リベンジ・トロピカル-対称化(3)

トロピカル演算になんとかしてマイナスを入れたいこの記事、今回はようやく具体的な計算に入ります。

前回までが記法と演算の導入でした。
今ここでまとめるととても長くなるので、この辺りは前回の記事などを読んでください。


さて、今回はと言いますと、まず導入した三つの数について、$${\boxplus,\boxminus}$$をするとどうなるか見ていきます。
$${A=\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix},B=\begin{pmatrix}b\\-\infty\end{pmatrix}}$$とします。

確かめるのは6パターンです。

$$
\begin{array}{}A\boxplus B&=&\begin{pmatrix}a\oplus b\\-\infty\end{pmatrix}\\(\boxminus A)\boxplus (\boxminus B)&=&\begin{pmatrix}-\infty\\a\oplus b\end{pmatrix}&=&\boxminus(A\boxplus B)\\A^\bullet \boxplus B^\bullet&=&\begin{pmatrix}a\oplus b\\a\oplus b\end{pmatrix}&=&(A\boxplus B)^\bullet\end{array}
$$

ここまでは良いんですが、以下ちょっと面倒です。

$$
\begin{array}{}A\boxplus (\boxminus B)&=&\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}\boxplus\begin{pmatrix}-\infty\\b\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}\end{array}
$$

なのですが、これ、最後の結果はこのままではダメなんです。
というのも僕らは前回の記事で、成分の大小のうち大きい方を残して小さい方は$${-\infty}$$にする同値類をとっていました。
つまり今回の結果も$${a,b}$$の大小で結果が変わります。

$$
\begin{array}{}A\boxplus (\boxminus B)=\begin{cases}\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}&=&A&(a >b)\\\begin{pmatrix}c\\c\end{pmatrix}&=&C^\bullet&(c=a=b)\\\begin{pmatrix}-\infty\\b\end{pmatrix}&=&\boxminus B&(a< b)\end{cases}\end{array}
$$

こんな感じになるわけです。
次行きます。後二つは上で出てきた同一視に気をつけさえすればまあ簡単です。

$$
\begin{array}{}A\boxplus B^\bullet&=&\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}\boxplus\begin{pmatrix}b\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\oplus b\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{cases}\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}&(a>b)\\\begin{pmatrix}b\\b\end{pmatrix}&(a\leq b)\end{cases}\end{array}
$$

$$
\begin{array}{}A^\bullet \boxplus (\boxminus B)&=&\begin{pmatrix}a\\a\end{pmatrix}\boxplus\begin{pmatrix}-\infty\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\\a\oplus b\end{pmatrix}\\&=&\begin{cases}\begin{pmatrix}a\\a\end{pmatrix}&(a \geq b)\\\begin{pmatrix}-\infty\\b\end{pmatrix}&(a< b)\end{cases}\end{array}
$$

結果をまとめます。
ここまで$${A=\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}}$$と、全体のネーミング$${A}$$と成分の文字$${a}$$を使い分けてきましたが、実際の数を使う場合はどちらも同じ1とか3とか、なので$${3^\bullet=\begin{pmatrix}3\\3\end{pmatrix}}$$などと書くことにします。

そうすると、

$$
\begin{array}{}a\boxplus b&=&a\boxplus b\\\boxminus a\boxplus(\boxminus b)&=&\boxminus(a\boxplus b)\\a^\bullet \boxplus b^\bullet&=&(a\boxplus b)^\bullet\\a\boxplus(\boxminus b)&=&\begin{cases}a&(a>b)\\a^\bullet&(a=b)\\\boxminus b&(a< b)\end{cases}\\a\boxplus b^\bullet &=&\begin{cases}a&(a>b)\\b^\bullet&(a\leq b)\end{cases}\\a^\bullet\boxplus(\boxminus b)&=&\begin{cases}a^\bullet&(a\geq b)\\\boxminus b&(a< b)\end{cases}\end{array}
$$

ということになります。


以上のように和は分岐が多くてかなり面倒です。
では積は? こちらはそもそも演算が$${\otimes}$$とは違うのでまた別の面倒臭さがあります。

$$
\begin{array}{}A\boxtimes B&=&\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}\boxtimes\begin{pmatrix}b\\-\infty\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\otimes b\oplus -\infty\otimes -\infty\\a\otimes-\infty\oplus b\otimes -\infty\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a+b\\-\infty\end{pmatrix}\\\\(\boxminus A)\boxtimes (\boxminus B)&=&\begin{pmatrix}-\infty\\a\end{pmatrix}\boxtimes\begin{pmatrix}-\infty\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\otimes b\oplus -\infty\otimes -\infty\\a\otimes-\infty\oplus b\otimes -\infty\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a+b\\-\infty\end{pmatrix}\\&=&A\boxtimes B\\\\A^\bullet\boxtimes B^\bullet&=&\begin{pmatrix}a\\a\end{pmatrix}\boxtimes\begin{pmatrix}b\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\otimes b\oplus a\otimes b\\a\otimes b\oplus b\otimes b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a+b\\a+b\end{pmatrix}\\&=&(A\boxtimes B)^\bullet\end{array}
$$

