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〈小説〉スカートとズボンの話 #6
あいつ最悪、と言いながらサヤカも笑っている。ヨシカワはそういうやつ、という感じで皆に許されているのだ。
「学校にはTシャツ着てくるよ。ヨシカワにまた言われたくないもん。でも渋谷に着いたら駅でTシャツを脱ぐの」
渋谷ならいいよね、とサヤカは言った。たしかにミニスカートと厚底靴のギャルが闊歩する渋谷なら、上品すぎるくらいだ。
それなら、わたしも駅で着替えようかな。厚底ギャルたちの迫力にも、負けないような服がいい。
「そのジーンズ、新しいやつ?」
その日の放課後、ヒロヤが声をかけてきた。彼も同じクラスで、最近よく話す。
「ノーウォッシュじゃん。いつもかなり『育った』やつ穿いてるのに」
男子の間では「ジーンズを育てる」ことが流行っている。同じジーンズを長く穿きつづけ、やがて自然なシワや色落ちができることを楽しむのだ。華はこういう話が通じるからいい、とヒロヤにも他の男子にもよく言われる。
まっさらなインディゴのやつがほしかったの、とわたしは言った。
「俺も、まっさらなやつ1本買おうかな。ちゃんと洗濯してよ、なんていつも言われるんだ」
洗濯してよ、という台詞の主はヒロヤの彼女だろう。隣のクラスの子で、いつも可愛らしいスカートやワンピースを着ている。お嬢さまタイプだ。
「華、あとさ、放送室に持って行くCDどれがいいかな」
ヒロヤは今度は、CDを何枚か取り出した。わたしの高校では、持ち込んだCDを昼休みや放課後にかけてもらえる。
「最近邦楽ばっかじゃん。小室ファミリー、もう飽きた」
ヒロヤは、持ってきたCDを目の前に広げた。全て洋楽で、ほとんどが放送委員の女子には受けが悪そうだ。
これがいいんじゃない?ノリいいし意外と聴きやすいし、とわたしはレニー・クラヴィッツのアルバムを指した。あと、これかこれを一緒に持って行ってよ、とわたしは自分のCDを取り出した。マライア・キャリーとジャミロクワイ。ヒロヤは、ジャミロクワイを選んだ。
「あいつ、洋楽に全然興味なくてさ。華は話がわかるからいいな」
わたしは、ヒロヤが気になっていた。話が合うし、見た目もタイプだ。話がわかる、なんてほめられるとうれしくなってしまう。我ながら、単純だ。隣のクラスの彼女とは全然ちがうタイプだけど、ヒロヤも本当はわたしの方がいい、なんて思っているのかもしれない。
つづく