悪魔の甘栗 いりえで書く 11月のお題「秋の味覚」
酒を飲まなくなって、変わったこと。それは「甘いもの」をよく食べるようになったことだ。酒を飲んでた頃もたまには甘いものを食べてはいたが、さすがに酒は飲む、甘いものも気にせず食べるとなったら、すぐに太ってしまって健康にも悪いだろうと控えていた。
酒をやめて、しばらくはコーヒーを飲む量が増えていたが、当時飲んでいた薬がカフェインと相性が悪かったらしく発熱、頻脈、高血圧と副作用のようなものが出て、慌てて病院に駆け込んだ。(そもそもコーヒー飲みすぎだと主治医には言われた。)
薬の種類を変え、コーヒーは一日一杯までとの医者からの指示で、家ではデカフェ(カフェインレスのコーヒー)を飲むようにしたのだが、普通のコーヒーよりも値段が高いデカフェをガブガブと飲むのは気が引けてくるようになった。
あるとき、「少し何か食べてお腹が膨らめば、デカフェを飲む量を減らせるのではないか」と家にあった一口サイズのお菓子を食べた。うまい。
まだ、カップに残っていたデカフェを飲んだ。合う。
当たり前だ。みんなそうやって、午後のひとときなどを楽しんでいるのだ。やっかいな扉を開いてしまった。
一日にデカフェを飲む量はそれほど減らず、毎日の測定で増減のあった体重は増増になっていった。
最近、実家から送られてきた小包のなかに「むき甘栗」が入っていた。うちの子どもが小さいときによく「むき甘栗」を食べていたので、それを覚えていたのか母が送ってきたのだ。しかし、子どもは日々成長する。味覚も変わり、最近は「むき甘栗」はあまり食べない。
自分も甘栗自体、最後に食べたのがいつだった思い出せないほど食べていない。自分が子どものときは殻付きの甘栗が主流で、赤い紙袋に「天津甘栗」と白抜き文字で書かれたパッケージで売られていた。殻を割ってむくのも、子どもの小さくて柔らかい爪と指ではなかなか面倒で、食べていくうちに指先は少し痛くなり、栗の殻の表面の「こげ」で茶色くなっていったな、などと思い出す。
「久しぶりに食べてみるか」と、個包装の一つを開けて「むき甘栗」を口に放り込む。悪くない。製造方法のせいか、子どものときに食べていた殻付きのものよりしっとりしている。
何の気なしに袋の成分表を見てみる。思ったほどカロリーも高くはない。小腹塞ぎにいいんじゃないか。「むき甘栗」が自分の日常に入って来た。
朝に素炒りのミックスナッツを食べることにしている。健康診断の結果、減塩を心掛けた方がいいと医者から指導を受けたものの、ごはんでもパンでも塩気が少ないとなかなか食が進まず、かと言って甘いものをいきなり食べても、血糖値を急に上げてよろしくないだろうと思ってのことだ。
ミックスナッツで足りないと感じたときはパンを少し食べるが、その日は家にパンがなかった。「むき甘栗」はあった。口にまだナッツが残っている状態で「むき甘栗」を口に入れる。
背徳感のある味わいが口に広がる。ハイカロリーな食べ物特有の味だ。ヤバい化学反応が起きている。人がなぜジャンクフードをやめられないかを説明するときに出てくる要素、「糖分」「塩分」「油脂」のうちの二つにチェックが入り、リーチ状態だと気付いた。とくにクルミとの相性がよい。と語っている場合ではないが。
また、一つやっかいな扉を開いてしまった。
食べることに対する背徳感は減り、体重はじりじりと増えている。