打ち解けたら意外と普通みたいな 太田ステファニー観人『みどりいせき』
この本を知ったきっかけは、 Xのタイムラインで流れてきた三島由紀夫賞受賞時の著者のインタビューの動画だった。
ガザに対するメッセージは個人的に好感が持てたし、選考委員の「わからない言葉は検索して」「作品のグルーヴに乗って」「読んで絶対に損はない」というコメントにも興味を持った。
自分はこの本の冒頭の文章が読み難く感じて、二回くらい読むことを断念しかけたが、読み難いと感じる文体は最初の方だけでそこを抜けると所々分からない言葉はでてくるが(選考委員が言っていたように検索しながら読んだ)割と普通の文体でサクサクと読み進めた。
三島由紀夫賞受賞時の会見で著者が「自分が読みたいと思うものを書いた」と語っていたが、冒頭の文体からは「これで惹きつけられるか、変に引っ掛からないヤツだけ読んでくれ」とでもいうような、ある意味で読者をふるいにかけるような挑戦的な試みだと感じた。
三島由紀夫賞会見時の記者からの質問内で「登場人物の性別をはっきりと書かないのが印象的」という感想があったので、LGBTに関するような内容があるのかと思ったが、特にそういう登場人物や状況が描かれてるわけではなく「彼」「彼女」といった代名詞があまり使われていないということぐらいだった。(先のコメントに変に引っ張られて、しばらく春がトランスジェンダーだと思って読み進めてしまった。)
あらすじだけ見るとドロドロとした不良犯罪ものみたいな印象を受けるが、実際に読んでみると意外とそういう要素は前面には感じられなくて、十代の若者たちが自分が信じられるものを自らの力で手に入れようとするなかで、ギラギラしたりキラキラしたりする瞬間を描いた青春物語であり、読んだ後は不思議と爽やかな感じのする小説だった。