『ジュンについて』を観てきた
ある日、Xを見てるとこんなポストが流れてきた。
一般の劇場公開は未定とのことで、早速、予約を入れた。そして先週、渋谷のユーロライブでの上映会に行ってきた。
この映画は、ひとり出版社である夏葉社と、その代表の島田潤一郎さんのドキュメンタリーである。
本の入出庫作業、返品された本の仕分け、不備のあるカバーの付け替え、全国の書店への営業、執筆作業など、日常の業務の様子が淡々と映し出される。
まるで、島田さんの『あしたから出版社』『古くてあたらしい仕事』といった本の実写版のようだ。実際、劇中のナレーションは、それらの本からの引用だったと思う。
しかし、第三者である田野監督が撮った映像となると、本とはまた違った部分も浮かび上がってくる。
例えば、島田さんの営業での新刊の売り込みのシーン。中には、なかなか首を縦に振らない店主の方もいる。
本での島田さんのイメージだと、営業先の食いつきが悪いときは早めに引くような印象だったが、映画での島田さんは本の魅力を伝えようと食い下がる。相手の店主だと思われる女性も、「自分が納得できない本は店に置けない」とでもいうように折れる様子はない。
静かだが、ひりひりとする真剣なやりとりだ。しかし、スクリーンからは双方の切実な思いが伝わってきて嫌な感じはしなかった。
この映画に出てくる他の店主さん(または書店員さん)達の姿や語っている場面も、それぞれに仕事や、地域における書店の在り方などに対する信念があることが垣間見れ、「かっこいい」のである。
そして、この映画のもう一つの軸として、家庭人として過ごす島田さんの姿がある。お子さんや奥さんと映る島田さんはリラックスした様子だ。
また、島田さんが高知の叔父さん、叔母さんとともに過ごすシーンも。ここでは島田さんのお子さんと、お母さんも一緒で、親族一同で賑やかな様子である。そこで島田さんが、叔母さんと従兄のケンさんとの思い出話をしている場面を見ていたときに何か既視感があるような気がした。
自分の2歳年上の従兄は、小学生のときに病気で急逝した。
従兄が亡くなってからというもの、叔母と会うと自分を見るときの眼差しの先に、亡くなった従兄を見ていると感じられることがあり、島田さんの伯母さんが島田さんと話してる表情を見て、それを思い出したのだ。
『あしたから出版社』『古くてあたらしい仕事』にも書かれていることだが、ケンさんは若くして「事故」で亡くなられている。その出来事がきっかけになり、島田さんが夏葉社を立ち上げたことも、本を読んだ方ならご存じだと思う。
この映画では、あるトークイベントで「事故」についての詳細を話す様子も撮られている。
「事故」については自分も行った、9月の下北沢のボーナストラックでのトークイベントでも話されていたが、どのように纏めればいいのか思いつかなくてnoteの記事に書くことをやめていた。
(※この記事でも詳細は触れられていません。)
突然、従兄がいなくなった喪失感は自分もわかる。しかし、ケンさんの「事故」の話を聞くと、島田さんの場合はまた違った「思い」もあったのではないかと思う。
映画のラストは島田さんがある本の制作から思うに至った、理想について語るシーンで締められた。
この映画で映し出される島田さんは、ひとり出版社の社長であり、父であり、夫であり、子であり、甥っ子であり、従弟であり、そして、人生という海原の中で、本と本屋で息継ぎをしているような人たちの一人であった。
上映後のトークイベントまでの休憩時間に、『いりえで書く』メンバーのレオさんに会う。
いりえさんの「お喋り会」では2,3か月会っていなかったので、「久しぶりですね。」と挨拶したが、あいにく顔を合わしたのが混みあうトイレの中だったので、あまり話し込むことなく別れた。
トークイベントは田野監督の軽快な語りと、島田さんの撮影裏話の暴露で盛り上がり、あっという間に終了時間となった。
終演後、会場に来ていた秋月圓の秋さんのところへ行く。実は開演前に会場に着いてすぐに会ったのだが、関係者らしき人たちと話し込んでいたので、挨拶は軽めに済ましていた。そのときに、ある「もの」を貰えるように頼んでいたのだ。
無事にフリーペーパーも入手して、秋さんが今、手掛けている本についての話を聞く。
その後、島田さんに挨拶をしようと思うが、今日の主役である島田さんのところには引っ切り無しに人が訪れ、話が続く。
しばらく、待っていたが諦めて帰ろうと、秋さんに「島田さんによろしくお伝えください。」と伝えると「今、繋ぎますよ。」と島田さんの所へ向かった。
前の方との話を切り上げて、こちらに来てもらった島田さんに恐縮しながら、今、観たばかりの映画の感想をたどたどしく伝える。自分のことは秋さんの知り合いとして覚えていただいていた。
映画で夏葉社に置かれているオーディオセットの上に、クラッシュの『ロンドン・コーリング』のCDが飾ってあったことにふれて、「自分もクラッシュ好きです。」と伝えると、島田さんは「最近、ジョー・ストラマ―のフィギュア買いましたよ。」と言い、「ロンドン・コーリング」と「ロック・ザ・カスバ」の2種類のフィギュアが発売されていることを教えてくれた。
クラッシュの話でしばし盛り上がり、その後、時間を割いて話していただいたことへの感謝を述べ、「お疲れ様でした。」と言って会場を後にした。
帰ってからXを見ると、島田さんはこの日の上映会について投稿していた。