エキゾチック演算遊び(8:第二脱量子化)

こんばんは、裃白沙です。

前回はマスロフ演算の真の目的として、モヤモヤしながらも脱量子化(dequantization)を見てきました。

脱量子化、どんなものだったかと言いますと、
「物理学において量子力学の式を$${h\to0}$$したら古典力学になる」
なら、同じように
「マスロフ演算で通常和($${h=1}$$)から"古典的"な演算を$${h\to0}$$することで見つけられるかな?」
というものでした。

何言ってるんだ? と、物理屋である裃が噛み付いていたんですね、前回は。


さて、もう脱量子化は認めるとしましょう。

$$
\begin{array}{}\begin{matrix}h&1&\to&0\\\oplus&+&&\max\\\otimes&+&&+\end{matrix}\end{array}
$$

さて、これを見ていると、もう一回脱量子化できそうじゃないですか?

$$
\begin{array}{}\begin{matrix}h&1&\to&0&&0\\g&1&&1&\to&0\\\oplus&+&\overset{h}{\to}&\max&&\max\\\otimes&\times&&+&\overset{g}{\to}&\min\end{matrix}\end{array}
$$

はい、こんな感じで、$${\otimes}$$の$${+}$$までマスロフ演算にして、脱量子化できますよね? できますよね? できるんだよ!

こういうのを第二脱量子化(second dequantization)というそうです。

$${\otimes}$$のほうをmaxでなくminにしているのは、仮にmaxにしてしまうと$${\oplus}$$も$${\otimes}$$もmaxになってしまい、演算が一種類になってしまうからなんでしょう。

そういうわけで、全てがmaxかminになってしまった第二脱量子化の世界。来るところまで来ちゃったなぁって感じだよね。


second dequantization
このネーミング、思うにsecond quantizationからきてるんだと思います。second quantizationは日本語で第二量子化と訳されるもので、場の量子論の作り方で出てきます。
第二量子化っていうと、二回目の量子化ですか? と聞かれるんですけど、そうではありません。歴史的な事情が原因のようですが、大雑把にいうと場を話の中心にしてるってだけです。

この辺り、second dequantizationは本当に二度目のdequantizationですから、混乱するかもしれませんね。みんな気をつけましょ。

え、そもそもマスロフ演算と場の量子論を同時に勉強する人なんていないから混乱することはまずないって?
それもそうかもしれません。


作るだけじゃなくて、一応分配則を見てみましょうか。

$$
\begin{array}{}a\otimes(b\oplus c)&=&\min \Bigl(a,\max(b,c)\Bigr)\\=(a\otimes b)\oplus(a\otimes c)&=&\max\Bigl(\min(a,b),\min(a,c)\Bigr)\end{array}
$$

さて、こうなってしまうと、$$a,b,c$$の大小をちゃんと決めなきゃいけません。めんどくさいなぁ。$$a,b,c$$の大小のパターンは6パターンで取り尽くせます。

まず1行目の演算ですが、

$$
\begin{array}{}\begin{matrix}a\otimes(b\oplus c)&=&\min \bigl(a,\max(b,c)\bigr)\\a < b < c &:&a\\a < c < b &:&a\\b < c < a &:&c\\b < a < c &:&a\\c < a < b &:&a\\c < b < a &:&b\end{matrix}\end{array}
$$

となります。続いて分配結果のほう

$$
\begin{array}{}\begin{matrix}(a\otimes b)\oplus(a\otimes c)&=&\max\Bigl(\min(a,b),\min(a,c)\Bigr)\\a < b < c &:&\max(a,a)=a\\a < c < b &:&\max(a,a)=a\\b < c < a &:&\max(b,c)=c\\b < a < c &:&\max(b,a)=a\\c < a < b &:&\max(a,c)=a\\c < b < a &:&\max(b,c)=b\end{matrix}\end{array}
$$

二つの結果を見比べると、こんなふうにちゃんと分配法則が成り立っているとわかります。

そういうわけで第二脱量子化でのmax-min演算も分配則のある演算とわかりました。
そうなるとなおのこと気になるのは、第一段階の脱量子化で積演算が通常積から通常和になる事情が不明というところですね。
ここもちゃんと$${h}$$で$${+}$$から$${\times}$$に遷移してほしいものです。

そんな想いが募ったところで、演算遊びとしてのマスロフ演算、大団円といたしましょうか。


本筋トロピカルのほうは積分の記事を移植中です。
あとは、subdifferentialとか、 tropical differential formとか、super tropicalなんてのを見つけて四苦八苦していたりします。もうちょいAmoeba(アメーバ)の話も踏み込んだりしないとトロピカルカーブの話もできんなぁとか、Newton polytopeも少しは勉強しなきゃいかんとか、さらにはやっぱりファジィ集合とも絡むんじゃね? なんて記述を見つけてそこも読まなきゃなんて思ってたりします。
おー、阿呆船よ、何処へ おまえは物理の船ではなかったか。

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