【メイキング】フォールンエデン Fallen Edenができるまでの裏話てきな
こんにちは。物書きを諦めてモデラーになったじぷし(@gypshi)と申します。物書きを諦めたらこういった場でまた文章を書く機会に恵まれたので、人生どうなるかワカランものです。
Vket2023Winterにて制作したワールド「フォールンエデン Fallen Eden」についてまとめ記事をしたためていきたいと思います。
ワールド作りの段階
株式会社HIKKYでは半年に1度のイベント「Virtual Market」を主催していて、だいたい差分ワールドなしで考えると10-15の展示ワールドを作成しています。QuestやCloudを含めるともっと。Vket3から4にかけて一気に制作数が拡大していて、Vket2023WinterはVketとしては11回目のイベントです。(ComicVketなどの派生Vketは除く)。
半年に1度のイベントならば制作に全部で6カ月間かけている、というワケではなく、間に派生Vketを挟んだり別案件を挟んだり、それぞれの人員に並行タスクがあって、なかなかVket本体だけに専念するというわけにはいきません。
私が経験したもので、最短3カ月で要件定義、3Dモデリングまでこなしたものもあります。前々回の「CosmoTravel Elevator」がそれでした。
CosmoTravel Elevatorは私がワールドクリエイターとしてアサインされる前に、企画やラフモデル作成、美術設定などが十分練られていたため、私はそれをどのように引き算するか、という考えで臨むことができました。
しかし参加している時点で、どの程度完成度の高い企画であるのかは、未だワールドによってまちまちです。人間の得手不得手、想像力、現在持っているタスク状況、それらが複雑に折り重なって、こまけえことは良いから走り出す。完璧を目指すよりまず終わらせろ。みたいなスピード感あるスタートを切ることもままあります(^ω^ )…(誤解を招いたら申し訳ない。決してテキトーにやってるわけじゃないよ!)
コンセプトアートから作られる世界
ワールドの方向性を決め、イメージの共有を図る一枚。ピッチコンセプトアートとも呼ばれます。このアートを固めるにも実は何度もやりとりや試行錯誤があるのですが、それらを経て沿革情報も固まっていきます。
設定はこう──
完全自立型統制AI――“Sins”によって運用される独立型コロニー“エデン”がその舞台となる。このコロニー“エデン”は、人類の幸福を追求するプロジェクトの産物の一つであり、有機物から無機物までを自在に、望むまま“生成”可能である高性能巨大3Dプリンター“セフィロト”によって、エデンに住まう住民たちは、自分の望むままの“モノ”を生成し、それを享受することが可能である。
ゆえに、人々の間には争いは生まれず、ゆえに、人々は全ての不幸から解放され、すべからく幸福に生きることが可能である――ハズだった……。
そこに住まう人々は本当に幸せなのだろうか?
労することなくすべてを手に入れ、全てを貪り、ただ与えられるものを享受し続けるその生活は、果たして人類にとって幸福なのだろうか……?
企画書にこう書いてあるのでフムフムなるほど、と読み進めていきます。で、何やるんだ?と思いながら読み進めていきます…
設定が……設定が多い……!!
毎回の事ながら難解な設定や観念的な用語が飛び交っていて会議中に「すみません。よく理解できません」「ごめんなさい。どういう意味ですか?」「何にも分かりません」みたいな出来の悪いSiriみたいな反応することが板についてきました。板についてどうする。
要はワールドの骨子はこのようなものです。
ブースを呼び出す系の新ワールドとして、巨大構造物である3Dプリンターが高速で動き、3Dプリントされるような演出でブースが生成される体験を提供する。
コンソールで3Dプリントするエリアを選ぶ。
「大きいブースを快適に見て回る」に振り切りたい
ほか全てのビジュアル含める要件は、それらを固める要素のひとつなわけです。そしてどんな体験をするかはビジュアルだけでは決まらないのでまた更に練る段階に入ります。
企画者である林さん(@keita_hayashi)がここまで煮詰めてくれたので、あとは個々のパーツをブラッシュアップするだけで済みました。超絶感謝!
グレーモデル作成
ここまで揃っているとグレーモデルは作りやすいです。呼び名は色々あるのですがHIKKYでは初期段階の3Dモデルのレイアウトやラフなモデリングで配置、見え方などを共有する工程をグレーモデルと呼んでいます(他社ではホワイトボックスとかモックとかドラフトとか微妙に意味が違う似た工程を指す言葉です)。
作っていくうちに導線の長さや情報密度の足りなさなんかが見えてくるので、ここもっとあったほうがいいよね。とかの意見が出やすくなります。
アート発注
導線が決まれば美術設定を発注していきます。HIKKYのやり方ではよくつまずくポイントに、アートが先ではなくモデルが先があり、アートに合わせたモデル作成ではなく、先にモデルを作ってそこに詳細なアートをはめ込んでブラッシュアップするというやり方です。
なのでグレーモデルは1日1ワールド分、みたいなスピード感で進みます。それを複数パターン作って試行錯誤していくわけですね。最初からこれが最適!みたいな形を作りこむと、後からリテイクで痛い目を見ます。
普通のゲーム開発ではアートやらレイアウトは全部決まった段階でモデラーに落ちてくるので、けっこうここは生みの苦しみがあります。もちろんこれが正解のやり方ってわけでもなく、まだまだ試行錯誤ですね。
ラフモデルがある程度できてきて、ここもうちょいディティール欲しいね。みたいなところをアート発注していきます。ワールドでもっともインパクトを与えるような構図みたいなのを考えて詰めていくフェイズです。
一番悩んだのが、3Dプリンタをプレイヤーが目の当たりにする、見晴らしエリアの構造でしたね。
アートディレクションはCosmoTravelの時と同じ時代ミツルさん(@M_Tokishiro)が担ってくれました。美術設定でグランディアとか千年勇者とかスマブラXに関わっていた方です。
デフォルトキューブ系のワールドって白空間にブースだけ立っているような、かなり簡た、もといユーザーがブースのみに集中できる脚色の無いプレーンな空間という印象だったのですが、過去の経験からそんなんで済むわけがないという予感がありました。
まあでも出来ないことはないよね。形あるものは作れるんだから。ところでこの壁の迷路みたいなのはどう作るんだろうか?