同様に

$$
\begin{array}{}A\boxtimes (\boxminus B)&=&\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}\boxtimes\begin{pmatrix}-\infty\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\otimes-\infty\oplus b\otimes -\infty\\a\otimes b\oplus -\infty\otimes -\infty\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}-\infty\\a+b\end{pmatrix}\\&=&\boxminus(A\boxtimes B)\end{array}
$$

ですし、

$$
\begin{array}{}A\boxtimes B^\bullet&=&\begin{pmatrix}a\\-\infty\end{pmatrix}\boxtimes\begin{pmatrix}b\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\otimes b\oplus -\infty\otimes b\\a\otimes b\oplus b\otimes -\infty\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a+b\\a+b\end{pmatrix}\\&=&(A\boxtimes B)^\bullet\end{array}
$$

また、

$$
\begin{array}{}A^\bullet\boxtimes (\boxminus B)&=&\begin{pmatrix}a\\a\end{pmatrix}\boxtimes\begin{pmatrix}-\infty\\b\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a\otimes -\infty\oplus a\otimes b\\a\otimes b\oplus a\otimes -\infty\end{pmatrix}\\&=&\begin{pmatrix}a+b\\a±b\end{pmatrix}\\&=&(A\boxtimes B)^\bullet\end{array}
$$

となります。長い。

結果をまとめますと、

$$
\begin{array}{}a\boxtimes b&=&a\boxtimes b\\\boxminus a\boxtimes(\boxminus b)&=&a\boxtimes b\\a^\bullet \boxtimes b^\bullet&=&(a\boxtimes b)^\bullet\\a\boxtimes(\boxminus b)&=&\boxminus(a\boxtimes b)\\a\boxtimes b^\bullet &=&(a\boxtimes b)^\bullet\\a^\bullet\boxtimes(\boxminus b)&=&(a\boxtimes b)^\bullet\end{array}
$$


すごく煩雑なことになっていますが、以上の演算ルール(手帳、アンチョコ)を知っていれば、それを参照することで楽に計算が進められます。
一方、もちろんもう少し整理したいものです。
以下、そういうわけでもう少しウニャウニャします。
今回の記事、ここから以下は対称化トロピカル演算についてなんにも進展はないので、読みたい人だけ読んで一緒にウニャウニャしましょう。

まず、今回のこの演算がどんな集合からどんな集合に飛んでいるかをまとめますと、こんな図式になるかと思います。

うまく図式をかけるアプリがなかったので、図形描画アプリで代用してますが、大体のイメージは伝わるでしょうか。

この図式眺めて見ていると、なんかすごく変な計算をしているように見えますが、実はそうでもないんです。
というのも、普通の数もこれと似た図式で和積演算がなされてます。
普通の数は実数というひとくくりで考えることが多いのですが、こちらも正の数ゼロ負の数の3集合に分ければ大体同じ図式が書けます。

通常数の通常和
通常数の通常積

どこが違うかといいますと、Balance $${(A^\bullet)}$$,0が絡む$${\boxplus ,+}$$演算でBalance,0に行く矢印の有無です。

この対応をみると、なんだかバランス数が0の役割を担っていると思えませんか?

さらにこの図を見ていると、対称化という操作が、$${\boxminus A}$$という新たな数(の領域)を定義しているんじゃないかと思えてきます。

ちょうど、整数だけでは積と除算が閉じないから有理数を導入する、正の数だけでは和と差が閉じないから負の数を導入する、そんな感じで我々が算数や中学数学で通ってきたのと同じ道のりをトロピカルでやっているように見えてきます。

しかも、僕らはトロピカルに既に実数を導入していた、にもかかわらずトロピカル差が定義できない。
そこでトロピカル差ができるように、今まで見たこともない$${\boxmius A}$$という数を導入したわけです。
なんだかロマンたっぷりですね。

ロマンになんとなく浸ったところで今回はお開き。
次回は対称化トロピカル演算を使って色々遊びます。


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