試合後の挨拶マナー
こんばんは。テニス弁護士の紙尾浩道です。
さて、緊急事態宣言も明け、ようやく待ち焦がれたテニスコートが予約できる世界がやってきました。
そんな時流に乗ってか、1年生入部のAくんも、隣町の学校との練習試合に出ることになり、練習にも身が入ります。
コロナウイルスの影響で、多くの試合では、試合後の握手が省略されるようになり、代わりにラケット同士を軽くぶつけ合う挨拶が、スタンダードになってきましたね。
また、ダブルスでも、ペアとポイントごとにラケットハイタッチをすることが増えました。
Aくんも、初めての試合、気持ちが盛り上がってきたところで、ペアのB君とラケットハイタッチ!!!!
「ぶちっ」
なんと、A君がラケットをぶつけた衝撃で、B君のガットが切れてしまったのです。
さて、こんな時、法律上はどうなるでしょうか。
まず、A君の行為が犯罪行為に該当するかですが、人の物を壊してしまう犯罪類型としては、器物損壊罪という罪があります。
しかし、器物破損罪は、故意犯と呼ばれ、過失(当該行為をすれば、物が壊れてしまうかもしれないということを予見し、必要な注意をすべきだったのに、注意を怠って行動に出てしまったこと)犯は刑に問うことができませんから、今回のように、わざとラケットを壊すためにぶつけた訳ではないA君の行為には適用できません。
次に、損害賠償責任を負うかどうかですが、こちらは、不法行為(民法709条)が成立するかどうかがポイントになります。
不法行為が成立するためには、損害の発生が必要ですが、ガットが切れてしまって、これを張り替えるという経済的な損害が生じています。
また、損害の発生と行為との間に因果関係が必要になりますが、ラケットをぶつけなければガットが切れなかったことは明らかですから、因果関係も問題ないでしょう。
最後に、行為者の故意又は過失が必要ですが、A君がわざとやったわけではないことは先ほど述べたとおりなので、過失があるかどうかが最大のポイントです。
考え方は様々ありますが、私としては、通常、相当な力をもってガットに衝撃を加えないと切れないはずですから、「ラケットハイタッチをする程度の力で相手のラケットのガットに当てる」行為に際し、「ガットが切れる」という結果を予測して、これを回避せよというのは難しい(過失がない)と考えたいなと思います。
もちろん、ガットが切れるという結果が生じる可能性自体は、簡単に予測できるのだから、そもそもラケットハイタッチをしないとか、勢いを殺して触れるだけで十分などほかの行為を選択できるにもかかわらず、それをしなかったのだから、過失があったのだという考え方もあるかと思います。
こんな風に、弁護士の仕事は、意外と、白黒ハッキリさせられないことが多いんです。
以上、弁護士の紙尾浩道でした。
記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。