スカイボックス作りから
ワールドの印象を決めるのはなんだ?聞くと「そりゃスカイボックスさ」「スカイボックスだね」「スカイボックスに決まってる」道行く格闘家が教えてくれます。体験とかじゃなくて純粋な見た目の話で、ワールドにおける「空」ってかなりの面積を占めているじゃないですか。
普段、地面や空のことは意識しないけど、無いと強烈な違和感をもたらす基盤になっているんです。
で、迷路状に入り組んだ空ってどうやって作るんだ?そういうアセット売ってたっけ?
探せば探すほど無いことがわかったので、自分で作ることに。
スカイボックスを作ってくれるAIサービスもあるっちゃあるのですが、ピンポイントで作るのはなかなか難しかったりします。なので実際に3Dモデリングしてテクスチャも貼ってレンダリングします。
個々のディティールを煮詰める
ワールドに使う個々のプロップや建物をラフモデルにペイントオーバーしたり新たにデザインをおこしてもらったりで煮詰めていきます。
実はかなり悩んでいたこと
今回のVket2023Winterから「アイテムブース」という概念が登場しました。1ワールドにつき12個の枠があって、ブース無しで1x1x2mの空間にコンテンツのみを置けるというものです。
それがフォールンエデンは40個置くべし、という指令があったのです。
今までにない試みで、なかなか急遽落ちてきた感があってワールドに馴染ませる工夫にけっこう、いやかなり?紆余曲折あって苦労しました。40個ってそれ展示会場1ワールド分じゃて。
どんな感じに導線を組むとか見た目をどうするかというのは、ほとんど私一人で決めました。というかAIに決めてもらいました。
アイテムブース目的の応募って最初の試みのためか応募者が少なくて、しかし通常のブース入稿は落選率もかなり高い、というアンバランスな状態があり、アイテムブースで落選者の繰り上げ当選を行うのはどうか?と私が提案したら実際やる流れになりました。
Web入稿のシステムに組み込まれていない急遽対応だったので、落選者全員にメールでお知らせする。という人力で歯車を回す対応をUC部門がやってくれました。育良さんありがとうございます!
ブラッシュアップ
アートディレクションに時代ミツルさんが入っていると言いましたが彼はクオリティの鬼で、出来上がってきたものにめちゃめちゃフィードバックがあります。プロップからスカイボックスに至るまで、見た目にまつわるものすべて、演出支持も修正もかなりの範囲で詳細に返ってきます。
分かりやすくて嬉しい反面、体力が…体力がおいつかねえ!
何か新しいことはやった?
毎回新しいテーマやらアプローチやらを求められているVketですが、個人として新しいことはほとんどしていません。強いてあげればモデリングで初めてPlasticity(ぷらすてぃっしてぃ)を使ったことくらいです。あとは一部の隠されたプロップにMeshyのAIテクスチャリングをしてもらったくらいかな。
チームで完成させる
アートや3Dの話ばかりしてきましたが、音楽やSE、パーティクルやアニメーションなどの演出、ワールドの根幹となるギミック設定、UIデザイン、重たいデータにならないようなエンジニアリング領域での工夫など、各部門が密接に結びついていて人一人で完了させられることが無いです。
個々の完成度はフォーカスして上げられるけど、全体を見下ろした場合にどう見えるのか、分かる人っていうのは少ない。人と人を繋げてまとめ上げて物作りってすんごい大変。
フォールンエデンは作る点数自体は少なかったけど、作り込みにかなり時間を割いた印象です。シンプルなワールドだった。しかし作業工程はぜんぜんシンプルじゃなくて結構大変だった!完成したときそんな感想が出てきましたね。
終わりに
今回のワールドは、なんでも好きなことができて、好きなものを生み出せる楽園から最終的には追放されるといったシナリオです。
それって一見に自由に見えて、実は何もかもが管理されていて不自由ってことなんだと思います。
それを受け入れて過ごしていくか、本当の自由を手に入れるために原罪を背負って放逐されるのか…私はどっちもなんかヤダ!って派です。
次回はまた新しいことをやりたい!
次回Vketでもワールドクリエイターができるかは分かりませんが、面白いものを作れればって思います。
それではまた!
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