天使の卵(村山由佳)

シンプルに読みやすい恋愛小説だからこそ、世界に入りやすい。複雑な家庭環境のもと早熟に育った歩太が、偶然出会った春妃との関わりを通じて、自己の輪郭をはっきりさせていく筋書き。趣味や思考が大人びているからこそ、大人との境界が曖昧であり、行動と責任感にズレが生じている様子が窺える。
一方で、春妃も年齢と精神にズレがある。夫を早くして亡くした彼女の心は、18歳で止まっていたのではないか。そんな大人びた19歳と時間が止まった27歳?の刹那的な蜜月が儚く、美しく感じられる。

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