洋服お直し講座1 〜採寸前の心構え〜
こんにちは、Hadopelagic Maison(ヘイドペラジックメゾン)の花子です。
本日から不定期で、主にアパレルショップ販売員さんや、お直し業界に入りたてという方に向けてお直しの採寸や承りに関する記事を書いてみようと思います。
また、アパレル業などに従事していない方にも使える知識、お直し屋に持ち込む際に気を付けておくと良いことや、修理することで起こるデメリットなども合わせてご紹介していきたいと思っています。
※一部の内容は有料記事です。
もし有益だと思ってくださいましたら、是非ご購読をよろしくお願い致します。
シリーズ概要
商業施設内のお直し屋で働いていると、館内のショップからお客様がお買い上げした商品のお直しなどが持ち込まれます。その際に難しいと感じることのひとつが販売員さんとのコミュニケーション、主に修理方法についての相談や確認時です。
ショップからお持ち込みされるお品物に関しては、基本的に私たちお直し屋はお客様と直接やりとりができません。
試着している姿を見ることができないので販売員さんからいただく情報を元にお見積りやお修理をするのですが、販売員さんの中には服を作ったことが無く構造を知らないというかたやアルバイトの学生さんもいらっしゃるため、縫製現場の言葉やその意図が伝わらなかったり、修理に必要な情報がいただけない……といったことがしばしば起こります。
パンツの丈つめなどは比較的わかりやすいものですが、ジャケットなどの身幅つめや肩幅つめとなると注意点が増え、更にデザインの凝った品物になってくると頭を抱えたくなることも。
気を付けないとお客様のご要望通りの仕上がらなかったり、思わぬトラブルになってしまいます。
少しでも『こんなはずじゃ……』を減らすために。
この講座では採寸時に見てほしい場所や、お直し方法による価格の違い、何故そうなるのか、など『お修理する側の視点』をお伝えしていこうと思います。
もちろんお直し屋によっても違う部分がありますので、一つの参考としていただいて、お取引先様とのやりとりに少しでも役立てていただければ幸いです。
採寸の前の心構え
〜お客様への気遣い〜
お修理の話に入る前に。
どのお品物にも共通して言えることとして、私たちは採寸時にお客様の体型に言及しなければならないことがあります。
お直し屋が言う体型というのは、『必要な寸法の話』や『修理するにあたって考慮すべき身体的特徴の話』なのですが、どうしても美醜の話に結びつきやすい部分です。
身長の高い/低い、バスト・ウエスト・ヒップのサイズ、なで肩/いかり肩、猫背etc……。
中にはコンプレックスを抱えているお客様もいらっしゃると思いますが、ここで確認せずに進めてしまうとお客様にお修理内容をご理解いただけなかったり、トラブルの原因にもなるので勇気をだして切り込む必要があります。
完全に避けることは難しいですが、失礼の無いように誠意を持って接し、なるべくポジティブな言い回しを心がけながら採寸していきましょう。
〜先地品/先方品はよく状態確認を〜
時には売り物だけでなく、購入してしばらく着用した品物(先地品、先方品)の修理も持ち込まれると思います。
体型変化よるサイズ調整、擦り切れ、ボタンの付け直し、虫食いの穴あきなど……是非お気軽にご相談していただきたいのですが、その前にお客様と一緒にお品物の状態をよく確認しておきましょう。
主な理由を二つご説明いたします。
①他の部分に不具合や汚れがないかを調べる
先地品の場合、基本的にはお客様がお直し箇所を指定して持ち込まれるものですが、時折お客様ご自身も見落としている綻びや汚れがあります。
これらはお修理が済んだ後に見つかった場合、ショップやお直し屋で汚れたのでは?とお客様に不信感を抱かせてしまうことにも繋がります。
修理に入る直前に気付いてお客様に慌てて問い合わせる、などといった手間も省けますので、可能な限り受付の時点で気付いて、どう対処するか直接お客様と確認することが大切です。
