見出し画像

彼女について語らせてください

私は彼女が好きだ。

彼女は、いつも静かに私の話を聞いてくれる。
聞くだけ聞いて、アドバイスはくれない。

「じゃあね」といったふうに、プイッといなくなってしまう。 

それでも、彼女は私にとっての癒しの存在なのだ。

彼女の子ども

彼女は昔、とてもモテた。
ふくよかな顔が魅力的だったのだろうか。
たくさんの男たちが、彼女を誘いにやってきていた。

ある日、ある男と彼女は恋に落ちた。
そして二つの命が誕生した。

愛情たっぷりに子どもを育てるさまは、見ていて幸せになる光景だった。

しかし、子どもたちと彼女は、離ればなれになった。

私は、そのときの彼女の目を忘れない

とても悲しげだった。
そして大きな声でなき続けた。
「どこに行ったの?私の子どもたち!」
ずっとずっとなき続けた。

悲痛な叫び声だった。


唯一の救いは、彼女の子どもたちが、新しい家で幸せに暮らしていることだ。

それからすぐに、彼女は子どもを産めない体になった。

どんなに男たちが言い寄ってきても、冷たい態度を取り続ける。

「また来たの?私は興味がないのよ」と、ソファーでくつろぐ。

彼女のためには、これで良かったのだろう。 

彼女と私の子ども

あれから数年経った。

私にも子どもが出来た。
あのとき、子どもと離ればなれになった彼女の気持ちを想像すると、とても辛い。

「辛い」では言い表せない感情だ。

私の子どもは彼女に懐いている

ずいぶん年は離れているけれど、友達だと思っているようだ。
彼女が、実際の年齢よりも若く見えるからだろう。

彼女が来ると、私の子どもは水を用意する。
「ありがとう」と子どもに顔を向けると、彼女は静かに水を飲む。

活発に動く子どもは、彼女の後ろを追いかけ続ける。

彼女にとっても、気分転換になると良いのだけれど、そうではないみたいだ。

彼女は感情的になるときがある

私の子どもが彼女に対して、あまりにもひどい態度をとるからだ。
歯をむき出しにして、ものすごい顔で怒る。

「やめなさい!」
感情的にしかってくれる。

彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

ゆっくり過ごしたいだろうに。


今日の彼女

今日も彼女は「散歩に行ってくるわ」と、プイッといなくなる。

若い頃と違い、すぐ戻ってくることが多くなった。
そして、一日のほとんどを寝て過ごす。

「私は眠いのよ。ご飯の時間になったら起きるわ」とソファーでくつろぐ。

いつも彼女はマイペースだ。
そんな彼女がいない生活を、私は考えられない。



私は彼女が好きだ。

いいなと思ったら応援しよう!