高校物理の電磁気にマクスウェル方程式は必要か?

突然ですが、電磁気学のお話。

大学で物理やったり、ちょっと背伸びしてそういう本を読んだりすると、電磁気学はマクスウェル方程式を高校で教えないからわかりにくい! という人が出てくるんですけど、私はそうは思わなかったりします。

ぶっちゃけだって、じゃあ君らマクスウェル方程式から全部計算しますか?
結局クーロンの法則とかビオサバールの法則使いますよね?

だから、
マクスウェル方程式万歳!
これがないから電磁気できないんだよ!
理解しにくいんだよ!

なんてのは、結局大学の物理を(ちょっと)知った人間が先輩風吹かせているだけなんじゃないでしょうか。
ことにそういう人たちに限って理工学系で物理に近い勉強をしていませんか?

いや、確かに電磁気は高校生にとってわかりにくいと思います。
しかし電磁気学がわかりにくいのは、学ぶものが足りないというより、学ぶ順序とその理念が見えにくいことにあるのではないかと思うのです。

というのも学習の順序が

物理基礎
 (電気回路:中学のほぼ復習)
 電気量の話
物理
 クーロン力の式
 電場の概念
 電気力線(ガウスの法則)
 電位
 コンデンサー回路
 ---
 オームの法則と回路
 キルヒホフの法則と回路
 :

となっているんですが、これ、実際に授業してみるとわかりますが、物理の理解という点では概念や対象が行ったり来たりで大変だと思うのです。

大きい意味での概念の往来というと、電気回路というマクロな理論とクーロン力みたいなミクロな理論を行ったり来たりしていることでしょうか。

小さい意味だとだとクーロン力の話の後、突然電場の話を持ってくる点が非常にわかりにくいと思います。まずクーロン力として

$$
\begin{array}{}F=k_0\dfrac{qQ}{r^2}\end{array}
$$

の"公式"を与えられます。
その後すぐに、実は電場というのがあってだな、電磁気は電場で考えるもんなんじゃと言われます。
そこで、クーロン力の式が

$$
\begin{array}{}F=qE\end{array}
$$

の形の一環だったと知るわけです。
その上でクーロン力を出す電場として点電荷の電場の式

$$
\begin{array}{}E=k_0\dfrac{Q}{r^2}\end{array}
$$

がででくるのですから、後者がクーロン力の式から出てきた何か似た式程度にしか思えないわけです。

最初にクーロン力の話をしたのにも関わらず、その次の項で「じつは場っていうのがあって、それで力が生じるんだよ」と言い出すのですから、じゃあさっき教わったクーロン力の話はなんだったの? となるのだろうと思います。

なんだったの? とならなくとも、
「電場の式いる?」「クーロン力の式いる?」
このどちらかを生徒に思われた時点で、教科書の式の登場順の構成や先生の授業は破綻してるんじゃないかと思うんです。だってあなたがたのの書いたそこの節、説明、無駄だって思われてんだよ、高校生に。

たしかに、歴史的にはクーロン力のほうが先で、伝播の考え方は後です。
でも、物理は歴史の授業じゃないのですから、わざわざ歴史の順で話さなくても良いのではないかと思うのです。
頭に入り込みやすいストーリー順ってのは決して歴史順ではないわけです。

それは力学で最初に落体の法則を扱うのにも共通しているような気がします。落体を散々やった後、力の釣り合いと運動方程式やって、その後また運動方程式の結果として等加速度直線運動をやる。これ、なんで往復してるんだろう、と思いません? (実情は落体やって等加速度やれば二回ここを学習でき、いい復習ってくらいなのかもしれませんが)
もっと元を辿れば中3で等加速度直線運動の触りをやるんですから、2往復してるんですね。

じゃあ、なんだよ、裃はどう教えてたの? と聞かれると思うので、私が教えてた順序の話です。

ひとまず、教科書にある程度沿うなら、

・電磁気学は「場ありき」の学問だ。

ここをまず推します。今までの力学とは違うよってことを先に言います。
実際問題を解くときも、こういうミクロな電磁気の出題は、まず場を求めさせることが多いのです。
場が与えられてないなら、まず場を作り、場中での粒子の運動を見る。

で、じゃあその場を作るにはどうするのか、ということで、

・参考程度にガウスの法則(積分形)の話

をします。
なんだお前も教えんのかって言われそうですが、一応話します。電気力線の本数の式にも使われますし。
ただ、ガウスの法則をバリバリ使うことはしません。「この式無理に覚えんでいいよ」というお話です。

その代わりに

・現実的には点電荷の作る場が一番重要

と話します。
これは受験云々の為というのもそうなのですが、実用的にも「実際電場をプログラミングして表示する際、ガウスの法則使います?」という意図があります。
プログラミングで電場や磁場を計算する時、ガウスやアンペールより点電荷の式やビオサバールの法則のほうがすごくわかりやすいコードになるんです。

で、受験向きのことを考えると、その中でも

・頻出な電場を与える形状の話

をします。つまり、点に限らず無限に広い板や無限に長い棒の話をします。
ただ、ここの計算が追えない生徒は多数いるので、もう結果を覚えてもいいことにしています。

だってじゃあ受験の会場で全部の式一から出すの? 覚えてても一から出してますか?

