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〈小説〉スカートとズボンの話 #10
教室は「プラダさん達」を中心に、冷ややかでシラッとした雰囲気になった。ものともせず、サトウさんはつづけた。
「私は当時この法律に、女性はすべからく単筒を選択し、女性らしく振る舞うべし、という、非常に恣意的なものを感じました! そして反発の意思表示として、複筒を選択しました!」
身振り手振りと抑揚をまじえ朗々と語り、最後に、抑えた芝居がかったトーンで付け足した。
「皆さんはいかがでしょうか? ……単筒、複筒。それぞれのお立場から、忌憚のないご意見をお聞かせください」
サトウさんシンパから、拍手が起こった。
シンパの1人が挙手をして、発言をし始めた。
「ええっと、私もサトウさんと全く同じ動機で、複筒を選択しました。私も単筒を選択するべきだという、ええっと、見えない圧力を感じたのです。若干補足して言うなら、ええっと、ジェ、ジェンダーロールの強要です。女性は単筒を選択し、女性らしくふるまい、男性に付属する存在であれという、ええっと、圧力です」
早口で「ええっと」を連発するので、聞きづらい。そして彼女は、最後にこう付け足した。
「単筒を選択した方々は、どのような動機で選択されたか、ええっと、お聞かせ願いたいです!」
これで、教室はざわついた。クラスの学生の半分以上は単筒なのだ。
すると1人が、弱々しく挙手した。おとなしそうな子だ。
「私は、両親の勧めで単筒を選択しました」
声が震えている。
「両親には、将来配偶者を見つけ家庭を築くには、この選択がベストなんだということを言い聞かせられました。お2人が今言ったような、女性らしくふるまうとか、男性に付属するという意味があったと思います。でも中学生の当時はそこまで思いがいたらず、両親の意向に従うしかありませんでした……」
そこまで言って、その子は泣き出してしまった。見ると、同じようにすすり泣いている子が何人かいる。
なんなんだ、これは。
わたしは呆然として、どうか発言を求められませんように、と願った。お気に入りのジーンズを穿きたくて複筒にしました、などと言ったら、どんなつるし上げを食らうかわからない。
つづく