リベンジ・トロピカル-対称化(5:脱線)

こんばんは、先日第一子が産まれて、育児にバタバタ、裃白沙です。
更新頻度落ちますね、ゆるしてね。

前回は対称化トロピカルの方程式をどう解くかって話でした。
結果わかったことはというと、ただただバランス数が厄介、ということでした。
前回の内容は以下をリンクからみてください。

今回は前回の「面倒だなぁ」を踏まえて、ちょっとバランス数って変だなぁって話をしていきます。
つまり対称化max-plus(対称化トロピカル)の本筋からは外れます。

つまり妄想。


さて、何でバランス数がこんなやっかいなことになったのかというと、感覚的な話ですけど、原因は同一視のあたりでのバランス数の扱いにあるように思えます。

と言いますのも、改良されたバランス演算(前回の記事参照)の同一視は

$$
\begin{pmatrix}a\\b\end{pmatrix}:\begin{cases}a&(a>b)\\\boxminus b&(a< b)\\a^\bullet ,b^\bullet&(a=b)\end{cases}
$$

ということでしたが、一段目と二段目、つまり同一視&対称化された正負の数はぎゅっと同一視されているのに、バランス数は手を入れていないように見えるのです。

たとえば成分が$${-\infty,0,1,2}$$しか取らないとします。
そうすると作れる数のペアは16個。
そのうち

$$
\begin{matrix}2に同一視&3個\\1に同一視&2個\\0に同一視&1個\\\boxminus 2 に同一視&3個\\\boxminus 1に同一視&2個\\\boxminus0に同一視&1個\end{matrix}
$$

これで残る4個のうち一つは$${\varepsilon}$$に相当します。
あとの3個は$${0^\bullet,1^\bullet,2^\bullet}$$です。

これ、バランス数は全部$${\varepsilon}$$に同一視するのかなぁ。

アンチョコにしてる"数理解析研究所講究録 1020 巻 1997 年 165-179"も"Synchronization and Linearity - An Algebra for Discrete Event Systems"も、普通に$${2^\bullet}$$とかが出てきているので、ここまでの同一視は求めていないんですね。

じゃあバランス数も圧縮してしまえというわけです。


バランス数はその性質からしてゼロのような役割をしました。

$$
a\boxplus(\boxminus a)=a^\bullet
$$

ならどこに圧縮すべきか、もちろん零元ではないでしょうか。

$$
a^\bullet=\begin{pmatrix}a\\a\end{pmatrix}\sim \varepsilon=\begin{pmatrix}-\infty\\-\infty\end{pmatrix}
$$

こうすることで、いままでバランス数で書かれていたところは全て零元$${\varepsilon}$$になります。

和ですと、

$$
\begin{array}{}a\boxplus b&=&a\boxplus b\\\boxminus a\boxplus(\boxminus b)&=&\boxminus(a\boxplus b)\\\varepsilon \boxplus \varepsilon&=&\varepsilon\\a\boxplus(\boxminus b)&=&\begin{cases}a&(a>b)\\\varepsilon&(a=b)\\\boxminus b&(a< b)\end{cases}\\a\boxplus \varepsilon &=&a\\\varepsilon\boxplus(\boxminus b)&=&\boxminus b\end{array}
$$

積ですと、

$$
\begin{array}{}a\boxtimes b&=&a\boxtimes b\\\boxminus a\boxtimes(\boxminus b)&=&a\boxtimes b\\\varepsilon \boxtimes \varepsilon&=&\varepsilon\\a\boxtimes(\boxminus b)&=&\boxminus(a\boxtimes b)\\a\boxtimes \varepsilon &=&\varepsilon\\\varepsilon\boxtimes(\boxminus b)&=&\varepsilon\end{array}
$$

