〈小説〉スカートとズボンの話 #16
2002年 華24歳
「ヒロヤも、結婚するらしいよ」
「へえ。あの彼女と? 隣のクラスだった」
「そうみたいよ。らしいよな」
「らしいねー。なんだかんだ言って、王道外さないタイプ」
そうそう、わかる。王道を外さない。
少しだけチクッとする思い出を胸に、わたしは横でうんうんと頷いた。
わたしは、高校3年のクラスの友達と飲んでいた。サヤカが結婚することになり、その報告会だ。サヤカは、短大時代からつきあっていた彼氏とゴールインすることになったのだ。
「結婚する人増えてきたね。サヤカもかあ」
「いいなあ。わたしも早くしたいよー」
結婚。わたしは、あまり興味がわかなかった。
わたしには、誰かと人生や選択を共にしていくということが、どうにもピンとこないのだ。
親や目上の大人たちがあてにならないことは、就職活動で身にしみていた。自分の親の言うことすらろくに聞けないわたしが、結婚して夫やその親とうまくやっていけるとは、思えなかったのだ。
「おー来た来た。お疲れー」
遅れて入ってきたのはヨシカワだった。
「結婚おめでとう」
ヨシカワはサヤカに、声をかけた。
サヤカはニッコリした。
「ありがとう」
「『できちゃった』なの?」
「ちがいます」
サヤカは目を見開いて、ヨシカワをにらみつけた。
いきなりそれは、なくない!? と可愛らしく憤慨するサヤカを意に介さず、ヨシカワは懐をさぐって、あっタバコ切らしてた、ちょっと買って来るわ、と来たばかりなのに踵を返し、店を出た。
「ヨシカワ、やせたね。仕事大変なのかな」
いなくなると、誰からともなくそんな声が出た。
「大変だよ。だってあいつ、あの会社だよ」
答えたのは、ナカムラという男子だった。成績がよく、近県の国立大を出ていた。ナカムラが口にしたのは、とある消費者金融会社の名前だった。
「俺の大学からも、そこに入ったやつがいるんだけどさ」
「お前の大学から消費者金融?」
「そうだよ。だって就活めちゃ厳しかったじゃん。ていうかヨシカワだってけっこういい大学出てるだろ。あの会社、ゴールデンタイムにバンバンCM流してるしさ。景気いいんだよ。でも仕事はエグいらしいぜ。債権回収? 取り立てみたいな…… まあ、ヨシカワがそういう仕事なのかはわからないけどさ」
つづく