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一人ぼっちの君へ~虹ヶ咲2期9話感想~
夢を掴んだ2期9話、空港決戦回の感想です。今回は統一したテーマを掲げずに書いているので、シーンごとに解説。印象に残った部分を取り上げていきます。
1.衝突するミアとランジュ
Aパート、帰国しようとするランジュを引き留めるミアのエピソード。ここでは、ミアが「自分のために」ランジュに曲を書いていることが強調されます。焦がれて、しかし自分の手では届かないと知った夢。ランジュはその夢の代理人を務めてきました。
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しかし、ランジュはもう夢を追うことができないとミアに告げます。SIFまでのランジュの目標は、「完璧なステージを演出すること」であり、作曲家の個人的な野望を受け入れる余裕もありました。
しかし、同好会のメッセージを受け取ったランジュは、既に完璧なステージを演出するだけでは満足できなくなっていました。彼女の新たな目標は「自分らしく輝きを表現すること」であり、それは同好会でしか手に入れることが出来ないと、寂しく手を伸ばします。
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彼女の想いを知った時、ミアは猛烈に怒りました。それは一緒に夢を掴もうと誓ったランジュが自分を置いていくことに対する怒りだったのかもしれないし、大好きなスクールアイドルを諦めようとする姿に、自身を重ねてしまった苦痛からかもしれない。理由がどうあれ、ランジュを引き留めようと、ミアは精一杯に楽曲を作ります。
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ランジュのための完璧な楽曲。自身の最高傑作を作り上げたミアは、その曲をあっさり却下されてしまいます。ミアの作った曲を知る由はありませんが、無意識に「ランジュが歌う、自分のための歌」を作ったのでしょう。ランジュの目標とミアの作る楽曲は、徹底的にすれ違っていました。
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自身の死力を尽くしたうえで、突きつけられた破綻。ランジュに託した夢が既に叶わないものだと知って、ミアは激しく取り乱します。
2.璃奈の想いと伝える力~絶望を超えて~
行き場を失ったミアに手を伸ばしたのは、同じ孤独を知る天王寺璃奈でした。2期では多くを語らずとも、力強いメッセージを伝えられるようになった璃奈。ここでも、ミアに自分の想いを伝えようとします。
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一度は拒絶されつつ、”いつも”と同じハンバーガーに着地した二人。会話の中で、ミアは自身の持つ苦しみと孤独を明らかにしていきます。ミアは重圧と戦うことで多くの希望を失い、それでも夢に手を伸ばそうと足掻いていました。
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ミアの苦しみを聞いて差しだしたのは、いつか段ボール越しに支えてくれた手と同じ暖かさ。璃奈は「テイラー家の重圧に耐えきれないのなら、今、ここで私たちと夢を追おう」と提案します。夢が折れないよう、どんな願いも叶うよう、私たちの作ってきた居場所。それはミアに降りかかる呪いも超えていけると、璃奈は確信していました。
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璃奈にとって、苦しみの根源だった向上心。全てに絶望して何もしなければ、感じずに済んだかもしれない辛さ。彼女に降りかかっていた呪いは、既に何事も諦めない強さへと変わっていました。同好会で最も守られ、常に暖かい祝福を与えられている璃奈が、実は最も強い意志を持っているという矛盾。これこそが、同好会に多くの個性が宿っている原点なのでしょう。
3.東京国際空港-かけがえのない”一緒”を掴むために-
璃奈の想いを受け取って立ち上がったミアは、もう一度ランジュへ届ける歌を作ります。しかし、それはランジュの楽曲ではなく、自分が歌う、自分のための歌。同好会の協力を借りて、ミアは自身を解放する曲を作り上げました。
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そしてミアが楽曲に込めたのは、夢を諦めたと嘯く、かつての相棒に届けるためのメッセージ。以前までの「ランジュのため」とは全く違う、本心から彼女を引き留めたいと願う想いに、ランジュの心も融解していきます。