となります。
$${\varepsilon}$$の出てき方が非常に零元らしいように思えます。


さて、そもそもこの対称化という考えはどこから湧いたのでしょうか。

このnote群では裃なりに見やすいと思って、良かれと思って行列のような表記をしていますが、成分の計算手法はいわゆる普通の行列とも違う形になっています。

$$
\begin{array}{}\begin{pmatrix}a_1\\a_2\end{pmatrix}\boxplus\begin{pmatrix}b_1\\b_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a_1\oplus b_1\\a_2\oplus b_2\end{pmatrix}\\\\\begin{pmatrix}a_1\\a_2\end{pmatrix}\boxtimes\begin{pmatrix}b_1\\b_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a_1\otimes b_1\oplus a_2\otimes b_2\\a_1\otimes b_2\oplus a_2\otimes b_1\end{pmatrix}\end{array}
$$

仮にこの対称化を普通の数演算に持ち込むとどうなるのでしょうか。
ひとまずmax-plusの和積$${\oplus,\otimes}$$を$${+,\times}$$に書き直します。

$$
\begin{array}{}\begin{pmatrix}a_1\\a_2\end{pmatrix}\tilde{+}\begin{pmatrix}b_1\\b_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a_1+b_1\\a_2+b_2\end{pmatrix}\\\\\begin{pmatrix}a_1\\a_2\end{pmatrix}\tilde{\times}\begin{pmatrix}b_1\\b_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a_1 b_1+ a_2 b_2\\a_1 b_2+a_2b_1\end{pmatrix}\end{array}
$$

ここで$${\tilde{\:\:\:}}$$つき$${+,\times}$$は対称化した演算$${\boxplus,\boxtimes}$$に対応する和積です。
普通の意味での$${+,\times}$$とは演算が違うので区別しています。

さて、こうしてみると和はベクトル的な振る舞いです。つまりベクトル様の何かをイメージすれば良いように見えます。
一方積はどうかというと、こっちは内積と(z成分0の)外積……いや、符号が違うか。
スカラーとベクトルが入り混じるのもあまり嬉しくありませんね。
まあ、ベクトルは遠からず近からずのように見えます。
いや、待って、この形、どこか見覚えないですか?

$$
(a_1+a_2i)(b_1+b_2i)=(a_1b_1-a_2b_2)+(a_1b_2+a_2b_1)i
$$

うーん、惜しい!
とくに一つめのカッコの符号が惜しい!

しかしこれ、当然マイナスになるのは虚数のせいです。
あえて$${i^2}$$を残せば、

$$
(a_1+a_2i)(b_1+b_2i)=(a_1b_1+i^2a_2b_2)+(a_1b_2+a_2b_1)i
$$

になりますから、だいぶ見た目が近くなります。
なら、無理やり作ってしまいましょう。

すなわち、我々がやりたいことを実現するには普通の数でもなく、虚数でもないない「何か(これを$${m}$$とします)」の性質を

$$
m\times m=1
$$

と定め、複素数的なものとして$${a_1+ma_2,b_1+mb_2}$$を考えてやることになります。
すると積は、

$$
\begin{array}{}(a_1+a_2m)(b_1+b_2m)&=&(a_1b_1+m^2a_2b_2)+(a_1b_2+a_2b_1)m\\&=&(a_1b_1+a_2b_2)+(a_1b_2+a_2b_1)m\end{array}
$$

となって、対称化max-plusの積が成分に現れます。

この思想で考えると、例えばマイナス演算は成分の入れ替えでしたが、これは、

$$
m(a_1+ma_2)=ma_1+m^2a_2=a_2+ma_1
$$

という演算だと見做せます。

ところで、我々の行った同一視は、今回の話で言えば純粋な成分と$${m}$$成分への同一視ということになります。
複素数のイメージでいうと、実部か虚部をとる。そういう操作です。

$$
S(z):=\max({\rm Re}[z],i\:{\rm Im}[z])
$$

こんな感じで書いておきますが、こうなるとやっぱり$${{\rm Re}[z]={\rm Im}[z]}$$で零元と同一視するのは憚られますね。

微妙だなぁ。
何もかもが微妙だ。


ところで、今回こうして対称化max-plusを複素数的に見てみたことで、当然読者の興味の中には四元数的拡張が湧いてくるのではないかと思います。

え? 思わないって?
俺は思った。

続く。


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