テニス部に入部するには…(その2 同時履行の抗弁権)
こんにちは、弁護士の紙尾浩道です。
今日は、前回、回答を引っ張ったことに対する答えを記載します。キーワードだけ先に言えば、「同時履行の抗弁権」というものの解説をします。
前回、おっちょこちょいの新入生が、財布を忘れてしまって、代金3万円でラケットを購入する売買契約を締結したものの、代金を支払えない場合、ラケットを引き渡してもらえるかという事例を書きました。
「そんなの、当たり前じゃん、引き渡してもらえるわけないよ」
という方、その理由を詳しく説明できますか??せっかくですので詳しく考えてみましょう。
【A説】代金が払えないのだから、そもそも売買契約そのものが無効になる。
【B説】代金を払うまで引き渡さないとして、引き渡さなくても違法にならない。
【C説】売買契約は成立している以上、店側が引き渡しを拒めば、店側の違法行為となる。
まず、売買契約は有効でしょうか?法律にはこのように書いてあります。
「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。(民法第555条)」
この条文のとおり、売買契約自体は、「約束」の一種で、当事者の一方(今回はお店)が、ある財産権(今回はラケットの所有権)を相手方(今回は新入生)に移転することを約し、相手方(新入生)がこれに対してその代金(3万円)を支払うことを約することによって成立します。
したがって、代金を「払う」必要はないため、そもそも代金を払わない限り売買契約は無効とするA説は×です。
とすると、売買契約は成立しているのだから、その効果として、引き渡し債務が発生するC説が正解ではないか。と結論付けるのはまだ早急です。
実は、売買契約のように、契約の当事者双方が、何らかの義務を負う契約類型(これを双方義務を負うということで「双務契約」といいます。反対語は「片務契約」です。)について同時履行の抗弁権という制度が定められています。
「双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。(民法第533条)」
今回の例で言えば、お店側は、相手方である新入生が、代金支払債務を提供(お金を払う)するまでは、ラケットの引渡し債務の履行を拒むことができるのです。
言い換えれば、店側は、売買契約は有効であるため、その契約に基づいてラケットの引渡し義務があるけれども、新入生が、代金を持ってこない限り引き渡さないと言い張っても違法ではないということです。
というわけで、正解はB説、皆さん、理由も含めてきちんと説明できましたか??
次回もテニスと法律の注意点を述べますよー
弁護士の紙尾浩道でした。
記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。