エキゾチック演算遊び(3:後者関数-plus)
さて、前回とはまた打って変わって、勝手に演算規則を作り上げるコーナー、今日もエキゾチックな演算で沼りましょう。
今回は和演算を後者関数、積演算を通常和とした演算を考えてみます。
いったいどこ由来かと言いますと、勘の良い方はもうお気づきでしょう、そう、ハイパー演算です。
ハイパー演算って? という方は、
こちらでも読んでください。
簡単に言うと、和や積、冪乗の拡張としての二項演算です。こいつらは
$$
\begin{array}{}和演算の繰り返し&=&積演算\\積演算の繰り返し&=&冪乗演算\end{array}
$$
という関係があるので、それを拡張しようってことです。上の引用記事では冪乗の繰り返しとしてテトレーション、その記法としてクヌースの矢印記法が出てきました。
このハイパー演算では
$$
\begin{array}{}1&2&3&4\\和&積&冪乗&テトレーション\end{array}
$$
という段階をつけます。それだから4番目はテトレーションなんですね。
ではこの類推で、0番目のハイパー演算はなんなのかと言いますと、後者関数になるというお話でした。
https://note.com/h_kamishimo/n/n62ac4f4723c2
具体的には一番目の数を無視し、二番目の数の後者関数をとり、
$$
a⓪b=b+1
$$
です。
和と積をmaxと通常和に変換し、計算を簡単にするのがトロピカル演算の組み合わせでしたね。
「エキゾチック演算遊び(1)」では、その逆、計算を面倒にする演算の組み合わせ、積-冪乗演算を見て爆死しました。
こいつはハイパー演算で言って2,3番目のものだったんですが、あまりにもうまくいかないんでヤケクソ気味に「そういやトロピカルってちゃんと0,1番目のハイパー演算なのか?」と言って調べたら違ったわけです。
$$
\begin{array}{}0&1&2&3&4&…\\2⓪4&2+4&2\times4&2^4&2\uparrow\uparrow4=2^{2^{2^{2}}}\\=5&=6&=8&=16&65536\end{array}
$$
さて、そうなると当然の疑問として、トロピカル和の代わりに和演算として0番目のハイパー演算、ゼレーションを持ってくるべきじゃないか、と思うわけです。
今回はそれを考えてみます。
と、豪語しつつまずちょっと興味深い問題があります。ゼレーションの定義を受け入れるならともかくとして、初学者的は初めて聞くと「?」となるかなと思います。
「ゼレーションってちょっと変じゃない?」
「これ$${a}$$いる意味なくない?」
そう、確かにゼレーション、$${+}$$や$${\times}$$に比べるとちょっと性質が悪いんです。
ゼレーションの定義は「一つ目の値は無視し、後ろの値に1を足す(一つ後ろを答える)」ですから、可換ではありません。
$$
\begin{array}{}a⓪b&=&b+1\\b⓪a&=&a+1\end{array}
$$
このため連続演算する時、左からの演算と右からの演算で結果が変わります。左から順に演算すると、
$$
\begin{array}{}(a⓪a)⓪a=&\\(a+1)⓪a&=&a+1\end{array}
$$
ですし、右から順の演算だと、
$$
\begin{array}{}a⓪(a⓪a)=&\\a⓪(a+1)&=&a+2\end{array}
$$
となります。
またこの演算は1つ目の数がなんであれ、結果が第2の数で決定されてしまうため、右側からも左側からも単位元がない状況です。
22/6/1追記:
トロピカル同様に$${-\infty}$$を付け加えて、右からの単位元としてやればうまくいくってことを失念してました。
えー、でもここでトロピカルの影をチラつかせるのはなぁ……。なぜそんなためらうかって? 詳細は下の方に。
1つ目の数が何でも良く、2つ目の数のみ必要となると、別に二項演算に分類する必要もないわけです。もちろん定義の上では2つの数から1つの数を出す写像、関数ですから二項演算に含められるんですけどね。
やっぱりちょっと変な子です。
こういう階層を持つものって、イメージ的には階層の低い方が簡単で性質のいいイメージがありますが、ハイパー演算ではそんな期待通りの性質は無いようです。
しかし、こんな変なやつが他のハイパー演算同様の性質を持つのか、気になりますよね?
