部屋にグリーンがあった話
※画像はお借りしたものです。
ユーカリを枯らした。
2週間ほど前に買ってきた、5号鉢のユーカリグニーだった。以前からずっと、部屋に緑が欲しいなと思っていたけれど、園芸経験ゼロの私にはハードルが高く、二の足を踏み続けていた。通勤途中にある花屋さんでふと見かけたその鉢植えは、シルバーグリーンの葉の色が可愛らしく、さわやかな香りが気に入って買ったのだった。
この植物は比較的生命力が強い品種で、日当たりの良い場所を好み、湿度を嫌うそうだ。私の部屋にはベランダがなく、西向きの窓しかない。部屋のなかで一番明るくなるその窓際に、鉢を置いた。土が乾くまで水やりをしてはいけないと聞いたので、しばらくそのままにしていた。
初めての、切り花ではない観葉植物。なんだか生活がおしゃれになったような気がする。小学生の頃、授業の一環で育てる朝顔やへちまを枯らした実績のある私。しかしもういい大人なので、今回こそは大切にしようと心に決めた。毎朝目が覚めるとユーカリにおはようを言って、窓を開けて風通しをよくし、土の湿りをチェックした。
4日目の朝だったか。枝のてっぺんの葉が、ふにゃっと変形していることに気付いた。水やりをしなさ過ぎて、乾燥したのだろうか。土を触って確かめてみると、梅雨の気候であることもあり、まだ湿っている。おかしいな、と思いながらも、水をやってみた。鉢底から流れた水はお風呂の排水溝に捨てた。
その日、帰宅すると、ふにゃふにゃした葉がすこし増えていた。おかしいな、水をやったのに。良くなかったのかな。ネットで調べてみると、いろんな人がいろんなことを言っている。その中でこれかもしれないと思う記述に出会った。「根詰まり、または根腐れ」である。
なんだそれは。いや、なんとなくイメージはわかるけれども。読めば鉢の中で根っこが伸びすぎて、それ以上成長できなかったり、鉢の中が蒸れて根っこが痛んでしまい、土中の栄養を吸収できなくなることをいうらしい。確かに、買ってきたときから、鉢底から根っこがちょろりと顔を出しているなとは思っていたのだ。しかし、植え替えは植物にとっては引っ越しのようなもので、とてもエネルギーを使うとも書いてある。最初にふにゃふにゃになった葉はいまやパリパリになってしまっており、同じような葉が加速度的に増えている今の状況で、そんなことをしていいのだろうか。人間の私だって、前回引っ越しをしたときは体力を使い果たして、しばらく使い物にならなかった。あんなのは気力体力充分なときにやるものではないのか。
植物を育てるのが趣味の友人がいる。遠方に住んでいるのだが、庭にいろんなものの種を捲いてはトトロのように芽吹かせる。メロンとかコーンとかひょうたんとか。そんな友人に相談してみたら、「それは植え替えかもね。でも、ユーカリは育てたことないから自信ない。ググってみたら?」という。こちとらググり倒しても確信が持てないから聞いているのだが、友人にしても、何もかも条件が異なる室内の鉢植えのことなど聞かれても責任はとれないし、困るとしか言いようがないだろう。大変申し訳ない。
次は鉢植えを買った花屋の店員さんに相談した。はにかんだような笑顔がかわいくて、「花屋のお姉さん」という肩書が最強に似合う可憐な女性である。私もこういう人になりたかった。お姉さんはにっこりして、「それは水のあげすぎかもしれませんね」と言った。1.2週間くらい水をあげなくてもいいらしい。前述の朝顔のときは、先生が「毎朝お水をあげましょう」って言ってたので、植物なのだから乾燥気味といっても数日おきくらいにはあげないといけないのかと思っていたので驚いた。ちなみに植え替えは、今の状況ではおすすめできないという。やはりそうか。実はこの時点で先走って、観葉植物の土と、一回り大きな鉢を用意していたのだが、活躍するのはまだ先になりそうだ。土に至っては、1袋だけ買ったつもりが、最低発注数3袋だった。みなさんは、買い物するときはちゃんと確かめてから注文ボタンを押していただきたい。
そんなわけで、水やりも植え替えもせずに見守ることにしたのだが、ユーカリの衰弱は止まらない。土も乾かない。幹の部分は緑色だったのに、だんだん先から茶色くなってきた。植物が元気になるというHB‐101という肥料もやってみたけれど、あまり意味はなかったようだ。
そして、購入から約2週間のきょう、ユーカリはついに枯れてしまった。正確にはまだ、幹にほんのすこし緑色の部分が残っている。しかし花屋のお姉さん曰く、こうなったらもう復活するのは難しいとのこと。ネットで調べたら、最後の手段で、全ての枝葉を落として丸坊主にしてやると、生命力が残っていれば復活する可能性があると書いてあったので、試してみた。なのでまだ完全に終わってしまったわけではないが、正直厳しいだろう。
梅雨という気候に合わなかったのかもしれない。最初から弱っていた可能性もある。もちろん私の部屋の日照不足かもしれないし、最初に水をあげてしまったのもいけなかっただろう。とにかく、私が大事にしてあげられなかったのは事実だ。かわいそうなことをしてしまった。花屋のお姉さんは、「枯らすことはいけないことではないし、もっと環境に合う植物は他にもあるので、ぜひまたチャレンジしてみてくださいね」と慰めてくれた。
枯れてしまったのは残念だったが、普段と一味違う2週間でもあった。ユーカリのいい香りは朝の目覚めを良くしてくれたし、緑はインテリアを華やかにしてくれた。調子が悪くなってからは、物言わぬ生き物の放つサインを捉えようと懸命に観察した。そういうことを、「やるべき」ではなく、「やりたい」と感じながらできたことは幸せな時間だったと思う。
次はガジュマルかゴムの木を植えてみようかと思っている。いずれも日当たりを好むが耐陰性はあり初心者向けだという。鉢も土も余っているので、次こそは成功させたい。そして充実した観葉植物ライフを送りたいものだ。
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