『パン屋で本を』島田 潤一郎 ✖ 秋 峰善トークイベント
先週の6/29土曜日に千葉県の八千代市にある、パンの五郎左衛門さんで行われたイベント『パン屋で本を』に行ってきた。
そう、文字通りパン屋さんで本のイベントだ。こんなの聞いたことがない。かなり珍しいと思った。
しかも、登壇者はなんと夏葉社の島田さんと『夏葉社日記』の秋月圓の秋さんだ。
実はこのイベントがあることを、この日に知った。
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このときの会場だった、ときわ書房志津ステーションビル店で『パン屋で本を』のフライヤーを見かけたのだ。
早速、会場を調べると最寄駅から徒歩ではなかなか厳しい距離。
土地勘がない場所だし、この時点で6/15に間借り書房いりえさんで行われる『秋さんとの読書会』に行くつもりだったのもあって、こっちのイベントへの参加は見送っていた。
『秋さんとの読書会』は楽しく終了した。
最近の Xで関西での島田さんと秋さんのイベントの様子を見て、面白そうだとは思いつつも『パン屋で本を』に行こうという気にまではならなかった。
しかし、イベントの前日、 Xでこんなポストが。
どうやら席はまだあるらしい。しかも、関東で二人で話すのはこれが最後とのこと。
思わず、予約を申し込んでしまった。
当日の昼過ぎ。二時間、電車にゆられながら会場の最寄駅に余裕をもって着く。
しかし、五郎左衛門さんの Xのプロフィールで案内されている路線のバスが、土曜日の為に丁度いい時間に運行されていなかった。
元々、車を持ってる人が多い土地柄みたいだし、パン好きのお客さんたちは午前中から動くだろう。
もっと、事前に調べておけばよかった。見通しが甘すぎた。
だが、ここまで来てしまったのだ。引き返す訳にも行かない。
幸い、タクシー乗り場がすぐ近くにあった。
タクシーで会場に向かう。思いがけない出費だが、背に腹は代えられない。
会場に着くと早速、島田さんらしき後ろ姿が店内に見える。ガラス張りの引き戸を開けて店に入ると果たしてそれは島田さんだった。
島田さんには以前、葉々社のイベントでサインをもらっただけで顔見知りというわけではない。さり気なく島田さんの前を通り過ぎ、スタッフらしき女性に案内され受付を済ます。
その後、受付の隣に特設された本の販売スペースへと移る。
『夏葉社日記』を読んで気になっていた『あしたから出版社』と、『古くてあたらしい仕事』を購入した。
改めて店内を見回すと、少し広めのイートインスペースで先客たちがゆったりと過ごしている。
この日は自宅から会場までの移動に時間がかかるので、早めに軽い昼食を取った。 イベントの途中でお腹がすいてくると話に集中できなくなりそうで嫌だなと思う。
まだ、開始時間までには余裕がある。お店のパンのコーナーを見ようと歩き出した。
その直後に誰かが自分の肩をつかむ。「来てくれたんですか!」と驚いた顔で言ってきたのは秋さんだった。
「遠かったでしょ?」と続けて聞かれ「そんなことはない」というようなことを言おうとしつつも、「実際は結構遠かったな」という心の声もほぼ同時に頭に浮かび、舌がもつれる。
結局、「昨日、 Xで見たんで。」と、よくわからない言葉をしどろもどろに返してしまったのだが、秋さんは喜んでくれているみたいだった。
小腹塞ぎになるようなものを探すと、三枚入りのチョコチップクッキーが目に入った。それをレジまで持って行き、追加でホットコーヒーを頼む。
甘いクッキーの余韻と共にコーヒーを味わいながら、さっき購入した本に軽く目を通して質疑応答のときに聞きたいことが、既に書かれていないかチェックする。
イベントが始まる前から島田さんと秋さんの前には数人ずつお客さんが並び、のんびりとしたサイン会が開かれていた。
自分もサインをもらおうと、島田さんの前に並ぶ。
「サインを頂いてもいいですか?」と島田さんに尋ねると快く応じてくれた。
一冊目にサインをもらっている最中に、島田さんの後ろから秋さんが来た。
「島田さん、この方は葉々社に来てくれた人ですよ。」と自分を紹介してくれた。「こだまさんのイベントで最初に一緒になって、いりえさんでやった僕のイベントにも来てくれたホッシーさんです。」
「ああ、ホッシーさん。SNSで見かけたことがあります。」と意外にも島田さんは言う。
サインと一緒に書いてもらってる自分の名前には「ホッシー」というニックネームの元になりそうな音が無いせいか、島田さんの視線が本と自分の顔との間を往復する。
どう説明しようか、ちょっと考えた後に「ホッシーっていうのはイベントのときのニックネームなんです。」と妙な自己紹介をした。
ちなみに自分は今、「ホッシー」というネームはnoteでしか使ってない。
人違いでなかったら、noteで書いた記事が島田さんの目に入ってしまったということだ。(『夏葉社日記』についての記事で、島田さんや夏葉社のハッシュタグを調子に乗って付けたからだろう。恥ずかしい。)
二冊目にサインをしながら「今日はどちらからいらっしゃたんですか?」と島田さん。
「〇〇からです。」と自分。
「〇〇は好きな町なんです。○○の近くに△△ってところありますよね?そこで昔、バイトしてたんです。」と島田さんは親しみがこもった感じで話してくれた。
