Vketでハイロシティはいかに作られたか
この記事を書いていたのは2023年夏ごろなんですがあまりにも記事としての出来が悪かったので気持ちを熟成させるために半年間寝かしてました。なので全然タイムリーじゃないですけどお付き合い頂けたらと思います。
仕事が始まるまで
2023年2月中旬、ComicVket3のまとめ作業がようやく片付いてきたところ、手が空くタイミングでさっそく夏Vketのワールド制作のお鉢が回ってきました。企画書にはだいたいこんなことが書いてあります。
ユーザー参加型アトラクションでワクワク感
建物と建物を間をジャンプしてブースを見る(導線が自由!)
途中途中で出てくる悪者を倒せる!
車が突っ込んでくる!爆発する!デカい何かか襲ってくる!
裏路地に行けたり派手なグラフィティがあったり
なんかまた盛り盛りなやつ来たな…
実は企画の時点で出来るかどうか、みたいなことは策定されてなくて、どれを実現できるかをワールドクリエイターが選んで、みたいな建付けで降りてきたので、企画をもっと具体案として煮詰める作業がここで一回発生しました。
そこでアイディアを募集というか、ユーザー体験を具体的に決めるためにうちのストーリーライターの林さんや漫画家の窓口基(@MADOguchimoto)さんに監修に入ってもらいました。窓さんに書いてもらったラフ絵の資料がこちら。
わ、わかりやすい…
つまりはこういうことか。
正義と悪、裏と表、それぞれの思惑が交錯する街『ハイロシティ』。
決して交わることのない境界線、対立する両者は争い合い、 どちらかが倒れるまで終わらない平行線。
人々で賑わうミッドタウンでは、罪なき人を恐怖の底に落とすべく暴れ回るヴィランとそれを阻止せんとするヒーローとの戦いが繰り広げられていた。
Vket初――ユーザー参加型アトラクションワールド!
決戦の火蓋が今切られる――!
結末は、あなたの手に委ねられた!!
なにやるのって聞かれて、じゃあこれでと私が提出した文章がこれになりました。ユーザー参加型のアトラクション、要はヒーローショーをやれば良いのではないかと。
ヒーロー?ヴィラン?
ヒーローショーといったら子供たちがヒーローを応援して、ピンチにはなるけど最終的には悪役を倒すというシナリオです。
しかし今回はヴィランになりたいという人の希望も生かすことになりました。ヒーローとヴィランで分かれたワールドとして、ヒーロー視点、ヴィラン視点という違いで差分ワールドを作ることになったのです。
ワールド要件
ユーザーは傍観者ではなく主役である。
ヒーロー、ヴィランどちらのワールドも、ユーザーが自分のなりたい姿になれるというストーリー分岐。
そのためのシナリオおこし。
ユーザーのなりたい姿、やりたい役によってストーリーが変化する、ユーザーが参加できるイベントワールドを作らなくちゃいけない…しかもヒーローとヴィランそれぞれに分岐するシナリオのあるワールド──
かなり無茶じゃない?
2月中旬から始めたせいでVket夏の始まるまでおよそ5カ月。シナリオを先に作らなければアニメーションもSEもエフェクトも発注できない。アクションシーンを作るために、絵コンテも作らなくちゃいけない。誰がするんだ?
俺がするんだ。
シナリオを書いて、それを仕様書とする
人生でシナリオを書いたことなんて…十年ぐらいしかない(小説家志望の小僧だった)からキャラを設定に合わせてちょっと喋らすくらいはできたのだけど、それを主務とするような仕事は当然やってきてないわけですわ。仕様書の書き方すら知らない。
アドバイザーの窓さんや林さんが設定をぶっ込んでくれるので発注自体はモリモリ進みます。アクションに心得のあるチルルさん(@Chirurium)がどんなアニメーション依頼にも応えてくれるので心強かった…!八ツ橋マロンさんも(@Maron_Vtuber)一房ボーン50本ある触手のアニメーションを一緒に考えてくれて本当にありがとう!