ちょっと試してみましょう。
ひとまず演算の順序を右からと定めます。
まずハイパー演算というと、
$$
\begin{array}{}和演算の繰り返し&=&積演算\\積演算の繰り返し&=&冪乗演算\end{array}
$$
具体的には
$$
\begin{array}{}a^b&=&\overbrace{a\times a\times...\times a}^{b}\\a\times b&=&\overbrace{a+a+…+a}^b\end{array}
$$
こんな感じで和と積、積と冪は低層の演算の$${b}$$回繰り返しで表せる性質があります。
つまり和とゼレーションにもこの関係を期待したいわけです。
$$
\begin{array}{}a⓪a&=&a+1\\a⓪(a⓪a)&=&a⓪(a+1)\\&=&a+2\\a⓪(a⓪a⓪a)&=&a⓪(a+2)\\&=&a+3\end{array}
$$
うーん、惜しいけど、これくらいはまあ許容でいいんじゃないですかね?
ゼレーションの$${n}$$回演算は$${a+n}$$のようです。つまり$${a+b}を再現するにはゼレーションが$${b}$$個、$${a}$$を$${b+1}$$個書く必要があります。
和や積の場合は、
$$
\begin{array}{}a+a&=&2a\\a+a+a&=&3a\\a+a+a+a&=&4a\\\\a\times a&=&a^2\\a\times a\times a&=&a^3\\a\times a\times a\times a&=&a^4\end{array}
$$
こんなふうに$${n}$$回演算によって$${n+1}$$の係数なり冪なりが生じますから、ゼレーション君、一つずれてるわけです。
とはいえひとまず繰り返しで一段上のハイパー演算には行けるようですね。
さて、ではこのゼレーションを和とし、積を通常和(1つ目のハイパー演算)とした演算を考えてみましょう。
ゼレーションに単位元がなく、結合律も満たさないので、この辺は放っておきます。
というわけでいきなり分配則をみてみます。
$$
\begin{array}{}(a⓪b)+c&=&b+1+c\end{array}
$$
一方
$$
\begin{array}{}(a⓪b)+c&=&(a+c)⓪(b+c)\\&=&b+c+1\end{array}
$$
ですので、ちゃんと分配則は成り立っています。
左からも分配則は成立していて、
$$
\begin{array}{}c+(a⓪b)&=&c+b+1\\=(c+a)⓪(c+b)&=&c+b+1\end{array}
$$
となります。確かに、この演算での積は可換なので分配則も左右どちらからやってもいいんでしょうね。
こんなふうに、ゼレーション-和の代数は分配則を満たしてくれるので、少しは役立つかなという雰囲気がありますね。ただ、結局ゼレーションは通常の足し算をしているにすぎないので、そこまで明白に見たことない何かが出るかというとらそんなことはないんじゃないかと思います。
そんなことより、やっぱり気になるのは、第一の数を無視して第二の数のみに依存するエセ二項演算というところでしょう。
実のところゼレーションも他にもいくつか定義が提唱されていたりします。でも、結局ここで紹介しているのに落ち着いているようです。
他にどんな定義があるか少しみます。
僕らが欲している性質というと、
・ともかく可換性だけは復帰させたい。
・あまり元の定義から変えたくない。
・ちゃんと二項演算にしたい。
というところでしょう。
この辺りを満たす提案として、ようは$${a⓪b}$$とあったらまず$${a}$$か$${b}$$をなんらかの方法で選び、選んだやつに$${+1}$$するという関数があればいいんでしょう。
その例として
$$
a⓪b=\max(a,b)+1
$$
が挙げられます。どうです? トロピカルからこの話にやってきた意図が分かりましたね?
そう、つまり、どっちか大きい方を選んでそれの後者関数、あるいはどっちか小さい方を選んでその後者関数とすると、可換だし、第一の数にも意味があるし、元の定義からも外れにくい。そして何よりトロピカル演算と相性が良いわけです。
ちなみにここではmaxとって$${+1}$$を先に話しましたが、これはそもそもの後者関数の使い方が念頭にあります。ようは、これ、「今まで出てきた数よりひとつ大きい数を出す」そんな関数なわけです。
こいつがあれば数を無限に用意できるわけですね。ペアノの公理のためともいえますが、その辺りは私そんなに詳しくないのでふれないことにします。
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