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業務改善でありがちな「どれが一番か」という愚問に隠された管理職の機能不全

 具体的改善策として、パッケージ導入やSaaSの利用を検討する際に必ず沸き起こる「どれが一番か」という議論。

 どれが一番なのでしょう?

一番じゃなきゃ、だめですか?

 確かに、一番が、一番いいでしょう。何がいいか?一番は、やっぱり気分がいいです。

 しかし日本の「真似っこ文化」は、似たような多くのサービスを生み出します。これが過当競争を引き起こし、皆が皆の首を絞める、というのが“風土”のようになっています。その似たようなサービスから、どれが一番かを選ぶのは至難の技です。

 そうした背景から、その決断を後押しする仕組みとして「クチコミ」なるものも発展してきました。何かを選ぶ時、まず「クチコミ」を参考にする、という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 少し話が逸れますが、クチコミの代名詞ともいえる国内有名旅行サイトの「クチコミ」は、あまり...簡単にイカサマ...信用できな......。ちょっと電波の調子が良くないようなので、この件は別の機会に詳しく触れさせて頂きたいと思います。

 とにかく、あまりに似たようなサービスがありすぎて、目移りしてしまいます。これがファッションや趣味のものなら大歓迎なのですが、業務で使うものとなると、選定が難航する種としか思えません。

 めぼしいサービスの「比較表」なるものをこさえて、慎重に選定を進めることでしょう。

何を基準として一番か

 そもそも、何の一番を求めているのでしょう?

 総合的に一番、というのは少し抽象的過ぎます。どうであれば総合的に一番かというのが定まりません。多くは、例えば機能や、操作性、コストなど、重きを置きたい事柄に重点を置きつつ、総合的に選定されるのではないでしょうか。

 ただ、コスト重視とはいえ、若干お高いこちらのサービスのこの機能は便利そうだし...
 こちらのサービスは最安値だけどクチコミが良くないし...
 こちらのサービスはそこそこ安いけど導入実績が少ないし...
 こちらのサービスは営業マンが熱心だし...

 なにに重きを置くかはケースバイケースでしょうが、結局は、他の要因にも大きく影響されてしまいます。ちなみに業務改善屋は、そのサービスの「伸びしろ」を重視するのが良いと考えています。

 もう一点悩ましいことは、確実な導入実績の積み重ねがある「老舗サービス」を選ぶか、最新の機能を実装した新しいサービスを選ぶか、という問題。

導入実績と新しさの天秤

 まったく新しい機能を持った素晴らしいサービスが誕生したとしても、誕生間もない時期には導入実績はありません。

 一方、旧式のテクノロジーであっても、その時代に得た輝かしい導入実績があります。

 さて、どちらを選ぶべきでしょう?

 新しい機能は、次々に生まれます。今、最新であっても、今、最新であるだけです。それが素晴らしいかどうかの評価もされていません。「新しいもの=良い」という新奇性と、その新しいものがまだ多くの人に利用されていないという希少性に囚われてしまうと、奇をてらっただけのものでも素晴らしく見えてしまう恐れがあります。

 導入実績が多い老舗サービスは「安定板」と言えますが、時代に即したアップデートが為されないと、先々足手まといになってしまうリスクがあります。単に導入実績だけを見て評価するのは、「多数派同調バイアス(=みんなと同じならば大丈夫)」が働いているに過ぎません。

 「何を目的に、選定しているのか」という本質に照らし、目的に沿った選定を進める必要があります。

 その目的が“新しいサービスを導入すること”や“導入実績が豊富なサービスを導入すること”ではなく、ある業務を改善するために選定していることを忘れてはならないのです。

 結果的には前述のどちらでもなく、「そこそこ導入実績がある、比較的新しいサービス」が選定の対象となってくるでしょう。そこに「伸びしろ」を加味すれば、おおよそ選定が進むのではないでしょうか。

どのジャガイモが一番か?

 スーパーで売られているジャガイモ、値段も品種も様々です。さて、どのジャガイモが一番でしょう?

 用途によって煮崩れしないとか、甘みが強いとか、ホクホク感とかでまず品種を選び、その中から一番「新鮮そうなもの」を選んだりしますよね。ところが、同じカレーにしても「男爵」がいいという人もいれば、「メークイーン」だという人もいます。

 もし、「カレーにはメークイーンを入れると一番うまみ成分が増す」と科学的に証明されたとしても、まだどれが一番新鮮なのかという議論は残ります。そもそも、新鮮なものではなく、ある程度寝かせて熟成させたほうが、カレーの旨味を引き出すのかもしれません。

 どのジャガイモが一番か?は、選ぶ人の価値観によるもので、絶対的な一番というものは存在しないのです。それはジャガイモに限らず、絶対順位が付けられないものすべてに言えます。パッケージやSaaSも絶対順位は付けられません。

 そういったものの、どれが一番かを議論するのは無駄なのです。議論することによって「仕事している感」は得られるかもしれんせんが、永久に結論は出ないでしょう。

「一番」ではなく「適切」を選ぶ

 パッケージやSaaSを導入するにあたり、なにが一番か?は愚問、それを追求することは無駄です。

 何を選ぶかは、選定を任された担当者の主観で「適切」なサービスを選べばよいのです。それが「一番」かどうかは関係ありません。一番だと思ったジャガイモが、一番です。

 目的は一番のサービスを導入することではなく、ある業務を改善することです。一番だろうが、二番だろうが、その業務を改善できる機能を有し、費用対効果が見込めるものであれば良いのです。

 そして、どのサービスを選んだとしても、知り得る結果は「実際にやったこと」のみです。後々「あっちにしておけば良かった」と思うことがあるかもしれませんが、それは想像にすぎません。もともとそっちにしていたら、別の問題で「あっちにしておけば良かった」と思うかもしれません。

 実際に選んだものの結果は真実ですが、それ以外は想像です。想像はいかようにも膨らませることができます。真実と想像を比較するなら、想像のほうが圧倒的に有利でしょう。

 「一番」を選ぶ無駄な選定作業や議論はすべて省きましょう。いずれかの「適切」なサービスを選定し、目的である業務改善をいち早く進めるのが合理的です。

まとめ

 ところで、どれが一番かという議論は、「一番を選べ」と命ぜられたことから始まっているのではないでしょうか?

 命ぜられた側は「どれも一緒だよ、ウェ~」と思いながらも、命令権者を納得させるだけの資料を作らなければなりません。でも、その感覚は正しいです。どれも一緒です。その資料を作るのは無駄な業務、「ウェ~」です。 

 どれが一番かを選ばせることは遂行不可能な業務の強制にあたり、パワハラだと考えられます。つまり、どれが一番か?という愚問の発端はパワハラ上司で、パワハラ上司が無駄な選定議論を生み出していると言えるでしょう。

 パワハラ上司は、どれが一番か?を自分で解決することができません。そんなことは誰もできないから当然です。選ぶべきは「一番」ではなく「適切」なサービス、ということに気づいていないのです。この重大な管理職の機能不全が、「何が一番か?」問題の本質であると考えられます。無理難題を、自分ができないから人に命ずる(=やらせる)という、最悪の結果をもたらしています。

 そしてパワハラ上司は、漏れなく選定過程や結果に口を挟みます。ただしそれは、何の知識にも基づかない、ただの感想です。それがパワハラ上司の「業務」です。その対応は命ぜられた人にとっては新たなる無駄な業務、これも「ウェ~」です。

 こうした製品選定における不合理にも、特に新しいサービスが大好きな「思い付き部長」と、その配下の「虚栄心課長」が関わっていると考えられます。ぜひ、ご一読いただければと思います。


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