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ミアのステージを見て揺れる、ランジュの想い。2話でエマが気づいた違和感を引き出すように、ランジュ自身も混乱するような本音が吐露されていきます。他人との断絶、上手くやれない辛さ。そこにあるのは、2話の発言とは全く逆で、「自分がいると集団に(悪い)影響が出てしまう」という、残酷な真実でした。
あくまで独立した個人であろうとするランジュに、ミアは同好会の姿をしっかり見ろと促します。1話から続いてきた、ランジュの問いかけ。なぜソロアイドルが一つの集団になっているのか、別の夢を追いかける存在が同好会にいるのか。その問いかけを力にして、同好会は進化してきました。
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分かりあえないことで、周りに悪影響を与えてしまう自分。先が見えるからこその孤立。その考えに反して、同好会はランジュの問いをきっかけに前進してきました。孤高であり、正しいランジュの強さ。相手に寄り添うことの出来ない輝き。それは同好会を破綻させる材料ではなく、新たな創造の発露になると知って、ランジュも同好会に入ることを決意します。
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1話から続いてきた物語の終わり。それは同好会(共同体)の中ではなく、外側(ミア)から導かれる形になりました。自分の未熟さを受け入れてほしい栞子には皆で働きかけ、かけがえのない友を欲しているランジュにはミアという相棒がジョーカーになる。加入の経緯も含めて、個人に寄り添う収め方だったと思います。
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コラム:物語の主役を降りたランジュ-栞子との会話から読み解く-
これまで孤高の存在として描かれ、基本的には内面を見せなかったランジュ。9話では栞子との会話や空港での発言など、想いを表現するシーンが多くありました。
1期では侑が努め、2期ではランジュが主に担当した、物語を動かす役割。主役に選ばれたキャラクターも舞台を降りればたった一人の人間であり、自由に振る舞うことが許されるようになります。ランジュも栞子との会話の中に迷いを見せ、同好会のメンバーと同じ顔を覗かせました。
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しかし、栞子に謝罪された時のランジュは答えを告げず、目を伏せて足早に掛けていってしまいます。幼馴染だからこそ伝えられない感情や、自身のプライドに懸けて言えない言葉。揺れていい状況でも全てを打ち明けないことに、ランジュの”強さ”に対する尊重を感じるシーンでした。
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ランジュの強さは、自身が追い込まれていても他人を思いやれる優しさであり、自身の心象が悪くなるとしても、正しい発言を出来る厳しさなのだと思います。同好会に正義を問い、エゴに塗れたミアを突き放す厳かさ。苦しむミアに寄り添えず、栞子に助けを求められない弱さ。その弱さを持ったまま、自身のパフォーマンスを築き上げてしまう強さ。
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魅力たっぷりで、欠点だらけの鐘嵐珠。その正しさと脆さを、同好会でも保っていってほしいなと思います。周りを気遣って自分の意見を言えないのは、ランジュらしくないと思うし。彼女を受け入れた後の同好会も、ランジュの厳しさや身勝手さに寄り添っていてほしいですね。
4.そして物語は続く
全てが終わりほっとしたところで迎える果林さんの目覚ましドッキリ!…ではなく、突然ランジュに起こされて呆然とする朝香果林。「あんた隙ありすぎだろ…」というのは置いといて、エマの前ではこれだけ甘えた姿を見せられているのでしょうね。その姿を一切気にしないランジュも含めて、救いに溢れていて好きなシーン。ランジュは他人の弱さを追求しても、他人の弱さを嗤う人ではないのだと感じます。
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ランジュを巡るエピソードが終わろうと、物語は続いていく。その幕開けに日常シーンを使うのは、新たなる始まりを告げる場面に相応しいと思いました。これから続いていくランジュの物語に幸あれと願いつつ、12人になった同好会の新たな可能性、そして想像を超えるトキメキに胸を躍らせて、今週の放送を待とうと思います。
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引用:©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会