ショートショート「風の色」(500字) #シロクマ文芸部
「風の色は、何色?」
見渡す限り田んぼが広がる帰り道、父はよくわたしにきいた。
花のきれいな春の風だから、さくら色。
よく晴れた夏の風だから、青色。
そんなありきたりの答えは、父は気に入らないみたいだった。
「風はもっと、さまざまな色をしているよ。ありきたりの答えじゃなく、自分で考えてごらん」
わたしは、いつも一生けんめい考えた。
春だけど、刺すようにつめたい風だから、針の銀色。
燃えるようにあつい真夏の風は、炎のオレンジ。
あのときはたしか、9月だった。
「風の色は、何色?」
父にきかれ、わたしはすぐに「金色」と答えた。
「本当かな。もう一度考えてみなさい」
父は、気に入らないみたいだった。
でも、どうしたって金色だった。
昨日までのしめった空気はからりと冴え、
たっぷりと実った稲穂はきらきらと輝いて、
刈り取られた田んぼを、3羽の白サギがゆっくりと歩く。
吹きぬける風は、きらきらした金色にしか、わたしには見えなかった。
わたしは泣きだした。
父は困った顔をした。
「泣いていないで、ちゃんと話しなさい」
そんなこと、無理だった。
父には、何色に見えたんだろう。
あのとき、きけたらよかった。
きらきらした稲穂を吹きぬける、秋の風の色。
〈了〉
小牧幸助さま「シロクマ文芸部」企画に参加します。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?