですので一回目はすぐに解答を読みました。まずは書き方を知るところから。
書き出しや言い回しなどある程度そのまま流用ができます。なんとなくでも掴めてきたら、次は必要なワードだけでも書き出すようにしていき、そうして徐々に文章量を増やしていきました。
TESの先輩方にアドバイスを求めたところ、過去の解答例を丸々書き写す練習などをしたとも聞きます。試験本番と同じように、スマホのメモなどではなく紙にペンで書いていく練習もしておきましょう。

私は学生時代から勉強はあまり得意ではありませんでした。そんな私でもどうにか取得することができたので、是非挑戦してみてください。
また、TESは幅広い知識を問われる資格ですが、実際に身を置く業種で全ての知識を使うかというとそんなことはありません。普段一切使わないであろう分野は、試験のためだけに一時的に頭に詰め込む程度の意識でも良いと思います。必要になったら、また振り返れば良いのです。
(なんて、TESが言ってはいけないことかもしれませんが)

論文試験対策

論文試験に落ちた原因を自己分析すると、圧倒的に勉強が足りなかったことでした。
勉強、というよりもテレビや新聞を見る習慣がなく、社会のことにあまりにも無関心でした。
しかし先程も書きましたが、この論文試験には業界や社会の流れに沿った論題が出されます。例えばコロナ禍で変化した販売方法や、人口減少が与える影響。生産者と消費者の認識のズレ。テキストを読んだり、過去問を解くだけでは対策しづらいです。

そこで、ファッションビジネス誌である繊研新聞を購読し始めました。
紙面と電子版とありますが、通勤時間などにスマホで手軽にチェックできる利点から電子版に有料会員登録しました。
経済的になかなか難しい場合もあるかもしれませんが、服飾系専門学校では図書館に置いてある可能性がありますので学生のかたは利用すると良いでしょう。
OG・OBも条件付きで利用できる場合があります、母校の規則を確認してみてください。

私はトップのピックアップニュースや、『総合・ビジネス』、『インタビュー』、『素材・製造・商社』のニュースを中心に、気になった記事や傾向として出そうな分野の記事を片っ端からチェック。特に大切だと思った内容は勉強用の手帳やノートにペンで書き写したりもしました。
ちなみに当時のブックマークを見返すと、SDGs、サステナビリティといったキーワードが多かったです。

私の場合、幸運なことに繊研新聞で得た知識をそのまま使える問題が出題され、無事に合格。結果的にこの方法は大正解でした。
試験対策に限らず継続して読みたい新聞です。
まずは気楽に無料版からでも読んでみることをおすすめします。

合格後のこと

合格しTES会に加入すると、各地で定期的に行われている様々な講演会などに参加することができます。
苦情品の原因を検討する会や、さまざまな分野の講演会、クリーニング工場や機材製造工場の見学会。また様々な業種の人と出会えたり話ができる貴重な機会でもあり、名刺交換をしている姿もそこかしこで見かけます。

この講演会への参加権は私がTESを取りたいと思った大きな理由のひとつでした。
ちなみにTESは5年ごとに更新試験があるのですが、この講演会へ一定回数参加することによって試験が免除されるという利点もあります。
異業種の講演であっても知らない世界に触れることで得られることもありますし、単純に面白いので、予定のあう時は可能な限り参加するようにしています。
参加費はその都度かかりますが、とても勉強になりますので積極的に参加することをお勧めします。

お直し屋がTESを取ってみて思うこと

お直し業でTESを役立てるには? 
これは勉強中からなかなか悩ましい問題でした。

TESはどちらかというと検査機関やアパレルメーカー、また他業種との関わりが多い役職で役立つ類の資格……という認識でした。交流会に参加してみると幅広い職種の人がいますがなかなか縫製現場の人とは出会えていませんし、そもそも取ろうと思う人の方が少ないかもしれません。私も初めてこの資格を知って興味を持ったのは専門学校時代の素材論の授業が好きだったからで、実は仕事に役立てようと思って取ったわけでもありませんでした。

とはいえ、論文の過去問では『TESの立場から論じなさい』『TESとして対策を考えなさい』との文言が何度も出てきますし、せっかくなら活かしたい気持ちも勿論あるので、ぼんやりとですが考えてみました。

お直し屋に最も近いと思ったのは、事例の科目です。
何故なら、テキストに載っているような事故品がそっくりそのまま持ち込まれてくるから。
クリーニングで縮んでしまったものを大きくしたい、接着芯がぶくついてきたのを直せるか。セーターの虫食いや、ひっかけて破れた部分を縫い塞いでほしい。縫い目の滑脱に、合皮のコーティング剥離。本来クリーニングの領分である染み抜きや、変色の修正まで(直し屋では対応していない場合が多いです)。
果ては洗濯の方法や、収納時の虫対策までお問い合わせが来ることも。

……おや。なんだか試験対策で学んだあれこれと関連している気がしますね。

事故品はもう使えないと判断し処分されてしまうことが多いけれど、私は『その先』、これらを再び使えるようにできないかを考える直し屋。
TESとして身につけた知識と縫製士として培った技術も合わせて、何が原因なのかを究明し、修理方法を検討し、再発防止策を提案する。どんなお問い合わせであっても可能な限りお客様が納得できる案内を。
つまりはここが私にとってのTESの活かしどころなのでしょう。

私の場合、この資格を取ったことによって特に会社での評価や昇給には繋がりませんでした。ネットで検索していると中には『必要無い』といった意見もあります。
ですが別に会社のために取ったわけでもなかったですし、目当てだった講習会へも参加できて、私は取って役に立ったと思っています。

全ては自分次第です。
皆様も、TESを自分の仕事にどう活かせるのか是非一度考えてみてください。


以上、第三回お直し屋日記でした。
この記事を書くにあたって、数年しまいっぱなしだったテキストを改めて手に取ってみました。すっかり頭から抜け落ちた知識も多く、本当に合格したのだったか?とすら思えてくるほどです。
しかし『いらない』『使わない』と思っていた分野の内容も、取得から数年経って色々と人生の目標が増えたいま、以前とは違った受け取り方をしている自分がいます。あんなにしんどかった流通・消費の科目もです。早速必要な時が来ているということでしょうか。
試験対策でなければテキストは純粋に面白い読み物なので、定期的に読み返してこれからも日々勉強し続けていこうと思います。

これからTESを受験する皆様に、良い結果が訪れることを願っております。

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花子/Hadopelagic Maison
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