春の雪。
このぐらいの時期になると 思い出す事がある
あれは 9年前の3月も終わりが見えてきた頃のこと
その日は土曜日で 中学1年生だった長男を野球の練習に送っていく 朝だった
冬の間に 降り積もった雪は ほとんど解け
走りやすくなった道に すっかり油断していた
そんな所に 雪が降った
ほぼ解けかかった みぞれの雪が。
普段だと あんまり意識しないくらいのカーブにさしかかった瞬間だった
ハンドルが効かなくなった
慌てて ハンドルを強く握る
右に左に タイヤが振れる
あと少し あと少し 耐えたら
坂道に入って そこは ロードヒーティングが効いていて 雪は解けている
私だけならともかく 息子が乗っている 大惨事は免れたい
数秒間の間に 色んな事が頭を駆け巡った
頑張ってみたけど ダメだーと諦めた瞬間 ぼすっという音とともに 車が止まった
一瞬思考が停止したけれど とりあえず状況を確認しようと 車から出た
幸いドアは開いたけれど すれすれまで雪がある
降りて見ると 膝まですっぽり埋まった
車のてっぺんの高さと同じ所に さっきまで走っていた道がある
どう頑張っても 自力で抜け出すのは無理だ
目の前が真っ暗になった
ハッと 長男を思い出し 車に戻る
「痛いとこない?」
『ないよ。で 俺 何すればいい?車押す?』
クラクラ倒れそうな私と対照的に いつも通りどっしり座ったまま いつもと変わらない口調だった
練習の集合時間も迫っているから イライラしてもおかしくないのに
とりあえず 自力での脱出は無理な事を伝える
『そっか。とりあえず 落ち着け。父さんにこういう時は どうすればいいか 聞いてみれば?』
慌てふためいてる私を見て 責めるのは逆効果だと思ったのか 相変わらず いつもの顔で そう言った
あ。そっか。パパに電話か。
怒られるなぁ。
電話に出た 旦那さんは びっくりしながらも
『で?〇〇(私)と〇〇(長男)のケガは?』と聞いてきた
こっちもいつも通りの声
すぐには行けないから JAFを呼んで助けてもらうように。 何かあったらまた連絡ちょうだい と言って電話は切れた
JAFに 電話すると そこら中でJAFを待っている人だらけで 2時間くらい待ってもらうことになります と言う
仕方ない
先に練習場に着いている友達に連絡して 遅れると伝えると 心配して 長男を迎えに来てくれた
おかげで ギリギリ練習に間に合った
2時間待つ覚悟だった JAFも1時間くらいで来てくれた
引っ張りあげる事は 可能だけれど 車を無事なまま の保証はできません その旨についてのサインが必要です だという
これも仕方ない
半年前に購入したばかりの車だった
遠くの山が 涙でにじむ
時を戻したい 朝家を出るときに
道路の状態と交通量を考えて お巡りさんにも来てもらい 交通誘導をしてもらいながら 引き上げが始まった
すっぽり落ちていた 私の車が少しずつ道路まで 引き上げられて行く
意外と すんなり何にも引っかからず 元の位置に戻ってきた
結果 車は 無事だった
なんという奇跡。
お巡りさんに お礼をいいに行くと
「こんなに障害物があるのに 良くどこにもぶつからずに 上手くあの場所に落ちましたね~」
と言われた
最悪な状況なのに ちょっと気持ちがあがってしまった
別に お巡りさんは 褒めてくれたわけではない
それでも すぐ褒められた気分になってしまうから こんな歳になってまで 成長してないのだ
車を 一段下の土地に落とし 引き上げてもらって たくさんの人にお世話になりながら午前中は終わった
私の油断が 大騒ぎな状況を作ってしまったけれど 幸い 歩行者や対向車もなく 他人様を巻き込むことなく 済んだのは 不幸中の幸いだった
通り慣れた道だとしても
解けかかった春の雪だとしても
油断すれば 何が起こるか わからないし
事故を起こす危険は いつでもある
緊張しながら走っていた雪道が 解けていつもの道が戻ってきても
ハンドルを握ったら 気を緩めてはいけないのだ と自分に言い聞かせている
そして 私の 何か起こったら すぐテンパり 余裕のない性格が 息子たちに遺伝せず
だいたいいつも 同じような安定した精神状態を保てている 旦那さんに似てくれたことを 神さまに感謝している
ただ 結構な事をしでかしてしまった時は 怒られる方が気が楽なのになぁ なんて贅沢な事も 思ってみたりする
春の雪道を 運転するときは 気の緩みに気をつけましょう