例えばカーディガンのボタン付け直しの場合。取れたのは1箇所だとしても全てのボタンの緩みを確認しましょう。この時点で気付ければ一緒に修理できます。
また、全体をざっくりと見て食べこぼしや化粧品のシミなどが無いか、発見した場合はどうするかをお客様とお話ししましょう。時間が経つと落ちにくくなるので、一度お返ししてクリーニングに出した方が良い時もあります。
修理箇所付近の汚れは加工によって消える場合と残る場合があるので、不安な場合は是非お直し屋へご相談を。
②お預かり不可となる品を弾く
お直し屋ではたくさんのお客様からお洋服をお預かりしています。他の品物に影響を与えるような状態のものはお持ち込みをお断りすることもございます。
●皮脂や汗、血液、砂埃などで著しく汚れているもの:他のお客様のお品物を汚す危険性、お預かりしている間に汚れが落ちにくくなる危険性があります。
●濡れている、湿っているもの: 変色やカビ発生の原因になります。
●ペットの毛が付着しているもの:動物アレルギーのお客様のお品物に付着して気付かずにお渡ししてしまう危険性があります。
●タバコや香水、柔軟剤の匂いが強いもの:におい移りの原因になります。
など、主にこういったものが挙げられます。
ペットの毛で盲点なのが品物の裏側。コロコロなどで表を綺麗にしても内側に……といったこともあります。決してお客様の愛する家族を非難するわけではありませんが、健康被害を引き起こす危険がありますので特に気を付けたい部分です。
においは慣れてしまってご本人は気付いていないことも。香りの感じ方は人それぞれなので難しいところですが、におい移りで買い取りになってしまった事例もありますので気を付けていて損はありません。
指摘するのに少々心構えが必要ですが、クリーニング等で綺麗にしてから持ち込んでいただくようご案内しましょう。
〜言うべきことは言う〜
お直しは、残念ながらどんなものでも綺麗に直せる魔法の技術ではありません。
修理不可能な場合や、修理跡が目立つ場合、技術的には可能でもおすすめできない場合など様々なケースがあります。
一つ例を挙げると、タイトスカートの破れ。あまりストレッチ性の無いお品物で大股で歩いたり階段を段飛ばしで昇ったりすると、スリット周辺など力のかかる所が破れてしまうことがあります。
いくつかお修理方法はありますが、比較的綺麗に治るのは破れを縫い込むことで傷を裏側に隠してしまう方法。しかし文字通り縫い込みますので、言ってしまえば『幅詰め』です。元々タイトなスカートが更にタイトになってしまいます。
お修理自体は可能でも、同じ事故が再び起こってしまう可能性が高まるためあまりおすすめができません。
もちろん最善は尽くしますが、お客様にいただく金額に見合ったお修理にならない時は正直にお伝えさせていただくこともあります。無理なことを無理と伝えることもプロの役目です。
ショップさんの方でも、そういった場合はお客様にデメリットを十分ご理解いただいた上でお持ち込みの検討をしていただければと思います。
本日は採寸・修理の前段階、受付時に気を付けたいことの話をさせていただきました。
第2回からは最もお持込の多い『パンツの丈つめ』について、何回かに分けて不定期更新していく予定です。
パンツ丈は自分で採寸するというお客様も多いので、アパレル業に従事していない方にも是非見ていただけたらなと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
また、この後少しだけ有料エリアを設けてあります。
もう少し突っ込んだ話として、私のお直し屋での経験を元に体型に言及する際の言い回しや受付で気を付けたいところ、お直し屋のホンネなどをちょこっとご紹介いたしますので、興味がありましたらご購読よろしくお願いいたします。
ここから先は
¥ 200
この記事が参加している募集
この記事は使える!と思ってくださいましたら、是非応援をよろしくお願い致します! 頂いたチップは作品制作費や、今後より有益な記事を提供していくための活動費として使わせていただきます。