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短編小説 #はじめて切なさを覚えた日(1875字)#青ブラ文学部

悠加ゆうかは今日、男子バレー部の試合の応援に行く。
高校バレー部3年の悠加は、部活を引退したばかりだ。

一緒に行くのは同じバレー部の、実咲みさき芽衣めい。実咲は悠加と同じプレーヤーで、芽衣はマネージャーだ。

「芽衣だって何も言わないけど、絶対行きたいと思うの」
試合に行く相談をしていた時、実咲はそんなことを言った。

芽衣が男子バレー部の洸平こうへいとつきあっていると聞いたのは、つい最近のことだ。実咲は2人で一緒にいる所を見たという。あれは間違いないよ、と。

悠加は、洸平が好きだった。
芽衣と洸平のことを聞いてショックだったが、芽衣が何も言わないので、全く実感がわかないのだった。


悠加と洸平は、1年生の頃同じクラスだった。バレー部同士、すぐに会話を交わす仲になった。

洸平は中学時代ハンドボール部で、バレーは未経験だった。スパイクのフォームも独特だ。

一方悠加は、小学生の頃からバレーのチームに入っており、基本が身についていた。洸平は、いつも悠加のスパイクをほめた。
「本当にきれいなフォームだよな。よく見るお手本動画とほとんど変わらない」
ずっとバレーばかりやってるんだもの、と謙遜する悠加に洸平は、憧れているんだよ、と真顔で言うのだった。

「憧れているんだよ」という言葉が、単に自分のバレーのフォームに向けられていることはわかっているのに、その言葉に胸が高鳴った。

スパイクやサーブの相談をしながら洸平は、力強く腕を振り手のひらを開いて、目の前にないボールを打つ仕草を見せる。
引き締まった筋肉質の腕は日焼けしており、ずっと屋内の部活だった悠加には新鮮だった。
「ずいぶん日に焼けているんだね」
照れ隠しに言うと洸平は笑った。
「ハンド部は外だったから、年中日焼けだよ。バスケやバレーのやつらが体育館を使うから」
ごつごつと逞しいその腕に悠加は思わず目を奪われ、すぐに恥ずかしくなってうつむくのだった。


2年ではクラスが分かれ、話す機会が減った。
練習ではいつも顔を合わせるが、たまに冗談を言い合う程度の関係になってしまった。

洸平は、レギュラーに昇格した。
彼の独特なフォームは結局、ほとんど修正されなかった。

男子部のコーチは洸平の運動神経と独特のタイミングを生かし、速攻など意外性のある攻撃に多用した。
バリエーション豊かな攻撃のかかせない要素として、洸平は活躍し始めた。
基本に忠実な悠加のアドバイスは、もう必要ないに違いなかった。


芽衣は、女子バレー部のマネージャーとして入部した。
運動部未経験の、小柄で華奢な少女だったが、すぐに皆の信頼を獲得した。毎日誰より早く部活に来てネット張りを手伝い、ルールやスコアつけを覚えた。

学年が上がっても、後輩と共に雑用をこなした。
ケガをしている部員のテーピングも、上手だった。悠加も故障したとき、芽衣のテーピングに何度も助けられた。

何よりいつも、優しい笑顔で皆を癒してくれた。
悠加が部活で体育館に行くと、芽衣が毎日笑顔で、後輩と出迎えてくれた。ゆうかー!と歌うような声で呼びかけ、ひらひらと手を振る芽衣を見つけると、いつも幸せな気持ちになるのだった。

その芽衣が、洸平とつきあっているという。
秘かにずっと洸平を思っていた悠加には、つらい話だった。でも大好きな芽衣ならいい、という思いもあった。



試合の相手は、優勝候補だ。
劣勢のまま試合は進み、セットカウント0-2で第3セットを迎えた。
実咲は「まだまだいける」と言い、悠加と芽衣もうなずいた。

しかし相手リードのまま、マッチポイントを迎えた。
サーブレシーブが若干それ、セッターは苦しい体勢で洸平にトスをした。洸平のあまり得意としない、山なりのオープントスだった。
洸平のスパイクは相手のブロックにつかまり、こちらのコートに落ちた。

勝負が決し、メンバーはうつむいて肩をたたき合った。悠加の目に涙があふれた。実咲は手で顔をおおい、芽衣はタオルを顔に押しつけしゃくりあげた。


終了後悠加たちは、入口でメンバーが出てくるのを待った。
まもなく彼らは姿を見せた。すると洸平だけが、早足で悠加たちの方に歩み寄るのだ。

悠加たちではない。芽衣のもとにだった。
洸平の腕は待ちきれないように夢中で、芽衣の小さな肩を抱き寄せた。
芽衣は洸平の胸に顔をつけ、ただ泣きじゃくった。

悠加は実咲に腕をひっぱられ、後ずさりした。


わかっていたことだ。2人がつきあっていたのは。
でも目の当たりにすると、こんなに心が痛いのか。

悠加の好きだった洸平の腕が、芽衣の肩を抱いている。
それが、こんなに切ないのだ。

今まで味わったことのない感情に悠加は、息をすることも忘れ立ちつくした。

〈了〉


山根あきら様「青ブラ文学部」企画
「はじめて切なさを覚えた日」

初めて参加させていただきます。
(締め切りギリギリになってしまいました🙇‍♀️)
企画ありがとうございます!


#はじめて切なさを覚えた日
#青ブラ文学部
#青春小説
#バレーボール


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