〈小説〉スカートとズボンの話 #7
教室を出てから、渡さなかった方のマライアのCDを忘れたことに気づき、わたしは教室に戻った。すると、男子が5,6人集まって騒いでいた。なんだか楽しそうで立ち入れない雰囲気を感じ、わたしは入口ドアの陰に隠れた。
「ヒロヤさぁ、華とつきあうの?」
ヒロヤがいるんだ。しかもわたしの話だ。ドキッとした。聞いたのは、ヨシカワ。
いや、なんで?とヒロヤが答える。俺もつきあうのかと思った、最近仲いいじゃん、と他の誰かが言った。ヒロヤの返事はよく聞こえない。
「華さぁ、あのケツたまんねぇんだけど」
ふいにヨシカワが言う。男子たちはどっと笑った。わたしは顔がかぁっと熱くなった。ヨシカワは続ける。
「よくリーバイスはいてくるじゃん。あれがもうたまんないの」
「複筒だと目が行くよな」
誰かが言う。そう、複筒ならではなんだよ、ヨシカワは食いつくように言った。
「単筒であのラインは出ねぇじゃん。渋谷の汚いギャルとかのミニスカだったらあるかもしれないけど……そういうんじゃねぇんだよな。あいつ、ケツも胸も決して大きくはないよ、でもあの腰からのラインが」
お前ちょっと落ち着けよ、これでも飲め、とさえぎったのはヒロヤの声だった。
飲み物をすすめられて、ヨシカワはごくごくと何かを飲んでいる。自分がこんな風に言われていることが信じられなくて、わたしはしびれたようにぼうっとなった。
じゃあヨシカワ、華に行ってみればいいじゃん、と誰かに言われ、ヨシカワは何かモゴモゴ言っている。ヨシカワはきっと、そんなんじゃない。わたしにだってわかる。
ヒロヤはどうなんだよ、と聞く声があって、返事はない。わたしは秘かに息を止める。
つづく