結局、予備校は物理のなんたるかを教えるところじゃなくて、受験で点を取ることが優先されます。
なぜってあなたが親御さんだとして、テストで点が取れない、模試で判定が良くならなかったとしても、そうまでして学問を追求して欲しいと思うでしょうか?
結局、点が取れて、成績が伸びてるならお金を払った甲斐がありました、となりませんか?
言い換えればこれは成績という数値でしか勉強を測れない親が少なくないということである。本当はそこから構造を変えなきゃならないのでしょうが、それは私一人の力では到底無理なわけです。

点を取るだけならぶっちゃけガウスの法則なんて使えなくてもいいんです。知ってる必要もない。せいぜい電気力線の本数の公式とでも思ってればいいです。
ただ、放っておいても要領よく適度な点はとれる一部の層の中の一部には、まじめに一から出す方法がウケるし、理論がまとまりゆくさまにハマるんです。
そんな奇特な人間、全物理履修者の1割いるかいないか、そんなもんでじゃないかと思います。
クラスにそういう物理の好きな人間が何人いますかね? 私の高校には学年で二人とかしかいませんでした。

いかに法則の美しさや、論理の一貫性、統一される美しさを知っても、彼らのほとんど、生徒の目先は大学に入ることにしか向いてないのです。残念ながら。

さらにいくらかの生徒は受験ですら使わないのに取らないと卒業できないから教室にいるだけ、いればまだマシなんてところかもしれません。

しかし、この残った2割の生徒のためには「やっぱり物理ってよくできてるよね、面白いね」と思って欲しいんですよね。
だからそれを伝えたいために先生になりたい、講師になりたいなんて思っていると現実にやられるとおもいます。だから私は先生を目指すのをやめました。残念だけどそんなのほとんどの生徒は望んでないとわかったのです。

ただ、全く無需要ではないとも思います。実際私の通ってた予備校、S◯Gなんですけど、そこはそういう興味につきあってくれました。夏休みに特殊相対論の講座もありましたし。今でも大切にその時のテキストは取っておいてあります。

話がそれましたけど、じゃあ教科書なんて無視して、一から電磁気教えていいよと言われたらどう教えるか。私なら

ひたすら(直流)回路理論

でやります。
というのも、回路理論は何だかんだ電気の中で小学校から慣れ親しんでいるわけです。ですから、一番イメージしやすいし、実験もやりやすいと思うのです。

特に、中学の電気回路の復習が終わったら、中学の知識、抵抗の合成だけじゃうまく解けない回路を見せて、そこからキルヒホフの法則の話をします。つまり、高校であらためて抵抗回路の話をする理由をはっきりさせてやるわけです。
で、そのまま非線形抵抗とか、新しい回路部品としてコンデンサーやコイルも導入しちゃいます。

私は以前中学受験生も教えてましたが、法則としてコンデンサーの式を与えてコンデンサーの計算させている中学校もあったくらいです。理屈が無くても公式があればひとまずある程度の実験や現象の検証や予測はできるってわけです。

そんな電場とか電磁誘導とかやらずにコンデンサーとコイルやるなんていいのかって言われるかもしれませんが、じゃあオームの法則教えるのに、ドルーデモデルからやらないとダメなのでしょうか?
そもそもドルーデモデルも無欠陥ではないですから、量子論の立場から説明しないといけないことになりませんかね? そこまでしなくていいっていうのは、結局指導要領に囚われているんじゃないかと思うのです。かりに指導要領の(順番ではなく)枠組みを重要視するなら、同じ指導要領内でほとんどの事項は卵が先か鶏が先か、ではないでしょうか。

そういうわけで、オームの法則を与えるようにコンデンサーの式やコイルの式は与えてしまいましょう。

確かに蓄えられる電気量の、電気量とは何ぞやとかは少しお茶を濁しますが、回路を解く上でガウスの法則やアンペールの法則そのものは不要でしょう。回路理論もガウスの法則やアンペールの法則から電磁力学として一から作っていく、そういう主義というなら話は別ですが。

さて、回路理論が一通り終わったら、そこでようやく電場や磁場の話に入ります。
というのも、中学の理科の知識で「電流の正体は電子である」と習うわけです。

電子が粒子なら、その粒子の運動は運動方程式なりなんなりで表せて、そこから回路理論の説明ができるんじゃないか。力学屋さんならそう考えるだろう、と。
じゃあ今までやってきた回路理論、とくに部品の性質を考えるべく、電場や磁場の話をしましょう、というわけです。
なんで電気は流れるの? という答えが電場であり、コイルは電磁石であることから、磁場の理論の整備が必要になる。で、電磁場は案外似てるという話になってくるわけです。

なおなお、現代(というほど現代でもないが)の物理の立場的には、電場と磁場って似てるけど、ちょっと違うよねって話も織り込みたいのですが、そこに興味を持つのは一部の生徒だけだということは常に念頭におくべきでしょうか。
加えて補足すると、磁場が$${H}$$とも$${B}$$とも言われるこの統一性のなさもなんとかするべきでしょうか。私みたいに素粒子寄りだと、どうしても$${B}$$を磁場と呼んでしまいがちなのです。頭では磁束密度と分かっていても、なんですね。自戒を込めて。

まあ、そんなわけで、
高校の電磁気って教科書順じゃなくてもちゃんとストーリーは作れますよ。
ひょっとするとその方がわかりやすいかもね。
というお話でした。

あ、そう、ちなみにマクスウェル方程式はさらに一本や二本の式にできるんで、式としてはめちゃくちゃキレイですよ。そこまで含めてお話ししたくて、電磁気の基本方程式としてのマクスウェル方程式を教えるのは自己満足的に好きだったりします。

あと、ビオサバールが難しいとか、アンペールが難しい、というのも私は懐疑的です。というのも、工業科の教科書、「電気基礎」には載ってますから、「この年齢や数学知識で理解できる説明ができない」ということはありません。
それはそれで生徒を過小評価しすぎですし、説明する努力を怠っているのではないかと思います。

いずれ機会があったら工業科の教科書群にも触れていこうと思います。けっこうこれ、楽しいんですよ。

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