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[エッセイ] ラジコングライダー low,slow,touch !
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私はラジコン模型が好きで、作るのも見るのも楽しい。
子供のころから模型工作が好きで、これは老後の今になっても変わらない。
水陸空なんでも楽しいが、なかでもグライダーは昔、作り飛ばしていたことがあるので、動画を見るだけでも飽きない。
動画はその気になって探せば、いくらでも見つかるが、たいていは上空高く上げてトンビが飛ぶようにポツンと小さく舞っている。
しかし画面の中で、遠く小さすぎておもしろくない。
右へ行ったり左へ行ったり、ときどきクルリと宙返りしたりしているのだが、なにせ遠方のドラマなので実感がなく迫力がないのである。
球場最上段のもっとも後ろから試合をながめたらこんなものだろうか。
あるいは最後部の客席で見るオーケストラの演奏のようなものか。
グライダーを間近に大きく見られるのは、離陸と着陸の時だけなのである。
本物のラジコングライダーは、ものにもよるが、身近で見るととても大きい。人の身長くらいあるものもある。初めて見る人だったら、その大きさと美しさに感動すると思う。
そして目の前を通過するときのさわやかな風切り音がすばらしい。こればかりは身近で飛ばさないと体験できない。
ペットが自分のまわりをくるくる走り回るようにグライダーが飛んだら、こんなたのしいことはない。
某模型会社の社長さんが、ラジコン飛行機はローパス、スローフライトにかぎるといっていた。
つまり、低く、低速で、身近で飛ばすということである。
ところがそんな動画があった。
イギリスのウッドフィールドさんという人の動画だった。
日本語に直したら「森原」さんか。
イギリスを地図でみると、左下が細長く左に尖った半島のようになっている。
この先端のあたり ”Lands End” となっている。
つまりここは陸の果てで、ここから先は海、大西洋というところだ。
このあたり一帯の海岸線は急斜面で高い丘に連なり、前方の大西洋から海風が吹きつけている。
丘の上に立つと、遥か斜め下の海岸から、コンスタントに風が吹き上げてくるのである。
ここで帽子や傘などとばされたら、うしろの空へ持っていかれてしまうだろう。
ここがウッドフィールドさんお好みの定位置なのである。
毎回ここでグライダーを飛ばしている。
機体を水平に海側に向け、そっと手を放すだけでいい。
無理に押し出したりしなくても、グライダーはふわりと浮き上がり、ヘリコプターのホバリングのようにその場でただよっている。
ゆっくりと下の海岸の方へ流れて行き、ひとしきり海岸の上で飛んだあと、風に乗って、丘の長い草をかすめながら、こちらに戻ってきて、ウッドフィールドさんにまとわりつく。
ウッドフィールドさんは手をのばして機体を捕まえると、また海に向かって手を放す。
このぐるぐる回りが楽しく、大きなペットとたわむれているようでほほえましい。
ウッドフィールドさんは、グライダーを上空高く上げないし、ポツンと小さく離さない。
まさに low, slow, touch を楽しんでいるのであった。
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この海岸のような上昇風のある地形で飛ばす飛行は、スロープソアリングといって、山の斜面などでもできる。
日本の私の近所では、三浦半島先端の城ヶ島南岸でやっているそうである。
ヨットのラジコンも同様であるが、動力を持たず、風(自然)だけで遊ぶ趣味というのは、奥深い大人の遊びである。
目に見えない大気を感じ、季節の変化を知り、大げさに言えば地球と対話しながら楽しむあそびなのである。
無風の日、強風の日、日々新たな風が吹く。