〈小説〉スカートとズボンの話 #21
でも今のわたしは彼女に、あまり共感できなかった。言っていることが間違っているわけではない。わたしがこの法律に、すっかり興味を失っているのだ。
この10年の間、世の中の景気は悪化するばかりだった。有名な銀行や証券会社が次々潰れた。治安も悪くなり、今まで聞いたことがないようなテロや凶悪事件も起こった。そんな世の中で、女性下衣選択法は「たかが女性の服の話」扱いされるようになっていた。
自分が自由に服を選べないとかそんなことより、mer bleueがこれからも人気を維持するにはどんな服を売り出していったらいいのか、そして、過酷な職場で疲れきった彼氏が、どうしたら元気になるのか。わたしにとって、そちらの方がよほど重要だった。
ヨシカワが目を覚まし、気だるそうに身を起こした。画面を眺め、興味がなさそうにリモコンを手にとり、チャンネルを替えた。
「あ、ごめん。観てた?」
「ううん全然。ボーッとしてた」
替えた番組は、旅番組の再放送だった。沖縄の海が映っている。宮古島だ、とヨシカワは言った。学生時代、夏休みの度にアルバイトで訪れていたことを、ヨシカワはこれまで何度も話してくれた。
行きたいなあ、沖縄。行くかあ。ヨシカワはつぶやいた。
「華も、行く?」
ポツンと出てきたヨシカワの言葉に、わたしは、行きたい行きたい、と食いつくように答えた。
「行こうよ、今度の夏休み絶対行こ。宮古島も本島も。宮古島でダイビングしたいな。海行ってシュノーケルして、沖縄料理たくさん食べて、泡盛も飲んで。ね?」
ヨシカワは、はしゃぐわたしをボーッと眺め、うん、と短く返事をした。せっかく誘われてうれしかったのに、わたしは梯子を外されたみたいにポカンとするしかなかった。
新宿の駅ビルで催事があり、mer bleueが出店することになった。わたしは1人で出張し、催事にあたることになった。
新宿には、ヨシカワのオフィスがある。帰りに待ち合わせて一緒にご飯でも食べよう、とわたしはメールを送った。ヨシカワは、何時に終わるかわからないけど、時間が合えば、と返事をした。
つづく