Last melody
※この短編小説をイメージした曲を作りました。併せて楽しんで頂けたら嬉しいです。
ーーー誰に向けられる訳でもない、行き場のないメロディ。
老婆は何故か疲れていた。
身体は重いような、軽いような…そんなことも分からなくなるくらいに。
外からは時折、冷たいすきま風が入ってきて頬の感覚がない。
もう終わりが近づいている。
その感覚だけははっきりとある。
病室の小さな引き出しには、中途半端に使った日記帳が数冊あった。
重い腰を上げて起き上がり、久しぶりに5冊目の日記帳を開いてみる。
鉛筆で書いた文字はかすれて読みにくい。
視界はぼやけていたが、紙の縁が変色して黄色くなっていたことは分かった。
この日記帳たちは私の人生を誇れるものー…ではない。
続かなかった理由も、きっとそういうことなのだろう。
生きていく上での意味のようなものはなかったし、特に見つけるつもりもなかったのだ。
私の人生は平凡だった。何の変哲もない、飾り気など全くない。
「後悔などない」
昨日までの私はそう思っていた。
でも、今日初めて「後悔」という感情を知った。
人生とはこういったものの繰り返しということなのか、と老婆は悟ったように軽く頷きながらベッドに横になり、目を閉じた。
「この気持ちを書き記しておこう…」
窓はカタカタと音を立てている。
かすかに、聞こえてくる。
空気に溶けていくように、その音は消えた。