インターネット上の匿名攻撃に対しての法的論点整理(第2回/全8回)
こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。
さて、昨日から始まりました、インターネット上の匿名攻撃に対しての法的論点整理(全8回)。
本日は2回目です。
全体像を見ておきたい方は、1回目をご覧ください。
記事を開くのが面倒な方のために、ここに本当の本当のポイントだけ書いておきますね。
① プライバシー侵害
② 名誉毀損(含む信用毀損)
③ 脅迫、強要
④ ストーカー行為
⑤ 業務妨害行為
実は、匿名の相手を特定したい場面としては、上記の他にも、著作権・商標権の侵害などの知的財産権侵害の場面や、肖像権(パブリシティ権)侵害の場面も想定できます。
ただ、今回は、「攻撃」的なものに絞って、検討してみます。
さて、では本題に入りましょう。
◆プライバシー侵害◆
一言でいうと、公開される事を欲しない私的な事実を公開されてしまう事です。具体例としては次のようなものです。
「カミオは、東京都〇〇区〇〇3-5-6に住んでいて、電話番号は〇〇であり、3回も離婚している」
上記はあくまで、「例」なので、全く同じ発言であっても、置かれている状況によってはプライバシー侵害の該当性の判断が分かれます。
ですから、これなら安心などと思わないように注意してください。
なお、プライバシー侵害については、「私生活らしく受け取られる可能性のある事実」でも成立することになっています(宴のあと事件)。
突然ですが、裁判の仕組みをちょっと考えると、この「私生活らしく受け取られる可能性のある事実」で良い事がよく分かります。
裁判では、訴えを起こす側を『原告』といい、訴えを起こされる側を『被告』と言います。
一般の方には、『被告』と『被告人』が勘違いされます。
これは、テレビや新聞のせいです。
メディアでは、刑事裁判の際に、被告人となった者のことを『〇〇被告』と表記・故障しており、民事裁判の時には、『〇〇』とか『〇〇氏』と原告被告の立場を省略しています。
元々は、混乱防止のためにこのような使い分けだったと思うのですが、裁判の仕組みなんて当然知らない一般の方には、「『〇〇被告』といえば罪人のことだ!」という認識が根付いています。
これは上記の用語法の面でも勘違いですし、何より、『被告人』も単純に刑事裁判にかけられたというだけで、「罪人」かどうかはまだわかりません(刑事バタの先生がたくさん見てるので、きちんと注釈しましたよ!カミオ!)。
この勘違いのせいで、訴状が届いて『被告』と書かれたのを見て、怒り狂ってご相談にいらっしゃる方がいるんです。
一度昂った感情を、収めるのは本当に大変なんですよ、メディアさん、マジで勘弁してください。
そして、訴えを起こす場合には、『訴状』と呼ばれる紙を、裁判所に2部提出して、そのうち1部は、裁判所から被告に対して送られて初めて裁判開始となります。
訴状には、請求の内容を具体的に書く必要があります。
さて、カミオが、無断で住所を公開されたからプライバシー侵害で訴える場合には、「プライバシーが侵害された!」事を訴状に書きますね?
その際に、「カミオは、東京都〇〇区〇〇3-5-6に住んでいて、電話番号は〇〇であり、3回も離婚している」んですけど、被告は、この事実を平然と掲示板に載せました。
と書いたらどうでしょう?
証拠として、住民票と、携帯会社との契約書、戸籍謄本を示したら??
裁判は公開の法廷で行われます。
傍聴人もいます(これホント)。
上記のところが読み上げられたら、被害が拡大しちゃいますよね!?
なので、書いてある内容が、事実であるというところまで立証しなくてもよい(もちろん、しても良い)ということにしておかないとまずいですよね。
ということで、私生活らしく受け取られる可能性のある事実でも足りることになっています。
ちなみに、私生活領域の事実であっても、一般に周知されていると、プライバシー侵害にはなりません。
例えば、上の例で、カミオが誰でも見られるインターネット上に、自ら「離婚歴3回」と公表しているような場合です。
ここは、常識的に考えてもわかりますよね?
自分で公表するのはOKで、相手が公表する時だけプライバシー侵害というわけではありません。
さて、プライバシー侵害をされた時にとりうる手段はどんなものがあるかも解説します。
まずは、慰謝料請求です。
正確に言うと、不法行為に基づく損害賠償として、「精神的な苦痛が損害」の場合には、通例、「慰謝料」と呼んでいます。
「慰」はなぐさめる、「謝」はあやまるですね。
弁護士あるあるで、慰謝料と請求した上で、「相手に正式な謝罪を求めたい」と言われることがよーーーくあります。
しかし、「慰謝料」がまさに謝罪の代わり。精神的な苦痛を被らせて「ごめんなさい、許してください」をお金に代えているので、さらに謝罪を求めることは、かなり難しいです。
し、ついでに言うと、裁判所が、「謝罪しろ!」と命令しても、嫌だ!とその場から逃走されたら実現しませんよね?
なので、一般的に、本当に謝罪を求める場合というのは、名誉毀損をした後に、社会に広まった不名誉を挽回して欲しいから、間違いでした、という謝罪広告を掲載せよと言う形で実現することが多いです。
慰謝料は、プライバシー侵害によってどれだけ精神的苦痛を被ったかによるので、ケースバイケースですが、多くの場合は、数十万円で、100万円を超えてくると、かなり重大な事案だったなという相場感です。
他の手段として、プライバシー侵害情報が掲載されてしまっているウェブサイトに直接、「プライバシー権を侵害されてしまっているので、削除して欲しい」と求めることもあります。
この場合、ウェブ上に専用の報告フォームが定められている例が多いので、まずは自分でそこに申告してみるというのが1番早く、安く済む方法です。
具体的な例をあげておきますね。
次に、テレコムサービス協会という業界団体が、「テレサ協書式」という削除用の用紙を用意していて、これに記入して、削除を求めることもできます。
最後に、裁判手続によっても削除を求めることができます。
次回の名誉毀損との対比になりますが、プライバシー侵害は、それ単体では、刑事罰の対象とはなっていませんので、他の罪の行為類型に該当しなければ(業務妨害罪系、ストーカー防止法系、軽犯罪法系など)罪にはなりません。
最後だけ急に駆け足だって?
ここ、難しいんですよ。3000字フルで一回分使わないと解説できないので、実際、困ったらカミオに相談してくれるのが1番早くて。。。
え?宣伝だって??
ちなみに、最大の問題は、インターネット上でやられると、「被告」にすべき相手が見つからないと言う点です。
匿名掲示板だったり、SNSもサブ垢(アカウントの意味)とか、捨て垢と呼ばれるものだと、一見して誰かは分からないという状況がしばしば起こります。
この場合には、プライバシー侵害をされた事を理由として、発信者情報開示請求という手続きが取れます。
ただし、この手続き、結構難しいんです。
ざっくり言うと、掲示板サイトに、当該投稿を送ったやつの情報として唯一記録されている、『IPアドレス』と呼ばれる英数字の文字列と、『タイムスタンプ』と呼ばれる日時のスタンプ(ちなみに、1秒よりも下の桁が。)を開示させます。
その後、『IPアドレス』から、インターネットサービスプロバイダ(フレッツ光とか、楽天モバイルとか、docomoなどの回線業者)を割り出し、そこに対して、この日時に、このIPアドレスを保有した奴の契約者情報(住所氏名等)を教えろ!とやります。
これらを少し簡略化しよう!として法律が変わる予定です。
これについてはまとめの時に詳しく説明しますね!
以上、インターネット上の匿名攻撃に対しての法的論点整理(第2回/全8回)でした。
では、また。