貴方のお墓 (短篇小説)
最初の異常事例報告は、実に奇妙なものだった。「昨日まで空き地だった場所に、今朝、墓地が出現した」—聞くからに荒唐無稽な通報内容に、最初は部下の確認ミスを疑った。
現場は東京都内の閑静な住宅街。三方を民家に囲まれた300平方メートルほどの土地に、100基を超える墓石が数珠つなぎに並んでいた。2週間前の区画整理の写真には確かに更地が写っている。しかし今、そこには完全な集合墓地が出現していた。コンクリートの囲いも、参道も、供養塔も、まるで何十年もそこにあったかのように整然と配置されていた。
最初の現場検証で、私たちは二つの不可解な事実に直面した。一つは、どの墓石も新品同様の輝きを放っており、苔一つ生えていない異様な清潔さ。もう一つは、地中レーダーによる探査で、埋葬の痕跡が一切検出されなかったことだ。墓石は確かな重さと実体を持っているのに、地下には何も—まるで舞台セットのように、地表に載せられただけなのだ。
だが、それは単なる始まりに過ぎなかった。この墓地の真の異常性は、人が足を踏み入れた時に現れる。
訪れる者は必ず、自分の名前が刻まれた墓石を見つけることになる。
そして、その石には未来の日付と、その人の死に方を予言する短い詩が刻まれているのだ。
私は情報提供者の中村貴之と共に調査を開始した。私は懐疑的な態度を崩さなかったが、墓地に足を踏み入れた途端、空気が変わったのを感じた。
「...見つけました。」
彼の声は震えていた。墓石には確かに「中村貴之」の名が刻まれ、その下には死亡日時—今から3日後の日付と共に、一行の詩があった。
"凍てつく階段で月を待つ"
私は彼に帰るよう伝え、もし可能であれば休暇を取るよう助言したが、それから彼の連絡は途絶えてまった。3日後、中村は自宅アパートの非常階段で凍死体で発見された。
その後の調査で、噂を聞きつけてやってきた46人が自身の墓石を見つけ、そのうち37人が記された通りの日時に死亡したことが判明した。残る9名に関しては現時点よりも未来が指定されていて、短いと3日後。長くて50年後を指し示しているようだった。
しかし、最も衝撃的な発見は後からやってきた。墓石に刻まれた詩は、全て1962年から1967年の間にとある文芸誌の「みんなでポエムる」というコーナーで掲載されていたものだった。
"言葉には、時として不思議な導きがあります。 あなたの心に浮かんだ情景を、素直に詩に託してください。 技巧を競うのではなく、心の声を聴く場として、このコーナーをご活用ください。"
——雑誌内「みんなでポエムる」編集長からのコメント
以下は、確認された死の記録の一部である
"桜散る歩道に車の影"
—花見帰りの会社員、交通事故死
"雲の上で月を抱きしめる"
—登山愛好家、低体温症による死亡
"雨の夜、数えきれない白い錠"
—主婦、睡眠薬過剰摂取
現在、私たちはこの予言を回避する方法を研究している。しかし、これまでの「回避」の試みは全て、より残虐な結末をもたらしてきた。まるで死そのものが、私たちを嘲笑っているかのように。
私は昨日、ついに自分の墓石を見つけた。そこには、一行の詩が書かれている。おそらくこの日付は私が報告書を完成させる日なのだろう。いや、完成させることは出来るのだろうか。
"月明かりの 書斎に揺れる 赤い署名"