〈小説〉スカートとズボンの話 #13
「我々日本人はなんだかんだ言っても、お上には黙って従うじゃない。でも革命の国おフランスで育ったレオには、それが信じられなかったみたい」
PUFFYの亜美ちゃんみたいな耀子さんが、淡々と「お上」「おフランス」なんて言うのがおかしくて、わたしは現実の話を聞いている気がしなかった。
でもたしかに、現実の話らしかった。
レオさんは、どうして皆黙って従うんだ、日本人は狂ってる、と憤り、「署名を集めたり、デモの計画を立てたり」自分なりに活動を始めた。次第に仲間が増えてきた。
「でも、この仲間が曲者だったんだよねえ」
最初はわからなかったが、仲間の一部は、とある犯罪グループとつながった組織の者だった。手を切ろうとしたが、彼らはレオさんの周囲をうろうろするようになった。
ついに、レオさんはフランスへの帰国を決めた。
娘がいたんだよね、と耀子さんはふいに言い、わたしは驚いた。
一緒に暮らし始めまもなく、2人は赤ちゃんを授かっていた。生まれたのは女の子で、アリスと名づけられた。
「レオは、こんな国にアリスをおいて行けない、フランスで3人で一緒に暮らそう、って。でも、あたしはここに残るって言った。離れたいなんて思ったことないもん。日本を、というか東京を」
子どもはお母さんが育てるもの、というイメージがあったわたしは、少し驚いた。どう伝えていいかわからなくて、寂しくなかったですか、と耀子さんに聞いた。
「寂しかったけど、アリスもむこうで暮らしたほうが幸せかなって思ったの。だって養育能力ないんだもん、あたしには」
運動神経ないんだもん、とでもいうような軽い調子で、耀子さんは言った。
「レオとの間もぎくしゃくしてきて、それでアリスのお世話もお店もあって。あたしも疲れてたの。全部もういい、ってなっちゃったんだよね。あたしには母親もきょうだいもいなくて、頼れる人がいない。仕事やりながら1人でアリスを育てるなんて、できっこない。あっちに帰ればレオのママとかきょうだいとか、支えてくれる人がたくさんいるもの。アリスのためにもその方が絶対いい、って」
つづく