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メモしない弁護士は「超優秀」なのか?の話

こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。

本題の前に、昨日、日本スポーツ仲裁機構さんが主催する日本代表選手選考についてのセミナーに出席しました。

実際に、不当な選考に遭ったとして紛争を経験した、競泳の千葉すずさんが話した一幕。

「選考が始まる前に、選手や指導者がみんなが分かる様に、選考の基準やルールが周知徹底されないと意味がない」

ん?何を当たり前のことを。そんなの当然じゃないか?って思いませんでしたか??

そんなの当たり前で、当然公表されてるよ!って思いませんでしたか?

そう思った方は、ご自身が好きな競技の国内統括団体(なんとか連盟とかなんとか協会ってやつですね。)のホームページを調べてみてください。おもしろいと思います。

実は、先述の千葉選手の紛争は、それがなされなかったから紛争になったのです。

具体的には、選手や指導者が「知らない」タイムや順位以外の「世界で闘える」という基準が、後から開示され、その理由で選考から漏れたことになっていました。

しかも、千葉選手の紛争は、20年前の出来事と片付けることができなくて、今でも、明確な選手選考の基準が「公表されていない」競技は少なくないのです。

もちろん、タイムや順位、世界ランキングなど、明確な指標だけで決めるのは難しいことが多々あります。

それであっても、それに加えて要求されるのが、将来性なのか、人間性なのか、過去の安定した戦績なのか、どんな要素なのかすら、「公表されていない」のでは、頑張りようがありません。

挙げ句の果てに、せっかく頑張っていたから選ばれた選手に、「あいつは協会の〇〇と仲がいいから選ばれた」という風評が立つようでは、誰も幸せでないことは明らかですよね。

なので、(超難しいですけど)基準を明らかにして、選考の手続きも、「私が決める」的なやり方ではなく、少しでも民主的なプロセスを経るよう工夫する必要がありますよね。

この辺は法律家として、一般の企業で培った知見が生きますから、ぜひ協力していきたいと思っています。

労務問題における人事異動も、営業成績一括りではいかないし、そのためにはある程度の人事考課基準を作っていて、どんなことをやると揉め事に発展するかはよく知っていますから。

さて、本題です。今日は、メモしない弁護士は「超優秀」なのか?という話です。

結論、そんなことないというのがカミオの意見です。

ともすれば、人の話を聞いてなんでも頭の中に記憶できるのだから、優秀ではないか。と思いますよね?

また、ありがたい(?)ことに、弁護士=超優秀という謎の信頼感があるのも事実です。カミオはそんなことないのですが、、、小声

たしかに、弁護士は、司法試験合格の時点においては、他にもたくさん勉強した人の中から、きちんと法律論を記憶して、それを具体の事象に当てはめる訓練を誰よりも積んでいたことは事実です。

ただ、司法試験は、試験の性質上、問題文の事実関係が「与えられていて」、しかも、その事実関係の中には「必ず法的な問題が潜んでいる」という制約がありました。

他方、実際の事件にあたる時には、そもそも事実関係は依頼人の話を聞いて、関係しそうな(時には関係しなそうな)資料を収集し、相手から出てくる事実関係の話を吟味して、自分で見つけていかないといけません。

しかも、その作業の際、どの事実関係に法的な問題が潜んでいるか分からない。もっと言えば、法的な問題なんて何もない事実関係かもしれない。

具体例をあげます。

お父さんの相続で揉めてしまっている方の相談で、依頼人は言いました。

依頼人「お父さんの持ってる財産は、土地だけで、へんぴな所にあるから、所有は弟でいいから、私は半額見合いの現金が欲しい。」

弁護士「現金・預金や生命保険は全くないですか?」

依頼人「はい、ないんです。いやー、実はね先生、お父さんは、昔から女の人に入れ込んじゃうタチで、その女の人の名義の口座まで作って、そこにお金を送金してたみたいなんですよ」

これをとっかかりもなく聴くと、女の人にお金を浪費してしまって、土地しかない相続をどうやってうまくまとめるかの問題に見えますよね?

でも、そのようにまとめてしまっていて、この「メモ」をとらなかったために、後でとんでもないことが起きたりするんです。

(1年後)

依頼人「先生、内容証明って手紙が来ました。全然知らない名前の人なんですが、公正証書遺言があって、そこには、彼女に全財産をやる!って書いてあるみたいです!どうしましょう??」

とまぁ、これはカミオが考えた架空の事例ですが、実際にも、メモに書いてあった、全然関係ないだろという事実関係から、思わぬ問題に発展したりもします。

記憶は、構造上、大事な情報以外を消し去るようにできていて、これは凡人も優秀な人も同じ。

先の例でメモをとらなかった、重要でない事実は、エビングハウスの忘却曲線(すごくざっくりいうと、ひとの記憶はどんどん薄れゆき、途中で同じ情報を繰り返し脳に覚えさせないと定着しないという理論)に従って、消去される。

その意味では、ハードディスクが自動クリーンアップされてます。

そこで、メモは、外部メモリの役割を果たしているんです。

と、いうわけで、カミオの意見としては、メモを取らなくてもなんでも理解できるという人の方が、メモを取る人より優秀というのは誤解じゃないかなぁと思います。

もちろん、場面によって求められる能力は異なるので、今すぐ決断するにあたって、細かい事象は省いて決断しなければならないこともありますので、「すべての場面で必ず」ではないですが。

ですので、皆さんの話をメモをとりながら一生懸命聴いてくれる弁護士さんのが、個人的にはおすすめです。笑

以上、今日は、メモしない弁護士は「超優秀」なのか?という話でした。

では、また。

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かみおひろみち
記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。