とにかく初めてのことが多くて何度も行き詰まったりしましたが、周りの人のサポートで完成まで漕ぎつけた感じです。
モブとプレイヤーが会話する
ユーザー参加型の体験ってほとんどゲームじゃないかと思いながら作ってましたね。メッセージ送りやレイキャストを使っての選択、デスクトップとVRでなるべく差異のない体験にするための見やすさ、プレイヤーへの追従などの仕様も決めていきます。
ギミックを作ってくれたのはバトルディスクやペコペコバトルなどのワールド製作でも有名なキャンディちゃん(@candy_f_milk)
会話ギミックはウィンドウこそ事前に開発してもらえたものの、シーンへの実装はテンプレなど無く、ひとつひとつ手で実装するという大変膨大な作業をこなしてくれました。本当に感謝しかない。無茶なこと依頼してホントすみません!
ヒーローとヴィランはどこから来たの?
会話ギミックがあるからには会話する相手がいる。ハイロシティで暴れるヒーローとヴィランがいる。その人たちはどこから来たのか?
普段VRChatを楽しんでいるユーザーから公募しました。
ヴィランもヒーローも普段そのままの姿でVRChatにいるプレイヤーです(もちろん作ってもらった人もいるけど)。そういった意味でもハイロシティはユーザー参加型のワールドでした。
公募アバターの中から誰を採用するかとか、どう軽量なデータとして整理するかの作業も、ワールドクリエイターの仕事だったので、まじで手段を選ばずに色々な人の手を借りました。
※12/11追記
途中で「ヒーローが多い!ヴィランが足りない!」というキャスティング都合での問題が発覚し、応募期間を延長したりもしました。わりとピンチだったので、あらかじめこういう事態があるかもと思いテルキさん(@terukidou)に相談していたら、爆速でキャラをモデリングしていただけてめちゃくちゃ助かりました。ありがとうテルキさん!
モデリング作業 ※12/11追記
忘れているかもしれませんが私は3Dモデラーです。
ワールドに関わるすべてのアセットを管理しないといけない手前、色んな方面に手を出していましたが、メインはワールドの3Dのビジュアルを作ることがお仕事です。
企画を練って仕様書を書いてあちこちに発注したら当然メインのワールドモデリングが待っています。
当然と言っては何ですが、最初から手が回らないことは分かっていたので、ワールドの大半を占めるビル群、建物はほとんどサブモデラーであるイシハナさん(@ishihana035)に作っていただけました。イシハナさんはすごいです。こちらの要望にガンガン応えてくれて「こういう手法でクオリティアップを図るのはどうか?」という提案も、すぐさま反映していただけて、ばかな!制作期間中にどんどん腕が上がっていくだと!という感覚がありました。
地面を作るだけ、地形を作るだけ、といっても考慮しないといけないことが案外あって大変なんですよね。この地形意味ある?みたいなのが無数に出てきます。無駄のない都市開発ってむずいんだ。大地があり人が集まり、めいめい勝手に家を作って行き交う足跡が道となった、みたいな。一見ヘンテコな地形でも歴史やそうなった理由というものがあって、安易に「ニューヨークのこんな風景を再現!」をしようとすると、けっこう簡単に破綻するというか、許せない部分が出てくる。まあ地道にやるしかないです。
そうして出来上がった
色々はしょりますが、とにかく出来上がった。
出来上がったら出来上がったで虚無感が押し寄せてきます。
やることやったら「なんで作ってたんだろ」みたいな賢者モードになるタイプなので、創作にヤッターー!みたいな達成感はないです。
じわじわ、日々じわじわと「もしかしてやり遂げた?」みたいな感覚が浮き上がってきます。
自分が特別なことやったぜ!みたいな感覚は思い出の中にしかなくて、普段は日々押し寄せてくるタスクの波をせっせと泳ぐことしかできない。
ここで作ったワールドも、そういったライフワークのひとつです。
思い出になりかけていたので、やっと文章にまとめられました。
技術的に面倒で時間のかかることばかりしていたので、めちゃめちゃ反省点があります。
というわけで次回はもっとシンプルなワールドがやりたいもんですってことでフォールンエデン編に続きます。もうストーリー付きはこりごりだよ。トホホ…(アイリスアウト)
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