サインを二冊分もらうと、「ありがとうございます。イベント楽しみにしています。」と礼を言ってさっきコーヒーを飲んでいた席に戻る。
しばらくすると、レジがあるカウンターの裏側のスペースに島田さんと秋さんが入り、そこへ背の高いスツールが運ばれて二人はそれぞれ座った。
司会による登壇者の二人の紹介でイベントが始まった。 秋さんは今日の会場がある地域の高校出身ということをこの時知った。
先ずは『夏葉社日記』が書かれた経緯を一通り触れる。
本に書かれてなかった内容も含めて、本人の口から直接話を聞くと一段と『夏葉社日記』の世界の深さが増す。
島田さん側からの視点は『長い日記』の中にも書かれていたが、本の中の文章の「力点」とは違うところに島田さんの思いがあったことを本人の語りによって知る。
気持ちや思いが綴られた文章を「本」という形に整えるというのは一筋縄ではいかないのだと改めて実感する。
他にも印象に残った話があった。どういった話の流れか忘れてしまったが、秋さんは島田さんを「かわいい」と言った。
島田さんはあまりそんな風に言われたことがないのか、若干照れている様子だった。
自分は島田さんと同世代だが、自分より若い世代だと男性でも自身が着てる服や使ってる小物を選んだ理由など、かつては女性だけが使ってたようなシチュエーションで自然と「かわいい」と使う。
個人的には、これはいい傾向だと思う。少しだけ世界が丸くなる感じがする。(それでも自分は使い慣れてないせいか、さらっと使えないのだが。)
意外な方向にも広がった二人によるトークの時間が終わり、次は参加者との質疑応答に移る。
最初の参加者からの質問は、「出版不況と言われるようになって久しいが、島田さんはどのように考えて本作りをされているか?」というものだった。
島田さんの答えを要約すると
大幅に売上が減少したのは、ネット上のコンテンツと置き換わってしまうようなライトユーザー向けの内容の雑誌や本。
売り上げを稼ぐ為だけに、内容が薄くても数多く本を出版しようとするのは前時代的で現在のニーズにも合ってなく悪循環である。
夏葉社はコアな内容の本がメインで、一番の趣味が読書というようなヘビーユーザー向けで、そういう層の数の変動は感じていない。故に夏葉社は売上が落ちたと感じたことはない。
ただ、これは規模の小さな出版社だから言えることであり、多くの社員を抱える大きな出版社はコアな内容の本だけ作っていれば良いという訳にはいかないと思う。
今だにファッション誌のグラビアの小物で「本」が使われている。文化的に紙の本が扱われている(著者:シンボル的な用途だとしても、モノとしての価値が見出されている?)うちは、出版業界は無くなることはないと思う。
とのことだった。
自分は『夏葉社日記』で描かれた島田さんの発言で気になるところがあったので、質問してみた。
「『夏葉社日記』の中の島田さんの発言で‘’ゆっくりでいいですよ‘’という言葉が繰り返し出てくるんですが、これは島田さんご自身の仕事に対するモットーなのでしょうか?
あるいはお子さんを育てているなかで、人に物を教えるときにはそうした方がいいと思われるようになったのでしょうか?
または全く違う理由があるならば、詳しく教えていただけないでしょうか?」
「そう、本当によく言ってた!どうしてだったんですか?」と秋さんも畳み掛けるように聞く。
この質問に対し、島田さんは意外にも直ぐには答えられなかった。
両手でこめかみのあたりを押さえ、目を閉じながら「うーん」と、かなり考えこんでる様子。
しばらく経って島田さんは探り探り言葉を選ぶように答えはじめた。
「秋くんには、たとえ本を箱に詰めるだけでも、ただの作業としてやってほしくなかったんですね。
それだと考えることができなくなってしまう。
どんなことでも考えながら仕事をするのが大切なことで、なにも考えずにただ数をこなしても、そういう仕事にはあまり意味がないと思っています。」
リアルタイムで島田さんの新しい名言が聞けた。
あえて、自分なりに解釈させてもらうならば、時間に追われるような感覚でいると細かな変化に気付いたり、一歩引いて俯瞰して新しいアイデアを思いついたり、今、やってる仕事の先に待っている人のことを考える「余裕」「余地」などが無くなってしまうということだろうか?
と、こちらの思考を刺激されるような、シンプルな言葉の連なりが島田さんの発言、文章のいいところだと自分は思う。
この後、参加者からもう一つの質問があったのだが、島田さんに『夏葉社日記』で気になっていたことを直接答えてもらえたことのインパクトが大きかったのか内容を憶えていない。(誠に失礼いたします。)
最後にこの会を主催された方の挨拶があった。
企画された方は島田さんの文章教室に通っていて、五郎左衛門さんとも知り合い。
五郎左衛門さんは島田さん、秋さんのファンだがお店があるのでイベントには行けない。
それならと、五郎左衛門さんの店内でイベントを開くことにしたらしい。
すごい発想の転換!
締めの司会による賛辞は、登壇者の島田さんと秋さんから始まり、会場となった五郎左衛門さん、物販担当、ときわ書房志津ステーションビル店店長さん(ご本人は「俺はいいよ!」とおっしゃってたが)まで続き、アットホームな雰囲気で終わった。
自分の中の「本当に来てよかったと思えたイベント」の思い出リストがまた一つ増えた。