トロピカルな計算練習(15)
前回はトロピカルな多項式から得られる図形を見まして、その交点の数なんかを見ました。
今回はちょっと似た話なのですが、いかんせん前提がながい。
ニュートン図形について触れていこうかなと思います。
しばらくトロピカル関係ない話が続きます。
ニュートン図形、あるいはニュートン多角形(多面体)は数式もつ特徴をグラフに表したものです。
一番簡単な場合、一変数をかんがえると、以下のようなことをします。
(1)多項式を用意する
$$
f(x)=a_0x^0+a_1x^1+a_2x^2+…+a_nx^n
$$
(2)係数と指数から座標を作る。
$$
(0,a_0),(1,a_1),(2,a_2),...,(n,a_n)
$$
ただしこの座標、$${a_i}$$をじかに使わず、なんらかの数$${k}$$の何乗が$${a_i}$$になるか、すなわち、$${(i,\log_ka_i)}$$を考えることもあるようです。(後述英語版Wikiはそうしてる)
(3)点たちを平面上に描く。
(4)$${(0,a_0)}$$からまず真下に直線引く。
(5)直線を$${(0,a_0)}$$を中心として反時計回りに回転させる。
(6)直線が他の点に当たったら回転をやめ、直線を確定させる。
(7)ぶつかった先の点から同様に真下に直線を引く。
(8)以下(5),(6),(7)を繰り返す。
とまあアルゴリズムを書き下すとむしろわかりにくいです。英語版のWikiには動画でニュートン多角形の書き方を示してくれているので、それを見るのが手っ取り早いでしょう。
上のようなアルゴリズムがわかりにくいなら、点全てを囲むような輪ゴムを考えるといいです。
輪ゴムで囲まれた図形が大雑把にいってニュートン多角形です。
もうちょっと数学的にいうと閉包なんですが、輪ゴムのイメージが非常にわかりやすいので、物理屋的にはそれでいいやって気持ちです。
一つ例示しておきます。
$$
f(x)=1+4x+2x^2+8x^3+4x^4
$$
点の座標は
$$
(0,1),(1,4),(2,2),(3,8),(4,4)
$$
ですのでニュートン多角形は
となります。
ちなみに項の$${2^jx^i}$$に対し$${(i,j)}$$を取ると、点の座標は
$$
(0,1),(1,2),(2,1),(2,3),(4,2)
$$
ですので、
これがニュートン多角形になります。
ニュートン多角形はそれ自体面白い分野なのですが、実はこれがトロピカルカーブと大いに関係してます。
相手が二変数関数なので、ニュートン多角形を三次元に拡張すると、
$$
ax^py^q\Rightarrow (p,q,a)
$$
となります。
あとはこれの閉包を取るのですが、わかりやすい例えで言うと、上からゴム膜を被せます。
そのゴム膜で覆われた形が求めたい図形です。
ただ、ここで図形の折れ線に注目します。
トロピカルカーブ同様に折れ線を$${x,y}$$平面上に投影すると、細分化されたニュートン多角形(の射影)が得られます。
例えば、$${0x^2+0y^2+1xy+1x+1y+0}$$を考えます。
こんな感じになりまして、この閉包を$${x,y}$$平面上に投影すると、
こういう図形が得られます。
こんなふうにニュートン多角形(の射影)は整数座標を結んでできる多角形、およびその細分になります。
他の例も見てみましょう。$${tp(0x^2+0y^2+3xy+1x+1y+0)}$$だと以下のようになります。
先ほどの式と比べると$${xy}$$項が$${1xy}$$から$${3xy}$$になっています。
何が変わったかというと、$${3xy}$$が " 面を引っ張り上げて " います。
結果、$${xy}$$のときは見えた$${(1,0),(0,1)}$$の線が消え、代わりに$${(0,0),(1,1)}$$の線が現れています。
つまり$${(0,0),(1,1)}$$の下に$${(1,0),(0,1)}$$が隠れているんですね。
これが「ただ頂点を結んだ線」と「閉包の折れ線」の大きな違いです。
結構これ、高さに気をつけてやらないと、誤ったニュートン図形をえることになるので注意がいります。
さて、このニュートン図形、もう少し遊んでみましょう。
最初はちょっと初等的な話題です。
$$
\begin{array}{}F(x,y)&=&ax+by+c\\G(x,y)&=&px^2+qx+r\\H(x,y)&=&sx^2+txy+ux+v\end{array}
$$
このとき、$${F\cdot F,FG}$$なんかを計算してみます。
$$
\begin{array}{}F\cdot F&=&&a^2x^2+2abxy+b^2y^2\\&&+&2acx+2bcy+c^2\end{array}
$$
$$
\begin{array}{}FG&=&&apx^3+bpx^2y+(aq+cp)x^2\\&&+&bqxy+rby+(cq+ar)x+cr\end{array}
$$
$$
\begin{array}{}FH&=&&asx^3+(at+bs)x^2y+btxy^2\\&&+&(au+cs)x^2+(ct+bu)xy\\&&+&(av+cu)x+bvy+cv\end{array}
$$
これ、何が面白いかというと、ニュートン多角形の一番外側は互いのニュートン図形のミンコフスキー和になります。
無論、係数の和が0になってしまえば、通常の演算を取っている以上その項は消えてしまいます。
なので、「展開公式の新しい教え方!」なんて軽々しくは言えませんが、なるほど、どんな次数の項が出てくるか、確かに頭の中でこれをイメージしながらやっていたかもしれません。
さて、以上ニュートン多角形はそれ単体でもいろいろ遊べるんですが、実はトロピカルとも繋がりが深いのです。
だからトロピカルに分類されてるんですよ!
忘れちゃいけませんぜ。この記事まだトロピカルの話してないんだから。
ここからが本番。
さて、冗談はさておき、ニュートン多角形とトロピカルカーブは実は双対の関係にあります。
双対とはなんぞやってのは一口に説明しにくいのですが、一蓮托生、表裏一体という四字熟語がわかりやすいかなと思います。片方と片方が必ず完全に対応するわけです。
今回の場合でいうと、トロピカルカーブに直交する線を書いていくとニュートン多角形(の分割)が現れます。
逆にニュートン多角形(の分割)からトロピカルカーブの形状が予測できます。
トロピカルカーブについては前々回の記事を参照してください。
例えば一番簡単な例$${1x+1y+1}$$を考えます。
これの(普通の演算と見て)ニュートン多角形はただの直角三角形です。
一方この$${1x+1y+1}$$をトロピカル演算としてみると、$${\max(x+1,y+1,1}$$ですから、得られるトロピカルカーブは、
です。
この二つが双対とは、こういうことを意味します。
場所はともかくとして、形がこういう対応を持っているのです。
他の例も見てみましょう。
$${x^2+y^2+xy+2x+2y+1}$$
これのニュートン多角形は
こんな感じになります。
一方対応するトロピカルカーブは
でした。
ちょっとこれは書きにくいのですが、要するに、
こういうことです。
若干互いの座標はずれていますが、対応関係があることはわかるかと思います。
ともかく、
(1)ニュートン多角形の細分に対して、ある区画の各辺に垂直になるよう線をひき、一点で交わらせる。
(2)その交点からの線を隣接する各区画で統一する。
この手順を踏むことでトロピカルカーブの形がわかるというわけです。実感できたでしょうか?
このようにニュートン多角形を調べれば取りうるトロピカルカーブの形状がわかりますし、逆に「こういうトロピカルカーブが欲しいのだが、それはどんな式なのだろう」という問いにもある程度答えが用意できます。
そこで次回はニュートン多面体をいろいろ考えたり試したりしてみようかと思います。