素晴らしき哉、人生
クラシックを語るときにオリジネーター、先駆者であるかないかだけが着目されがちだがそこを抜きにして現代でも通じるだけの普遍性がある作品がクラシックとして残る。
ポピュリズム、アメリカの夢見た理想的家庭を描きながらのストーリーはきっと当時の世相だと思うのだけど時代性は呼応する、「リリィシュシュのすべて」もそうだが時代とリンクして大きな共感が生まれる、説得力と物語の分厚さみたいなものはここから来る。
この映画は一人の人生を天使の視点を借りて幼少から追うのだがこれがまた感情移入しまくっちまうのよ、あたしゃ信仰心なんてもんは持ち合わせていない蛮族だが最後にはこの男を助けてほしいとすら思った。
努力した人間が裏切られるのはこの世の常、勤勉な人間ほど人生に打ちのめされてしまう、そしてふざけた人ほど飄々と世を渡る、無慈悲なものだ。
冒頭に神様のやりとりを見せファンタジーの形を取ることでこれは超常的なことが起こりうる世界ということが提示されている、つまりどんなに辛い展開になっても奇跡が起こるという話、ネタは上がっているのに面白いのは神の御業ではなく主人公の行いが結実した結果、クリスマスの夜に大団円を迎えるドラマチックな展開につきる、人間は神様がいなくても支え合って生きていける。
私がジム・ジャームッシュの「ナイトオンザプラネット」を好きな理由を雑に話すと大袈裟なことが起きないまるで私たちの生活と地続きにある作品だからなのだが「素晴らしき哉、人生!」も同じところがある、ジョンレノンやビルゲイツは世界を変え、大きな成功をした、きっと100年後も歴史に残るだろうが私のような凡人はそんな偉業を成せないまま死んでいく、それは決して悪いことではない、大きな意味なんて待たなくとも誰もが誰かに作用しあって今の世界が作られている、そのままで人は素晴らしい、誰もが天才を背負っていると私は信じている、この映画を見た時に弱い立場の人間に対する応援のようなものを感じた、偉人と比べ負い目を感じることはない、劣等感や見栄は内面以外のものから価値を獲得しようとする原因になる、他人の地位に寄生して大きくなった気になったり容姿や富でしか自分を語れなくなる、そんな鎧がなくても一人一人の人間にちゃんと物語と意味があるんだよ、素敵じゃないすか人生って。
これから生まれるあらゆるものは偉大なる過去作品の焼き回しになるだろう、ビートルズが全てのコード進行を作ったと言われるように物語のセオリーもいずれ枯渇する、しかしそのネガは単なる焼き回しではなく人間の数だけ色がつく、名作には訳があって何一つ同じものは存在しない。
※20210104Filmarksより転載
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