本の持つ力に導かれて 横道誠×藤澤千春「回復のために本を書き、本をつくる」『アダルトチルドレンの教科書』(晶文社)刊行記念
最近、よく行く場所の一つに下北沢がある。音楽好きなのでライブハウスに向かう日もあるが、今、下北沢に行く目的の大半は本屋B&Bに行くことで、本を見に行くだけでなくイベントに参加することも多い。
その中でも最近、ある登壇者のイベントに立て続けに参加した。それは文学研究者の横道誠さんだ。元々、自分は太田出版のサイトで横道さんと精神科医の松本俊彦さんの連載を読んでいた。
しかし、イベントに参加する前は横道さんの書いた本は読んだことがなく、横道さんを追っていたというよりも、他に自分が気になる本を出している作家さんがB&Bでイベントをするというと、もれなく横道さんが一緒だったのである。
今まで自分が観た、横道さんが出られたイベントのメインの登壇者は、柴崎友香さんと赤坂真理さんだ。柴崎友香さんは『あらゆることは今起こる』、赤坂真理さんは『安全に狂う方法』という本を、医学書院の『シリーズ ケアをひらく』で出されていて、その刊行記念のイベントだった。
横道さんの著書である『みんな水の中』も、このシリーズの中の本なので一緒にイベントをやられたというのもあると思う。柴崎さんも赤坂さんも先に挙げたそれぞれの著書の中で、『みんな水の中』を読んで感銘し、影響を受けたことが記されている。
イベント中に、メインの登壇者から横道さんの本が紹介されると内容が気になり、実際に手に取ってみると興味深い内容で、気がつくと他の著者との共著のものも含めて横道さんの本を何冊も読むようになっていた。
発達障害、アダルトチルドレン、依存症、宗教二世に関するテーマでの著書がある横道さんだが、ご本人が当事者であり、また文学研究者でもあることも関係しているのかもしれないが、どれも読みやすくて分かりやすいと感じた。
そして、先日ついに(?)横道さんがメインのイベントに行ってきた。横道誠×藤澤千春「回復のために本を書き、本をつくる」『アダルトチルドレンの教科書』(晶文社)刊行記念というイベントだ。
対談相手の藤澤千春さんは太田出版の編集者で、横道さんと精神科医の松本俊彦さんとの共著『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』の担当編集者だ。
そして、自分にとって藤澤さんは作家のこだまさんのエッセイにも登場する、担当編集者の Fさんとして馴染み深い。
イベントのテーマは宗教二世でアダルトチルドレンである登壇者のお二人が本を書くこと、作ることによって自身のトラウマにどう向き合い回復に向かっていくのかということだった。
横道さんはご自身が当事者である発達障害、アダルトチルドレン、アルコール依存症に関する文献など調べたり、当事者の自助グループの活動を通して得た経験や知識を本を書いている。
横道さんの考え方や行動の裏側にある、育成歴による影響などを深堀りしたり、医学的な参考文献を引用しながらも、自助グループの現場での体験を元に様々な当事者の行動や心理を紐解いていく文章は、当事者でなくても理解しやすい内容になっていると思う。
藤澤さんは個人的な関心から読んだ専門的な本を、自身が本を企画する際に参考にしながらも、売れる本(=とっつきやすく、多くの人が読みやすい本)を作ることを心がけているという。より多くの人に届く本を作ることによって、一般的に見過ごされがちな問題を社会に訴えかけようという意図もあるとのこと。
アダルトチルドレンは周囲の人間関係などで困難が生じる場面が多いとされるが、藤沢さんも日々の生活の中で感じる困りごとや違和感が、携わる本の企画の出発点になっているようだ。
藤澤さんは自身が作った本を読んでくれる人を、同じような問題意識のある理解者だと思っていること、本を読んだ人の中には各分野で活動されている方もいて、実際に知り会う機会に仲良くなることもあり、そういうことが藤澤さんの心の支えにもなっていると語っていた。
お二人とも一個人としてトラウマに向き合った経験を本にする過程で、当時の自身や周囲の環境を客観的に見ることによって、過去の記憶とも折り合いを付けていっているような印象を持った。
横道さん、藤澤さんの関わる本の内容は、個人と社会との関わり方を自身の特性や属性を基点に根本的なところから考え直し、組み立て直そうというようなものが多い。なので、同じような境遇の人だけではなく、自身の生き方や社会、周囲の人間との関わり方を今一度考え直したいという人たちにも響いているのではないかと思う。
イベント終了後はサインをもらう。
『アダルトチルドレンの教科書』
『ビジネスマン超入門365』
『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』
こだまさんは猫好きであることがファンの中では有名だが、藤澤さんも猫を飼っているとのことでサインと一緒に猫のイラストも描いてくれた。
藤澤さんに「次回のイベントも伺います。」と言うと、「ありがとうございます。」と満面の笑みで返してくれた。